「修斗のカリスマ」は冷静に状況を読みながら終息を待っている

日刊大衆

佐藤ルミナ(左) 現役時代は “月狼”と呼ばれたことも
佐藤ルミナ(左) 現役時代は “月狼”と呼ばれたことも

バナー題字・イラスト/寺田克也

現役時代は「修斗のカリスマ」と呼ばれ、専門誌だけではなく、多くの雑誌の表紙を飾るなど、競技の人気をけん引した佐藤ルミナ。2014年に現役を退いてからは、自らが代表を務めるジムの経営にとどまらず、アマチュアを含めた修斗の普及に尽力している。新型コロナウィルスの感染がようやく落ち着きを見せ始めた今、近い将来に向けての気持ちを聞いた。

「今日はちょっと前まで会員向けのライブ配信をやっていました。インターネットによるオンラインクラス。でも、この昼間クラスの参加者はゼロでした。でも途中から誰か入ってくる可能性があるので、ずっと画面の前で待っていなければいけなかった。なかなかシュールな時間でしたね(微笑)」

 4月7日以来、佐藤ルミナは小田原駅前に構える修斗、柔術、総合格闘技の3つを軸にした格闘技ジム「roots」(ルーツ)を休館にしている。その姿勢は5月7日、非常事態宣言が延長されても変わることはなかった。

「基本的に僕は石橋を叩いて渡るタイプ。だから普通のジム経営者より安全寄りの立場にいる感じがします」

 クラスは冒頭に記しているようなオンラインのみ。あとは会員限定の動画配信を行っている。

「オンラインレッスンを行うため、ずっと誰もいないジムにいます。それでなくてもウチは広いので、余計に寂しい」

↓オンラインレッスンの様子

 取材をした時点で6月から営業再開というスケジュールを立てるが、すぐ元に戻らないことは覚悟している。

「悲しいかな格闘技は濃厚接触の職業なので一般スポーツ以上にコンタクトする機会が多い。なので、いきなり『グラップリングや柔術をやりましょう』というふうにはならない。段階的にやらないといけないでしょうね」

 非常事態宣言が延長されてからの関東圏の格闘技ジムの対応は十人十色。rootsのように完全に休館しているところもあれば、オープン時間を短縮したり、プライペートレッスンだけを行っていたりするジムもある。

教え子の試合では、コーナーには必ずセコンドに付くルミナの姿が 教え子の試合では、コーナーには必ずセコンドに付くルミナの姿が

■100均の材料で作れるダミー人形

 第三者の意見に耳を傾ける姿勢を持つルミナはどんな姿勢も否定しない。

「今回のコロナ騒動に関していえば、正解不正解はまだわからない。10年くらい経ってから『あのやり方はマズかったよね』というふうになるんじゃないですか。長いスパンで見ないとわからない」

 その一方で社会に蔓延する閉塞的な空気の中、格闘技関係者同士がSNSで衝突することも。お互い否定しあうような場面を目の当たりにすると、ルミナは悲しくなると呟く。

「もう少しお互いの立場に立って考えたら、ちょうどいい折衷案が出てくるんじゃないかと思う。ストレスがエキサイトさせる要因になっているのかもしれないけど、自分と異なる意見を尊重できない姿勢はイヤですね」

 ルミナは苦しい中から新しく楽しいアイディアを捻り出す。100円ショップで売っているプールスティックを使って製作した寝技練習用のダミー人形もそのひとつだろう。

「最近はちゃんとしたグラップリングダミーもある。ウチも買ったばかり。すごくいい商品なんだけど、すごく重い。だから一般家庭には絶対置けない。それに比べたらプールスティックを使った人形は安いし軽いし簡単に作れる。子供のオモチャにもなるので、コロナ時代には最高の発明だと思います」

↓ダミー人形の作り方

 大会に目を向けてみると、海外ではUFC、国内ではABEMAが音頭をとる形でROAD TO ONEや修斗が無観客試合をスタートさせている。ルミナは「アメリカではトランプ大統領がUFCの再開を支持している。そのへんがアメリカ的だと思いますね」と驚く。

「ペイパービューの視聴率も高いと聞きました。コロナでストレスがたまっているので、アメリカの人たちはスポーツイベントの再開を心待ちにしていたんじゃないですか。無観客でのUFC再開は、ABEMAと同じ発想だと思う」

 ルミナはジムを切り盛りする一方で、日本修斗協会理事長としてアマチュア修斗を運営している。規模によって試合数を多く組み、セコンドを含めると参加者は多人数となるアマチュア大会は、その開催に慎重にならざるをえない。

 非常事態宣言を受けアマ修斗も4月26日に開催予定だった沖縄選手権以降大会を延期している。今後の予定は内部で話し合いながら段階的に決めていく予定だ。

「活動再開は感染リスクの少ない地方からになると思います。関東地方で開催する大会の再開は一番遅くなると思う」

 当初の予定では4月から全国10箇所に分かれた地区予選を行い、10月18日に全日本選手権を行う予定だった。コロナの影響で、すでに6大会ほど開催を延期しているという。

「現時点では7~8月に地区大会があって、予定通り10月に全日本選手権というスケジュールがベスト。ただ、現実問題として2カ月で全ての地区大会を行うことは難しい。なので最悪東日本選手権と西日本選手権のふたつだけにして全日本選手権につなげるというプランも考えています」(※取材後日、全日本選手権は10月から12月にスライドすることが決定)。

2006年からは、地元小田原の地でアマチュア修斗の全日本選手権を開催 2006年からは、地元小田原の地でアマチュア修斗の全日本選手権を開催

■基本理念は打・投・極

 日が経つごとに世間の空気は弛緩しつつあるが、それでもルミナは慎重な姿勢を崩そうとしない。

「格闘技の大会は東京での開催が多い。都内だと重病の患者が多いので、万が一格闘技でケガをして病院に担ぎ込まれたら、医療に負担をかけることになりかねない。アメリカのコロナの状況は州によっては日本よりひどいというのに、UFCの無観客試合第1弾では眼窩底骨折するくらいボコボコにされていた試合がありましたよね。『いきなりやってるじゃん』と思ってしまいましたね」

 5月下旬現在、満足に練習にできない環境に置かれる格闘家はいまだ多い。それでもルミナは「それはみんな一緒。だからハンディではない」と言い切る。

「結局限られた環境の中でもやるべきことはあるわけで、それをしっかりできる選手が自分のポテンシャルを落とさずに試合を待つことができるんじゃないですかね。だから環境を言い訳にしてほしくない。頭を使ってやるべきことをやったほうがいい」

 rootsのロゴマークにデザインされた3つの青い炎は修斗の基本理念である打・投・極の止まることのない回転を表現している。非常事態宣言中、その速度は遅くなってしまったが、まだ一度も止まったことはない。

 取材後、記事公開の直前にrootsがある神奈川県でも非常事態宣言の全面解除が発表された。それに伴い、5月27日からクラスレッスンは設けない形で、プライペートレッスンを中心に制限を設けながら営業を再開している。

(取材・文=布施鋼治)

佐藤ルミナ 佐藤ルミナ

佐藤 ルミナ(さとう るみな)

1973年神奈川県小田原市生まれ。修斗ジム「roots」代表。94年修斗でプロデビュー。日本人として初めて黒帯ブラジリアン柔術家からの一本勝ち、開始僅か6秒での一本勝ちなど、躍動感あふれるアグレッシブなファイトスタイルで「修斗のカリスマ」と呼ばれる。2005年には初代修斗環太平洋ライト級王者に。14年に現役を引退。現在は総合格闘技のスポーツとしての普及に尽力する。日本修斗協会理事長、アマチュア修斗委員会委員長。

Twitterアカウント:@ruminasato

布施 鋼治(ふせ こうじ)

1963年北海道生まれ。スポーツライター。レスリング、ムエタイなど格闘技全般を中心に執筆。最近は柔道、空手、テコンドーも積極的に取材。2008年に『吉田沙保里119連勝の方程式』(新潮社)でミズノ第19回スポーツライター賞優秀賞を受賞。他に『なぜ日本の女子レスリングは強くなったのか 吉田沙保里と伊調馨』(双葉社)など。2019年より『格闘王誕生! ONE Championship』(テレビ東京)の解説を務めている。

https://www.facebook.com/koji.fuse.7

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