カラダの関係で心は救われない? 性欲にまみれた“地獄”を描いた漫画『少年のアビス』 (2/2ページ)

まいじつ

また現実世界において、「身体を重ねることで相手とより深い関係になれる」という考え方は根強い。だからこそ恋人や夫婦は、他人とは異なる特別な関係だとされている。しかし、それは本当に確かなことなのだろうか。もしかすると、性行為によって修復不可能なほどに歪んでしまう関係もあるのではないか?

令児は相手を生身の人間として理解するために、さまざまなかたちで肉体的な接触を行う。触れ合った男と女は、お互いに相手を少しだけ理解したような気になる。だが実際には心の距離が縮まるわけでなく、同じ場所まで落ちてくるだけだ。同作の性描写を見ていると、むしろ肉体関係は深くなんてない、ほとんど錯覚のようなものだと思わされる。

作中には他人に救われたい人間が多く出てくるが、他人を救おうとする行為も同じくらい目立つ。ただ、そこには贅肉のように欲望が垂れ下がっている。性欲だけでなく独占欲や依存心など、さまざまな欲にまみれながら、救済者は道を踏み外していく。

誰かに抱かれることは心地よく、ひと時の夢をもたらしてくれるかもしれない。けれど、と立ち止まって考える。もし別のかたちで人間関係を築いていれば、もっとよい未来が見えていたんじゃないか、と。話は現実でもフィクションの中でも変わらない。令児は幾度も町を抜け出すための希望をつかみながら、肉の重みによって深淵(アビス)へと沈んでいく。肉体ではなく、何か別のつながりをもっていれば、そうはならなかったかもしれないのに…。

とはいえ絶望の中でこそ、快楽が希望となるのも事実だろう。その誘惑を振りきるのは、なかなか簡単なことではない。令児がひたすらに過ちをくりかえす姿は哀れであり、やきもきさせられるのだが、心の奥底では親近感が沸いてしまう。

現実には手を握るだけで相手を理解できることもあるし、どれだけ身体を重ねても精神的な距離が一歩も縮まらないことだってある。『少年のアビス』が見せてくれるのは人間という生き物の致命的なバグであり、それを直視する心は少し、痛い。

文=田村瞳
写真=まいじつエンタ

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