窪田正孝・二階堂ふみ『エール』高視聴率を生んだ“朝ドラ新戦略”

日刊大衆

二階堂ふみ(左)窪田正孝
二階堂ふみ(左)窪田正孝

 連続テレビ小説エール』(NHK)で描かれる夫婦像が、ここのところ話題だ。音(二階堂ふみ/25)が子どもを出産したが、そこに至るまでの夫、裕一(窪田正孝/31)とのやりとりが切なかった。ここでは、子どもをちゃんと産みたい、それでも声楽家として舞台にも立ちたいという、音の葛藤が丁寧に描かれていた6月5日の放送回をふり返ってみよう。窪田正孝と二階堂ふみ、ダブル主演ならではの魅力が明らかになったのだ。

 裕一が家に帰ると、音の姿がない。音は妊娠のため歌の練習ができないことに焦り、夜の学校で1人、練習に励んでいたのだ。これを発見した裕一は「君は舞台に出るべきじゃない」と、厳しく言い放つ。音は裕一に反抗するが、「この子に会いたい、歌も諦めたくない」と本音を語り、泣きじゃくるのだった……。

「音はなにひとつあきらめる必要ないから、そのために僕はいんだから」と音に寄り添った裕一が、主人公らしい存在感を放った。「ありがとう。音に裕一がいて良かった、朝から号泣」とツイッターでも絶賛され、この美しい夫婦愛に涙を流した人も多かったようだ。

 ここであらためて注目したいのは、この『エール』の主役が裕一であるということ。朝ドラの男性主人公は2014年下期に、玉山鉄二(40)が主役を演じた『マッサン』以来、久々だ。それでも『エール』は、女性が主役を演じるいつもの朝ドラと、まったく同じように見られるから不思議だ。実は窪田が演じる裕一は、男性ではあるが、ヒロイン的な役割を担っているのだ。

 窪田正孝はその繊細な演技とかわいらしさに定評があるが、頼りなさも表現できるため、苦悩シーンが多くどこかなよっとしている裕一というキャラが実にハマっている。一方で、妻の音は勝気な性格。二階堂ふみの静と動のメリハリがある演技が音の魅力を引き出し、誰が見ても窪田正孝とのダブル主演ドラマとなっている。強気な音と弱気な裕一という配役の妙が、ヒロインが悩み成長する、いつもの朝ドラらしさをキープしているのだ。

 このダブル主演システムは2つのメリットを生みだした。まずあげられるのが見やすいストーリー展開だ。6月1日からの第10週が音の目線で描かれ、6月8日からの第11週は裕一が主役となった。裕一、音の見せ場が交互に描かれることで、ドラマにより奥行きが感じられるようになる。今作から、これまでの週6回から週5回に放送回数が減ったが、それでも物足りなさがないのは、ダブル主演のおかげだろう。夫婦を両側面から丹念に描けるため、物語に深みが出てくるのだ。

■ダブル主演はうれしい経済効果も

 演出面でも、明らかにダブル主演を意識している。『エール』は徹底して、裕一と音を対等に描く。2人の子ども時代や家族関係を丁寧に描き、裕一=福島、音=愛知という地元感も強調。裕一だけじゃなく、音も主役であることを印象づけてきた。これが2つめのメリットを生む。それは、物語の舞台を増やせるということだ。

 朝ドラは「ヒロインの地元」が注目される。たとえば来年春スタートする、清原果耶(18)主演の『おかえりモネ』の舞台は宮城県気仙沼市だが、早くも地元では盛り上がっている。地方にとって、朝ドラの舞台に選ばれることは、もうお祭り騒ぎ。関連グッズやイベントなど、朝ドラをきっかけに観光業が盛り上がるからだ。今回の『エール』のように一度で複数のエリアを舞台にできれば、ドラマの注目度を上げつつ、さらなる地域振興にも貢献できる。残念ながら今作はコロナ禍で観光客が押し寄せるということにはならないが、これは今まで朝ドラを全国展開し成功を収めてきたNHKの、新たな手法となるだろう。

 2か月『エール』を見て、こんな朝ドラこれまでなかったと感じると同時に、家族に仕事に愛情まで描く朝ドラらしい作品だとも思える。ダブル主演というシステムは、これからの朝ドラトレンドになる可能性は大だ!(朝ドラ批評家・半澤則吉)

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