髭男爵山田ルイ53世インタビュー(1)「『パパが貴族』の“が”はガビーン!の“が”」

日刊大衆

山田ルイ53世(髭男爵)
山田ルイ53世(髭男爵)

10月21日に双葉社から新刊『パパが貴族』を上梓した、お笑いコンビ髭男爵山田ルイ53世。本人によれば、本作は子育てエッセイではなく、娘に正体がバレまいとする日々を描いた防衛記録だという。スパイさながらのスリリングな、深すぎる思考に迫るインタビュー

ーー出版おめでとうございます。山田さんの公式YouTubeの動画『ルネラジ後記106』で、「原稿チェックで赤字が増えまくって、双葉社側が音を上げた」というエピソードを紹介していました。かなり気合いの入った作品なのでしょうか。

「担当編集の方と、忌憚のない意見をぶつけ合って煮詰めてきた本なので。赤字の話もそう。まず僕の手元にきた初稿のゲラ(原稿)に赤を入れるわけです。“修正だ”ってガーっと書き込んで。

 大袈裟ではなく、もう1冊書き上げたんじゃないかというくらいの量の赤を入れてしまった(笑)。で、それを反映した第2稿が来る。それにも同じくらい赤を入れる。で、またそれを返して戻ってきたらまた同じ量の赤を入れて……。いや、我ながらおかしいし、もうよく分からない状況(笑)。“修正したんじゃないですか?”って担当編集が仰るのもごもっともで。

 もう、毎回、“死体の横で書いてました?”ってくらい原稿が真っ赤に染まってました。

 で、僕はもう1回(第4稿)できると思ってたんですけど、担当さんからメールが来て“何回お渡ししても赤が入るので、キリがないのでこれで最後でお願いします”と一方的に言われて終わったという。そういう本です(笑)」

■「タイトルにはこだわりがあります」

ーー熱意に溢れていたんですね。

「熱意というか、神経質というか。“こういう書き方できるやん!?”って思い付いたら、そうせずにはいられない。気持ち悪くて。タイトルに関しても、僕は本当は帯に書いてある文言『パパがおしごとにいくと、シルクハットがひとつへる』という、ちょっといまっぽい、長めのタイトルにしたかったんですよ。朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』みたいな。でも、担当さんは“いやいや、『パパは貴族』だ”と。

 僕としては、『パパ“は”』は、あまりにもありきたりじゃないかと感じてしまって。担当さん的には、子育てエッセイのほっこり感みたいなのを出したかったらしいんですが、そもそも僕は“子育てエッセイ”っていう言葉が好きじゃない。あくまでも、職業を隠している父親と娘の攻防、“面白読み物”っていうことで書いてるので。

 “子育て”とか“イクメン”とかいう言葉をいっさい入れたくなかった。本当は“パパ”も入れてくれるなって言ってたんです」

ーー正直、子育てエッセイ本だと思っていました。

「僕的には“防衛白書”みたいなもの。自分の秘密を守るって部分で。

 大体、子育ての方針なんて立派なものもない人間ですし。唯一、“子どものしたことにはすべてリアクションを取る”っていうのは心掛けていますが、本当に、それだけ。

 いわゆる芸能人とか著名人の方々が書くような素敵なことは書けません。

 そんなこんなで、『パパは貴族』にもっと絶望感というか、ガビーン感というか、“親父が『貴族』とか言うてんの?”っていうイヤさみたいなものを込めたくて。要は、被害者目線……“娘目線”のタイトルにしたかった。なので、“が”だけはこだわりました」

■「褒めていただけるのは有難いですが……」

ーー今回の著書を読んでいると、語彙力が非常に巧みな印象を受けます。以前「星新一が好き」とコメントしていたこともありましたが、影響を受けた本や作家はありますか?

「星新一はもちろん好きですけど、そんな人一杯いるでしょ。全作品読んでますし、ショートショートじゃない作品も好きですね。

 星新一って、お父さんが製薬会社を創業された方で。その人の半生というか一生みたいな本もあって、それも面白かった。

 ただ、こういう取材のときに困ることがあって。

 以前、『一発屋芸人列伝』(新潮社)とか『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)とか出版したときもそうだったんですが、インタビュアーの方が、理由付けをしたがる、背景を欲しがるなぁと。

“これだけ文章が書けるということは、さぞかし読書家なんでしょうね?”みたいに、アリバイを欲しがる。

“こういうオファーが来たから書いただけです”って答えると、妙に格好つけてる感じになってしまう(笑)。自分自身は物書きの“真似事”に過ぎないなあと思ってやってます。

 だから、不本意ですね。

“読書家です”ってメディアに出てる人たちに比べたら、何も読んでないです。小さいときに図書館によく通っていたっていうのはありますけど、そんな人間もやっぱりごまんといるので」

■「ホラー映画が好きですね」

ーーいろいろ、映画のたとえ話が文中に出てきましたが、好きなんですか?

「偏ってますけど。スティーブン・キングの小説が好きで。ホラーが好きなんです。呪われた家とか、ゾンビとか。

『死霊館シリーズ』とかよく観ますね。“呪われた家もの”って他にも色々あるんですが、大抵、お子さんが2、3人いる若夫婦が、心機一転、新天地に引っ越してきたらおかしなことが次々と……っていうのが定番。

 でも、ホラー映画って世相というか、そのときの社会情勢を反映したものが意外と多くて、パターンも変わってくる。

 ちょっとタイトルは忘れましたけど、ガラス張りのシャワールームでシャワー浴びてスッキリして湯気が晴れたら、手形がついてるとか、いつも決まってる角度のイスが動いてたりとか、それで“いつも通りの呪われた家のパターンかな?”と思ってたら、本当に壁の間に人が住んでいたっていう。

“怖っ! 新時代来たな”って。リーマンショック、サブプライムローンが破綻したときに立ち退かない(行き場所が無くて仕方なく)人々が社会問題になったみたいなことを反映してるわけです。変化していくんだなぁって。そういう部分も面白かったりしますよ」

ーー今年の『事故物件 恐い間取り』とか、和製ホラーは観ますか?

「『事故物件』はまだ見てないですけど、本は読みました。

 和の方も好きですね。『呪怨』のNetflix版とか。荒川良々さんが出てるやつ。あれは怖かったですね。連ドラ形式で、“和の怖さってこういうヤツやな”って。イヤな感じ。救いがない。みんな悪く(不幸に)なる(笑)。ホラー全般が好きですよ」

■「実は『お悩み相談』はずっとご遠慮していました」

ーーホラー映画のコラムとかに興味は?

「ないですないです。

 僕如きが、“映画詳しいです”って商売にするのも、なんかね(笑)。実はここ何年かクロワッサンとか日経新聞で『お悩み相談』のコラムを担当しているんですが、生意気ですがあれも最初はお断りしてましたね」

ーーえっ、そうなんですか?

「ひきこもりの話をしたり、本を書いたりしてたら、なんか文化人っぽい空気が漂うのか知らないですが、『お悩み相談』の話が来るようになって。それも本当は変な話じゃないですか。“過去に何かしらつまずきや苦しみがあった人間は、人の気持ちが分かるだろう”みたいな。そんなことはないわけで。あと、“お前が一番悩んでるやろ!”ってツッコミが想定できて、恥ずかしかったんで、“僕には無理です”って逃げてましたね」

ーー今回の本もそうでしたが、「引きこもりなら分かるだろ」とかイクメンとか、カテゴライズされるのがあまり好きじゃない?

「そうですね。そんなに胸を張れるほど(育児)やってないし、やってたとして胸を張るのもおかしい。

 イクメンっていう言葉自体が極端に言うと、“そもそも子育ては女性のもので男はノータッチ”っていう発想が前提で、“それなのに、子育てやってるの!?凄い!”という妙な美談の味付けが施された、そういう文脈で使われるもの。

 それぞれで良いじゃないかって。パッケージ感がしんどい」

ーー確かに、イクメン大集合みたいな番組であまり見かけませんね。

「いや、そもそもどの番組でも見かけないでしょうが(笑)。

 そういう雰囲気も出してませんしね。“イクメンって立ち位置で出演して下さい”って言われたら、生意気ですけど僕はご遠慮すると思います。何せ、恥ずかしい(笑)子育てというか、子どもと一緒に暮らしてるってだけの話なので。

 本当は誰かに預けたいくらいに思ってますよ。こんな人間の影響をびた一文受けてほしくないですから」

「髭男爵山田ルイ53世インタビュー(1)「『パパが貴族』の“が”はガビーン!の“が”」」のページです。デイリーニュースオンラインは、山田ルイ53世髭男爵インタビューカルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る