沖縄で格闘技を盛り上げるファイターのもうひとつの顔(後編)

日刊大衆

砂辺光久
砂辺光久

バナー題字・イラスト/寺田克也

沖縄県那覇市で、2014年から「reversal GYM OKINAWA CROSS×LINE」を運営しているパンクラス軽量級のパイオニア・砂辺光久。3階級の王座を獲得し、昨年7月には同団体初の殿堂入りも果たした砂辺は、沖縄の格闘技シーンを盛り上げてきた1人でもある。その砂辺は、今の状況をどう見て、どのように乗り越えようとしているのだろうか。前編に続き、格闘家、ジム経営者、そしてもうひとつの顔についても話を聞いた。

※前編はこちらから

 砂辺は4年前の2016年から、障がいを持つ小学生~高校生までの児童の放課後や休日、長期休暇等に充実した療育を提供する放課後等デイサービス「クロスライン」をジムに併設する形でスタートしており、こちらの営業も続けている。

「本来なら学校も始まっているはずの状況で、親御さんや子どもたちの要望に応えたいということで開けています。通常なら放課後に迎えに行くんですが、今は休日運行という感じで、11時から14時まで見ています。

 もちろんジムと同じように、受け入れ態勢はしっかりと整えています。職員(ジムのスタッフが兼任)はマスク着用を義務として、検温、消毒は徹底。接触にも気を使って、子どもたちも自分たちも感染しないように細心の注意を払っています。

 以前なら土曜や祝日はショッピングモールに出かけたりもしていたんですが、今は公園や近くのビーチなど、自然の中で過ごすようにしています。暑い日はヒザまで海に浸かったりもして、少しでもストレス発散になってくれればと思っていますね。親御さんたちも仕事がある方がほとんどなので、『開けてくれてありがたい』という声を多くもらっています」

 ジム経営、放課後デイサービス運営と、様々な顔を持つ砂辺だが、もちろん現役選手としての顔も忘れてはいけない。本来なら4月には、パンクラスでストロー級暫定王座決定戦に臨むことが決定していたのだ。また、所属選手2名も4月の修斗沖縄大会での試合が予定されていた。

■試合がなくなって

「僕も含めてジムの所属選手全員、試合がなくなってしまいました。僕は3月頭から軽く減量を始めて、しんどい練習を重ねているうちに刻々と状況が変わってきました。中止という話を聞いたのは試合まで3週間を切ったぐらいのタイミングで、体重も5kgぐらい落としていました。

 気持ちの上では、中止決定と聞くまでの間が一番大変でしたね。本当にやれるのか、相手の外国人選手は来日できるのか、といろいろ考えながらの練習でしたから。

 7月にパンクラス沖縄大会を予定していたので、開催できるならそこに暫定王座決定戦をスライドすることで了解を得ていますが、この状況だと大会の開催自体が難しいかもしれません。

 自分は、格闘技は他のスポーツと変わらないものであってほしいと思っているので、バスケなど他のプロスポーツが、屋内で観客を入れての開催を再開しているのであれば、7月19日に予定通り開催します。でも5月中旬までにそれができていなければ、白紙に戻さないといけないと思っています。

 若い選手たちは、出稽古などはせずうちのジムだけでプロ練習をやっています。4月26日の試合は中止になったので、相手の対策から個々の力を高める練習に切り替えています。残念ですが、焦っている様子はないですね。『砂辺さんも試合できないけど、不満は言っていないから』と思ってくれているのかもしれないです。そうだとすると、タイミングが重なったのはよかったと言えるかもしれません」

■”この状況で何ができるか”が大切

最後の試合から10カ月、本人はもちろんファンも次戦を楽しみにしているはず 最後の試合から10カ月、本人はもちろんファンも次戦を楽しみにしているはず

「先が見えないですからね。それならここで生き抜く術を考えなきゃと思って、そこにシフトチェンジしています。いくら自分が叫んでも、今の状況が収束することはないですよね。だったらこの状況で、選手として経営者として、どうやって生き抜くか。そこをシフトチェンジして考えていかないと厳しいのかなと」と語る砂辺。

 確かに思うようにならないことばかりだが、だからと言ってたちどまっているわけにはいかないということだ。また、この状況だからこそ発見したこともあるという。

「11月ぐらいにYouTubeチャンネルをスタートしていたんですが、初めてYouTubeライブをやってみたら、すごくたくさんの人が集まってくれたんです。多くの人が格闘技を欲してくれているということがわかりました。その熱があることを自分が確認できたこともうれしいし、見に来てくれた人たちが格闘技を忘れずにいられる場所を提供できたことがよかったと思います。今、いろんな格闘家がYouTubeを始めてるのはいいことだと思いますね。

 ないものねだりをしてもしょうがないじゃないですか。できないことを挙げて不満を言っていても状況は変わらないので、代替になるようなことを勉強しています。ZoomとかYouTubeとかですね。『この状況で何ができるか』ということをいち早く考えないと、その場で地団駄踏んでたって変わらないですから。

 ファンの方たちも、今、何ができるかを考えてみるといいと思います。例えば、YouTubeでいろんな選手の映像を見てみるとか。今は五味隆典さんを知らない人、試合を見たことないという人もいっぱいいると思います。『今は国会議員になってる須藤元気って、どんな格闘家だったんだろう?』と思って見てみるのもいいでしょうし。見てみたら新鮮な驚きがたくさんあると思うし、深掘りできるいい機会だと思います。

 興行が開催されている時期は前に進むしかなくなるけど、今は過去にさかのぼって深掘りする時間があるじゃないですか。そう捉えてもらえるとうれしいし、また前に進むときの楽しみが2倍、3倍になると思います。この状況はいずれきっと収まるはずなので、そのときに自分が楽しめるように、勉強していてもらえたらいいと思いますね」

 砂辺選手の試合も振り返ってもらういい機会では?ということで、1試合挙げてもらった。

「一つ挙げるなら、伊藤崇文戦(2015年7月5日)ですね。当時、賛否両論あり過ぎた試合です。パンクラスが新体制になって、前に進もうとしている酒井代表に対して、僕一人だけが後ろに戻った。あれは僕にしかできなかったし、もうそういうこともないでしょう。昔はすごかったんだぞと思ってもらえれば(笑)」

↓対戦前に配信されたトレーラー。2人のマイクが熱い!

 新規感染者ゼロの日が1週間以上続くなど、“先”が見えてこようとしている沖縄。砂辺の、そして沖縄の選手たちの“先”はどうなっていくのか。再びリングで戦える日のために、彼らは「今できること」をしっかりと、着実にこなしている。

(取材・文=高崎計三)

砂辺光久(すなべ みつひさ)
1979年沖縄生まれ。総合格闘家、プロレスラー。「reversal GYM OKINAWA CROSS×LINE」代表。アマチュアパンクラス2連覇の実績を高く評価されプロデビュー。ストロー級、フライ級、スーパーフライ級の3階級でキング・オブ・パンクラシストのベルトを腰に巻く。2019年にはパンクラス初の殿堂入り選手として認定される。
https://crossline-gym.com/

高崎計三(たかさき けいぞう)
1970年福岡県生まれ。編集者、ライター。ベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や『プロレスカード』に携わる。02年、(有)ソリタリオ設立。現在はウェブ、雑誌等の紙媒体など様々なメディアで活動中。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)などがある。
Twitterアカウント:@solitario_k

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