イカは自分の伝令RNAを編集し複数のタンパク質を生み出すというスーパースキルを持っていることが判明(米研究)

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イカは自分の伝令RNAを編集し複数のタンパク質を生み出すというスーパースキルを持っていることが判明(米研究)
イカは自分の伝令RNAを編集し複数のタンパク質を生み出すというスーパースキルを持っていることが判明(米研究)

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 頭足類類は知れば知るほど魅力的な生き物だ。非常に高い知能を備え、しかも食べて美味しいイカに、驚愕の能力が発見されたそうだ。

 それは自分の遺伝情報を編集するというスーパースキルで、一つの種類のmRNAから複数の種類のタンパク質を作り出せるのだそうだ。これを利用すれば遺伝性の難病の治療にも役立つかもしれないという。
・DNAの情報を伝える伝令RNA

 私たちの体の設計図であるDNAの情報は、「伝令RNA(mRNA)」という分子によって読み取られている。細胞核の内部で情報を読み取ったmRNAは、短いメッセージを携えて外部へと送信される。こうして作り出すべきタンパク質の情報を細胞質に伝えるのだ。

 一度、細胞核の外へ送信されてしまえば、基本的にmRNAが変更されるようなことはない。とは言っても、どの生物もある程度ならRNAを編集している。

 人間の場合、このRNA編集の不具合は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった病気の原因になっている。またRNA編集は免疫系にも関連しているし、ミバエの研究からは、温度変化への反応を助けている可能性もあることが分かっている。

 いずれにせよ、人間でもたった数百ヶ所程度のごく小規模な話だ。

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Vallecillo-Viejo et al。、Nucleic Acids Research、2020

・地球上でイカのみが細胞核外でRNA編集できる

 しかし「アメリカケンサキイカ(学名 Doryteuthis pealeii)」というヤリイカの仲間は、このRNA編集をとんでもない規模でやってのける。人間なら数百ヶ所でなされるに過ぎないRNA編集を、このイカは6万以上の神経細胞で行っているのだ。

 じつは、このこと自体はすでに知られていた。だが今回、ウッズホール海洋生物学研究所(アメリカ)をはじめとする研究グループが発見したのは、このRNA編集がイカの「軸索(神経繊維)」でも行われているということだ。

 つまり細胞核の外側でもRNAが大量に編集されていたのだ。そんなことができる動物これまでにいなかった。地球上でできるのはイカのみということだ。


アメリカケンサキイカ Longfin Inshore Squid, Back Beach, MA

・イカやタコなど、頭足類の賢さの秘訣か?

 では、なぜイカはわざわざRNAを大量に編集するなどということを行っているのだろうか? はっきりしたことは分からない。

 だが、研究グループによると、イカやタコはどれもRNA編集を利用しており、それによって神経系で作られるタンパク質を多様なものにしていると考えられるのだそうだ。イカやタコが無脊椎動物の中ではバツグンに賢いのも、これが理由の1つであるかもしれないという。

 また、水温のような環境の変化に順応するメカニズムとも関連している可能性があるとのことだ。

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Charlotte Bleijenberg/iStock

・より安全な新しい遺伝子治療の可能性

 RNAを編集するというイカのスーパースキルは、遺伝子治療の研究者にとっても興味深い話だ。

 遺伝子治療と言うと、ゲノム編集技術「CRISPR」などを利用したDNA編集が思い浮かぶ。しかしDNAの変更は不可逆的なもので、変更された遺伝情報は恒久的に体に残り、その人から子へと受け継がれていく。

 万が一、DNA編集治療によって欠陥が紛れ込んでしまうと、せっかくの治療がかえって仇となってしまう危険性もある。

 ところがmRNAの場合、未使用のものはあっという間に劣化してしまうという特徴がある。たとえば治療で紛れ込んでしまった欠陥があっても、それが患者の体に永久に残ることはなく、すぐに消えてしまう。

 「RNA編集は、DNA編集よりもずっと安全です。万が一、間違ってしまっても、RNAならひっくり返っていずれ消えてしまいます」と研究の中心人物ジョシュア・ローゼンタール氏は話す。

 今回の研究だけでなく、RNA編集は現在盛んに研究されている分野だ。

 たとえば、2018年には米国食品医薬品局が、RNA干渉を利用した「遺伝性ATTRアミロイドーシス」の治療を許可している。

 この治療では、小さなRNAを患者の細胞に挿入し、もともとそこにあったmRNAと結合させて、その劣化を加速させる。こうすることで、病気の原因となっている神経を傷つけるタンパク質を阻害するのだ。

 昨年などは、RNA編集関連論文が400本を超えるほどの流行ぶりだ。RNA編集で筋ジストロフィーなどの遺伝性疾患の治療を試みるスタートアップもすでに数社存在するそうだ。

 この研究は『Nucleic Acids Research』(3月23日付)に掲載された。

追記(2020/03/28)本文を一部修正して再送します。

References:futurism / sciencealert./ written by hiroching / edited by parumo
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