印象派画家モネと薄幸の妻カミーユ 作家が語る2人の「微笑ましいエピソード」 (2/3ページ)
――松井さんはカミーユという一人の女性に対してどんな印象をお持ちですか?
松井:幼い子どもたちを残して、夫の大成功を見ることなく、短い生涯を閉じた彼女は、そこだけを切り取ってみたらとても哀しい人です。ただ一方で、これだけ愛せる人と出会い、困難な時代に寄り添い続け、そして印象派の誕生という歴史的な瞬間に関わりながら生きられたということは、すごく羨ましいことです。本人には、そんな実感はなかったでしょうけれど。
それは確かに1つの素晴らしい人生でした。と、私は言いたい(笑)。
――モネとカミーユのエピソードの中で好きなものを一つあげるとするとなんですか?
松井:1つだけと言うなら、モネが『桃の瓶』という作品を描く場面ですね。ささやかで、穏やかで、でもこの上なく幸せな時間だっただろうと想像できるんです。
人って、お金を持っているとか、地位が高いといった分かりやすい指標を手にしているからといって、幸せを感じるわけではありませんよね。こういうふとした瞬間に感じる幸福こそが、心を満たしてくれると思うんです。
この小説には、「早世の」「薄幸の」と総括されてしまうカミーユの人生の中の、幸せの瞬間をできる限り書き込んだつもりです。時代の旗手になった画家とその妻の、微笑ましい日常を汲み取っていただけたらうれしいです。
――モネが描いたカミーユで松井さんが最も心を打たれた絵はなんですか?
松井:心を打たれたというカテゴリであれば、『死の床のカミーユ』です。亡くなった人の顔を描写するという、不遜とも思える行為を画家の性でやってしまうモネと、それすらも許すだろうと思われているカミーユ。画家とモデルであった2人だからこそ成立した鬼気迫る1枚です。86歳で亡くなったモネは、長男にも、次の妻にも先立たれているのですが、他に死に顔を描くことはありませんでした。
また、私が模写した『庭のカミーユ・モネと子ども』も大好きな作品です。