山口紗弥加が一日に2回行くほどの讃岐うどんの名店で「ぶっかけ」を食らう
アイドル食堂・第56回 おにやんま

■アイドル売り女優が円熟味を増して主演に
アイドルだってメシを食う。昔アイドル、今女優という芸能人は山といるが、山口紗弥加はとりわけ、着実な成長を遂げた口だ。時折トーク番組などで見かけると、まっすぐな気性が伺え、尊敬の念すら覚える。
だが、その一途さが笑いを醸し出すのも必定。昨年6月26日に放送された、笑福亭鶴瓶司会の『A-Studio+』(TBS系)に出演した紗弥加は、抜群のトーク力を発揮し、放送後のSNSには絶賛の声が大量に寄せられた。鶴瓶曰く「ようやく時代が山口紗弥加に追いついた」。そんな紗弥加はバレンタイン生まれ。もうじき41歳になる。
鶴瓶がそう言うのもわからなくはない。彼女は当初、完全にアイドル売り。「黒夢」の清春プロデュースで、98年には歌手デビューも果たしている(しかも、相当歌が上手かった)。バラエティでもはっちゃけていて、94年にデビューを飾った日清「どん兵衛」をはじめ、CMにも出まくっていた。
彼女はそれまでにいないタイプの、明るくさばけた美少女だった。同じ福岡出身の橋本環奈や今田美桜にも相通ずるが、もっと溌剌として嫌みがなく、演技力も抜きん出ていた。しかし、連ドラへの出演も70本以上になるのに、18年の『ブラックスキャンダル』(日本テレビ系)まで主演は一度もなし。
信頼していたスタッフから「バラエティのイメージがあると女優では使いにくい」と指摘され、「自分の幅を広げるために挑戦したのに、結果的に自分の首を絞めていることに気づいて悩みました」と、17年7月22日付のサンケイスポーツのインタビューでも答えている。それが22〜23歳の時だった。ちょうど蜷川幸雄演出の舞台『エレクトラ』に挑戦した頃だ。蜷川から稽古中に罵声を浴び、感情を引き出すため、髪を引っ張られもされた。悔しくて引退も考えたが、蜷川は引き止めてくれたという。
それから次第に演技の幅を広げ、回り回って今、彼女の時代が到来したのだ。昨年11〜12月放送の『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』(テレビ東京系)でも主演をはった。シンガーソングライターの椎名林檎は福岡市立百道中学校在校時の1年先輩だが、東京事変がこのドラマの主題歌を担当した。
■一日に2回も行ってしまう
そんな紗弥加は、讃岐うどんが大好物。芝居同様、とことん追及するハマり症で、同じ店に日に2回も行ってしまうという。それが五反田に本店のある「おにやんま」だ。『A-Studio+』の出演回では、アシスタントを務めるKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔が同店を訪問。紗弥加と藤ヶ谷は06年『下北サンデーズ』(テレビ朝日系)で共演した間柄だ。「とり天ちくわ天 ぶっかけ」が特に彼女のお気に入りで、藤ヶ谷もそれを食した。
おにやんまは2010年の創業。今では都内に7店舗ある。1号店が五反田にできた当初、ぼくもわざわざ途中下車か、回り道までしても食べたものだ。すっきりしたいりこ出汁は本場と遜色なく、ごん太の麺もしっかり噛み応えがある。麺は今ではちょっと柔くなった気がするが、それでも某丸亀製麺やはなまるうどんの比ではない。それが大体同じ価格帯で食べられるのだから、昼時の長蛇の列もやむを得まい。
ぼくはつゆを啜りたい派なので、夏でもかけに鶏天か日替り天をもらう。天ぷらが必ず別皿で付くのが讃岐流。そこに備え付けのタレをかけ、半分ほど平らげては、純粋にうどんを楽しむ。天ぷらもかつては注文が入ってから揚げていたが、今は揚げ置きにさっと油を通している。それでも充分おいしい。神保町の丸香でのように、つい一杯やりたくなるが、ひっきりなしに押し寄せる客を見れば、そうもいかない。
ところで、香川で育ち、製粉もされた小麦粉はじめ、香川産の素材を使いながら、おにやんまはあえて「讃岐うどん」を謳わない。「自分らがおいしいと思ううどんを出しているだけ」だからと、高松出身の同社社長は語っている。これは気張らずに様々な役に取り組む、女優・山口紗弥加の姿勢と共通している。
彼女は料理も得意で、「家にいる時はほぼキッチンにいる」ほどだという。定番でよく作り置きしているのは粕汁だそう。
「少し体調を崩していた時期があって、自己管理をちゃんとしなきゃとアレルギー検査を受け、食生活を改善するところから始めたんです。料理は実験(笑)。失敗も成功も、面白くて」、と紗弥加は昨春の『OCEANUS』のインタビューでも語っている。料理は確かに、彼女の言うように「自分との対話」なのだ。外食はだから、「他者との対話」となる。しかし、そこでも紗弥加は黙々とストイックにうどんを手繰るのだ。
番組の後半、鶴瓶は「料理上手いんやったら、そろそろ男のためにふるもうたらええやん」、とマリハラ(マリッジ・ハラスメント)っぽく紗弥加にツッコミを入れた。「なんでですか? 料理は私と、大事な友達と(で楽しむ)」と紗弥加はクールに返した。こんな女のためにメシを作れる男でありたいと、きっと藤ヶ谷君も思ったろう。ぼくもだけど……(笑)。
(取材・文=鈴木隆祐)