気象予報士・森田正光の人間力「気象解説には人に伝える技術とコミュニケーション能力が必要」

日刊大衆

森田正光(撮影・弦巻勝)
森田正光(撮影・弦巻勝)

 気象の仕事に携わるきっかけは、高校卒業を控えて進路をどうするか考えていたとき、先生から「就職という道もあるぞ」と、募集リストを渡されたことでした。その中に『日本気象協会』があって、軽い気持ちで名古屋の東海本部を受けてみたら、たまたま採用されたんです。

 天文学には興味がありましたけど、天気はそんなに好きじゃなかった。でも、やっていくうちに、面白さを感じていくようになりました。

 その後、転勤の辞令が出て、東京に来ました。あるとき、仕事でラジオ番組に出演したんですが、司会の土居まさるさんから「週末は?」と聞かれたんですね。それで「野球を観に行きます」って答えたら、「君の予定じゃなくて、天気予報だよ!」ってツッコまれてしまって(笑)。

 でも、そんな天然ボケが面白いと、今度は土居さんのテレビ番組にゲストで呼んでいただいたんです。そこでは、小学生の頃に体験した伊勢湾台風の話をしました。「名古屋に映画館はたくさんあったけど、台風で壊れたのはオデオン座だけ。そのときにかかっていた映画が、石原裕次郎の『嵐を呼ぶ男』と『風速40米』の2本立てだった」というエピソードなんですが、これ、ネタじゃなくて本当の話なんですよ(笑)。

 でも、これまた「面白い!」とウケて、それから何度か番組に出演させていただいているうち、TBSからお声がかかり、その後レギュラーが決まって、現在までずっと出続けている……という感じですね。

 僕の肩書きは「気象予報士」ですが、気象予報士の仕事は、予報することではなく、解説することだと思っています。

 現在の天気予報は、気象庁がさまざまなデータをスーパーコンピュータに打ち込んで出た数値予報を基に、気象会社が皆さんにお伝えするという流れです。予報では、もう人間はコンピュータには太刀打ちできません。要するに我々、気象予報士は「明日は午前中に晴れ間が出ますが、午後からは雨になります」なんて、コンピュータの予報を分かったような顔をして口にしているだけ(笑)。

 でも、だからこそ、その予報をどう伝えるのかが非常に重要になってくる。野球やサッカーなどのスポーツも、僕が愛してやまない将棋も、解説者がつまらないと、見ていて本当につまらないじゃないですか。

■「広範な知識や好奇心がなければ、分かりやすく教えることはできない」

 かつて芹沢博文という棋士がいらっしゃったんですが、彼のテレビ解説がすごく面白かったんですよ。

 バカな冗談を言いながらも、大事な局面では専門的な知識がバーッと出てくる。そのギャップがもう、最高にカッコよくて、こんなふうになりたいと思いながら見ていました。だから僕が理想とするのは、芹沢九段のような気象予報士なんです。

 予報自体はスーパーコンピュータにお任せしても、解説すべきことは山ほどある。広範な知識や好奇心がなければ、分かりやすく教えることはできないし、面白く伝えることもできないんです。

 気象予報士には、勉強が好きな人ならきっと誰にでもなれます。ただ、気象解説ということになると、誰にでも、というわけにはいかない。人に伝える技術、コミュニケーション能力が必要になってくるでしょう。

 気象以外で、個人的に一番興味があるのは「島バナナの普及」です。島バナナは、沖縄在来種の小ぶりなバナナで、むちゃくちゃうまいんですよ! もっちりとした食感でリンゴやキウイのような酸味があり、バナナ嫌いの友人さえトリコにしてしまったほど。ただ、今は専業で作っている農家がほとんどなく、病虫害にも弱いため、沖縄以外ではめったに手に入らない。どうにかこのバナナを皆さんに知っていただこうと「島バナナ研究会」というのを作って地道に活動しています。

 面白い天気予報と、島バナナ普及。これからはこの2本立てで、生きていきたいですね(笑)。

森田正光(もりた・まさみつ)
1950年生まれ。愛知県出身。財団法人日本気象協会を経て、1992年、初の「フリーお天気キャスター」となる。同年、民間気象会社『ウェザーマップ』を設立。レギュラーを務めるニュース番組『Nスタ』(TBS系)をはじめ、さまざまな媒体で気象情報を伝える他、気象に関する著書も多数出版している。

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