船が進まない。北極海で待ち受ける罠「死水」の謎が127年の時を経てついに解明(フランス研究

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船が進まない。北極海で待ち受ける罠「死水」の謎が127年の時を経てついに解明(フランス研究
船が進まない。北極海で待ち受ける罠「死水」の謎が127年の時を経てついに解明(フランス研究

死水の謎がついに解明/iStock

 1893年、ノルウェーの探検家フリチョフ・ナンセンは、ある不可思議な現象について記している。
 
 そのとき彼が乗っていた船は北極海を航行していた。エンジンは正常に作動していたし、それと分かるような自然の力に逆らっているわけでもなかった。それなのに、シベリア沖のノルデンショルド群島で船が前に進まなくなってしまったのだ。

 明白な原因が見当たらないのに、船が進まなくなるこの現象のことを「死水(Dead-Water)」という。ナンセンがこれを記述してから127年の時を経て、ついにその原因が解明されたそうだ。
・海水と淡水が接する面に生じる水中の波

 ノルウェーの探検家、ナンセンが観察した現象は、1904年にスウェーデンの海洋物理学者ヴァン・ヴァルフリート・エクマンによって実験室で再現されている。

 彼は塩水と真水が接する面に水中の波を生じさせることに成功。水面にできた淡水の層が抗力になることを発見した。

 ナンセンが観察したような、内部伴流によって生じる造波抗力を「ナンセン造波抗力」、エクマンが観察した動的抵抗によって生じる速度振動を「エクマン造波抗力」というが、後者についてはそれが生じる原因がよく分かっていなかった。

造波抗力
iStock

・浮き沈みするトレッドミルのように船を前後に動かす

 『PNAS』(7月8日付)に論文を掲載したポワティエ大学(フランス)をはじめとするグループによれば、「1世紀以上にもわたる死水効果の真の性質にまつわる謎を解明した」そうだ。

 実験では、ロープで模型の船を引っ張りながら、そのときに生じる波を高解像度カメラで撮影。ここから、船の前部とそこから後に続く船体のうねが浮き沈みすることで、凸凹としたトレッドミルのように作用し、船体を前後に動かすことが判明したという。

 ちなみにエクマン型の波が生じるのは一時的で、やがてその状態から逃れ、ナンセン型に変化するのだそうだ。


・死水は歴史をも変えた!?

 死水にはまった船乗りはナンセンだけではない。密度の異なる海水と淡水が混ざらず、海面に淡水の層ができるという現象は、氷河が解けて海に冷たい水が流れ込むフィヨルドではよくあることだ。

 またギリシャのアクティウム湾も死水が形成されやすい海だ。

 じつはこの海は、かつてクレオパトラと手を結んだアントニウスがローマの実権をかけてオクタウィアヌスに戦いを挑んだ舞台でもある。

 アクティウムの海戦は、アントニウス・クレオパトラ連合の敗北で終わった。一部の歴史家によれば、その敗因は、クレオパトラの船が死水にはまり、アントニウスを支援できなかったことにあるそうだ。

アクティウムの海戦
アクティウムの海戦 image by:Public Domain

The dual nature of the dead-water phenomenology: Nansen versus Ekman wave-making drags | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/07/06/1922584117
References:iflscience/ written by hiroching / edited by parumo
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