過信は禁物!福島県に伝わる世にも恐ろしい昔話「三本枝のかみそり狐」【上】
とかく嘘の多い世の中ですが、皆さんは詐欺に遭ったことがありますか?
「何であんな見え透いた手口に騙されるんだろう?自分なら、絶対に引っかからないのに」
傍目では何とでも言えるもの……しかし不思議なもので、騙されない自信がある人ほど引っかかりやすい傾向があるようですから、十分にご用心願います。
さて、そんな自信家は昔にもいたようで、今回はまんまと狐に化かされてしまった、とある男のエピソードを紹介したいと思います。
怪しい女を見つけた彦兵衛は……今は昔、ある村に彦兵衛(ひこべゑ)という血気盛んな若者がおりました。
「近ごろみんな、狐に化かされた化かされたと騒いでいるが、たかが畜生に、人間様が化かされるなど、あるものか!」
そこで早速、みんなが止めるのも聞かずに三本枝(さんぼんえだ)と呼ばれる村はずれの狐スポットへ、あえて黄昏時に出かけて行きました。
彦兵衛はどんどん暗くなっていく竹やぶの中をあちこち歩き回りましたが、狐は一匹も見当たりません。
「ふん……狐ども、この彦兵衛サマに恐れをなしたか。しょせんは畜生よ……」
もう気が済んだのか飽きたのか、それとも腹が減ったのか、そろそろ帰ろうと思ったら、竹やぶの向こうを若い女が歩いていました。母親のようで、背中には赤子をしょっています。
「ん?こんな時間、こんなところで何をしているんだ……?」
怪しい様子が気になった彦兵衛は、女の後をつけていくことにしました。
着物の裾から、尻尾が見えた!すっかり暗くなった竹やぶの中を、女はどんどん歩いていきます。後からつけてくる彦兵衛には気づいていないようです。
(もう随分と歩いたが、この先に何があるんだ?)
やがて竹やぶの向こうに灯りが見えてきました。どうやら彼女の家らしく、戸を叩いて呼びかけます。
「おっ母ぁ、おらだ。開けてくんろ」
こんなところに家などあったろうか……彦兵衛が訝しんでいると、女の着物から、何かがチラチラしているのが見えました。
(……尻尾だ!)
狐が化けて女になりすまし、老婆(母親)を騙そうとしているに違いない……そう確信した彦兵衛は、女が入ったあばら家へ押し込みます。
狐を懲らしめたい一心だったのでしょうが、この時点で彦兵衛の方がよほど犯罪的ではないでしょうか。
奪った赤子を、彦兵衛は……「誰じゃ、あんた!」
老婆と女がごく当然の反応を示すと、彦兵衛は得意満面で言いました。
「婆さん、気をつけろ。そいつはあんたの娘ではねぇ。そいつの着物から尻尾がのぞいていたのを、俺は見たんだ!」
いきなり何を言い出すかと思えば……老婆はてんから信じていない様子で、娘のしょっていた赤子を下ろし、自分で抱きかかえます。
「何を言うだか……これは確かにウチの娘で、久しぶりに里帰りしたんじゃよ」
そんな事よりも、かねがね楽しみにしていた初孫の顔が見られて嬉しい……老婆はしわだらけの顔をクシャクシャにしながら、赤子をゆすり、あやすのでした。
「あの……すみませんが……」
女は困惑の色を露わにしながら彦兵衛の退場を促しますが、彦兵衛は諦めません。
「いいや、俺は確かに着物の裾から尻尾がのぞいたのをこの目で見たんじゃ……婆さん、あんたが今抱いておるのは、きっと赤カブか何かに違いねぇ!」
そう言って老婆から赤子を引ったくり、両手に高々と掲げました。
「ああっ、何を!」
うろたえる二人を前に、ニヤリと笑った彦兵衛は次の瞬間。
「見ておれ、化けの皮を剥がしてやる!」
何と、赤子を火のついている囲炉裏(いろり)の中へ叩き込んだのでした。次の瞬間、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるのですが、いったいどうなってしまうのでしょうか。
【続く】
※参考文献:
川内彩友美 編『日本昔ばなし 里の語りべ聞き書き 第5集』三丘社、1989年3月
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