俳優・大高洋夫の人間力「役柄の深いところにまで、とことん向き合わなければ役に失礼」

日刊大衆

大高洋夫(撮影・弦巻勝)
大高洋夫(撮影・弦巻勝)

 大学生のときに芝居を始めて、なんとか役者で食えるようになった20代後半くらい頃、先輩から言われたんです。「役者は芝居バカにならないように、趣味を持て!」って。

 それで、手当たり次第にいろんなことをやってみて、いろんなことに挫折して、残った趣味がパン作りと日曜大工と、裁縫。今日着ている作務衣も自作です。ひと目惚れして買った生地で作りました。いい柄でしょ(笑)。

 裁縫の面白さは、平面だった布地を切ったり縫ったりしているうちに、「形」になっていくところですね。パンも日曜大工も同じで、できあがっていく過程が、とにかく楽しい。できあがってしまうと、“ああ終わっちゃった……”と、少し残念な気持ちになります。

 基本的に僕は、“やりたがり”で“負けず嫌い”です。仕事であれ趣味であれ、やるからには、ちゃんとやりたい。何かに挑戦するとき、難しい道と楽な道があったなら、僕は必ず難しいほうを取ります。

 裁縫でいえば、見えないところの始末をキッチリやりたいし、仕事だって、役柄を自分の体と心できちんと感じてから演じたい。

 そう思うようになったきっかけは、四半世紀くらい前にやった舞台のピアニスト役でした。

 当時の僕のピアノは、簡単なコードくらいしか弾けないレベル。それなのに、どういうわけか劇中で3曲も弾くことになってしまった。しかもその中の1曲は、僕のピアノに合わせて、木村拓哉がタップダンスをするというじゃないですか!

 楽譜をもらってから本番までの2週間は、もう芝居の稽古どころじゃありません。もうひたすらピアノの練習ばっかり(笑)。

 それでついに迎えた初日。最初の曲、忘れもしないショパンの『ノクターン』を弾き始めた直後、頭が真っ白に……。タップの曲だけはなんとか弾けたのですが、冷や汗で全身がず
ぶ濡れでした。

 そのときに思ったんです。演じるからには、その役柄の深いところにまで、とことん向き合わなければ役に失礼だ、と。

■転がり続けていかないとダメだな

 以来、できうる限りの準備をして演じるよう、肝に銘じています。テレビドラマで寿司職人の役をすることになったときは、2日間だけだったけど寿司屋さんで修行させてもらいましたし、『人間合格』という芝居で太宰治役を演じたときは、太宰の作品を全部読みました。正直言うと、読んでもよく分からないところもあったけど、演じさせてもらう人が書いたものはすべて読むのが最低限の礼儀だと思って。

 そんなふうに生きてきて、去年の6月に還暦を迎えました。60歳になってしばらくは、特に思うところもなかったんですけど、だんだん人生について考えるようにはなってきましたね。

 俺はこれからどういうふうに生きて、何歳で死ぬんだろうか……。そんなことをふと考えるようになった。そして「転がり続けていかないとダメだな」って思うんです。“ローリングストーン”ですよね。「俺」という石にコケが生えないように転がり続けよう。簡単なほうより、難しいほうを選び続けよう、と。

 できることなら舞台の上で、一番好きなセリフを言った後に死ねたら最高ですね。

 昨年、『ゴドーを待ちながら』という芝居をやらせてもらったんですが、これは僕にとって非常に特別な作品です。念願かなって演じることになった「ウラジミール」役。ものすごい長ゼリフの最後に、「オレたちはゴドーを待っているんだ」と言うんですけど、これが一番好きなセリフです。

 いつか、「ゴドーを待っているんだ」と言って、パタッと死ねれば、本当に最高ですよね。共演者には迷惑かけちゃうと思うけど(笑)。それまではずっと現役で、転がり続けていきたいですね。

大高洋夫(おおたか・ひろお)
1959年、新潟県生まれ。大学在学中、鴻上尚史と共に劇団『第三舞台』を旗揚げし、ほぼすべての作品に中心俳優として出演。現在は舞台だけでなく、映画やドラマでも活躍中。代表作は舞台『朝日のような夕陽をつれて』『楽屋-流されるものはやがてなつかしき-』、映画『いぬやしき』、ドラマ『スローな武士にしてくれ』など多数。出演映画『はるヲうるひと』の公開が控える。

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