齊藤工「“不自由だ”と嘆くのではなく、笑いに転化する」映画監督への意気込みを語る

日刊大衆

齊藤工(撮影・弦巻勝)
齊藤工(撮影・弦巻勝)

 小学4年生のとき、初めて海外に行ったときのことです。イギリスに向かう飛行機の中で世界地図を眺めていたら、日本がないんですね。「そんなわけはない!」と見直してみると、地図の真ん中にはイギリスがあって、右の端っこにちょっと歪んだ島があって“JAPAN”って書いてある。そこで「ああ、僕がいる場所はここなんだ……」とショックを受けたんですよね。必ずしも、日本が真ん中にあるんじゃないんだ、と。

 そのときに見た地図のビジュアルは、今でも頭の中にあります。国によって物事の基準は違うし、僕の基準は地図の右端にある小さな国における、ちょっと特殊な基準なんだという思いはずっと消えません。

 そういった意味で、『昼顔』に出演してから“セクシー俳優”と言われることや、“バラエティ番組ではじけちゃう俳優”と思われることは、けっして嫌じゃない。「それは日本と
いう国におけるイメージ」だというふうに捉えています。

 ただ、映画監督……作り手としては、「作品が世界地図の中でどう評価されるのか」というところで闘っていきたいと強く思っています。僕が誰であるかなんて関係ない。“作品至上主義”でいたいんです。

 今回、『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』という映画の総監督を務めました。この作品は“コンプライアンス”という名の自主規制がエスカレートして日々感じる窮屈さだったり、それに慣れてしまっている自分だったり、適応している世の中だったりに疑問を感じたことが出発点でした。

 テレビに映るペットボトルからはラベルがはがされていますし、映画やドラマではどんなときにも車に乗ったらまずシートベルト。言ってはいけないこと、映してはいけないものが、今は山のようにある。

 でも、それを「不自由だ」と嘆くのではなく、僕がかつて好きだったスネークマン・シ
ョーやモンティ・パイソンのように、笑いに転化する方法が一番クレバーなんじゃないかと思ったんですね。だから、僕が監督したパートに関しては、ほとんどコメディ。表向きは“社会派の問題作”みたいな感じになっちゃってますけどね(笑)。

■「ふだんやりたいけどできないことをやってください」

 僕が映画を作るときはいつも、俳優やスタッフに「ふだんやりたいけどできないことをやってください」と伝えます。

 今回の現場では、今のテレビや映画でNGとされている言葉をリストにして、俳優の方々に渡しました。脚本はあってないようなもので、「ここに書いた言葉を、だんだん多く口にしていってください」と。劇中ではこれらの言葉にあえてピー音をかぶせていますが、エスカレートしていくと、台詞はピー音だらけになるわけです。そこが面白いと思ったし、現在のコンプライアンス的な世の中を象徴できるのではないかと考えたんです。

 監督としては、この世界に入ったときの好奇心みたいなものを、一番味わえる現場を作りたい。

 俳優としては、僕の個人的な理由で現場を止めないように――作品の歯車のひとつである自分が、その動きを止めてはいけないと心に置いています。

 今年は、幸いなことに数多くの作品に俳優として参加させてもらっています。僕はネガティブな人間というわけではありませんが、すべてがうまくいく可能性を思い描いてしまうと、それがかなわなかったときに耐える体力がない(笑)。だから、俳優としての自分は、“儚いもの”だと思っていたほうがいいような気がしていますね。

齊藤工(さいとう・たくみ)
1981年生まれ、東京都出身。俳優、映画監督など多彩な才能を発揮。4月からはドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)に出演。6月には出演映画『騙し絵の牙』が公開される。21年公開予定の『シン・ウルトラマン』では主演を務める。「齊藤工」名義で監督も務め、『半分ノ世界』『blank13』『MANRIKI』といった数々の受賞作品を残している。また、写真家としても活動し、ルーヴル美術館に作品が展示されるなど高い評価を受けている。

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