ともさかりえが家族で通うバラック風の建物は、芸能人も多く通う名店だった!!
アイドル食堂・第59回 かおたんラーメン えんとつ屋

■業界御用達のラーメン屋
アイドルだってメシを食う。今回紹介するのは前回(https://taishu.jp/articles/-/92281)の兆楽と連続で町中華、しかも同じ行列店。しかし、ラーメン主体の店で「かおたんラーメン えんとつ屋」という。ここに一度も来ていない80〜90年代のアイドルはいないのではないか。
ギロッポン(六本木)に近い西麻布と乃木坂の中間地点、青山霊園の脇にあって、深夜帯に営業しているので、まさに業界御用達。最初にテレビで大々的に取り上げたのは、今は亡き歌手の桑名正博で、勝新太郎や和田アキ子、石原良純らも繁く来店していたとか。
バブルの頃からひっきりなしに客がタクシーで乗りつけ、ここでさらに飲み直しては、〆のラーメンを食べていたので、「バブル西麻布の象徴」とも呼ばれる。そして、こちらのラーメンをこよなく愛すると、昨年3月1日放送の『誰だって波瀾爆笑』(日本テレビ系)で告白したのが女優のともさかりえだ。なんでも家族で通っているそうで、すっきりスープのラーメン(770円)に、ニンニクだれのたっぷりかかった味付もやし(410円)を決まって頼むという。
しかし、ともさかがすでに41歳だなんて! 彼女の育ちは三鷹だが、出生は長野市。というのも、母親が里帰り出産したためだが、ぼくも同様、生まれは軽井沢で、育ちはずっと東京西部なのだ。だから、妙にりえに親近感を持っている。
ともさかの父は美容師で、今でも髪を切ってもらうという。父はヘアメイクの仕事もやっており、所属事務所の社長が現場に来ていて、持ち歩いていた家族写真で彼女を見初め、やがてデビューに至った。
12歳の時にトヨタ「エスティマ」のCMで媒体に初お目見えし、本格的なドラマ出演は同年6月放送のNHKの『コラ!なんばしよっと』だった。そして95年、日本テレビ系のドラマ『金田一少年の事件簿』でヒロイン・七瀬美雪役を演じ、一躍脚光を浴び、テレビアニメ版のエンディングテーマも歌った。
歌手としても高い評価を受けており、96年4月発売の『エスカレーション』は秋元康作詞で、オリコンチャート最高8位を記録。99年1月にリリースされた7枚目のシングル『カプチーノ』も名曲の誉高い。その作詞作曲を手がけたのは、デビュー2年目の椎名林檎だった。以来、二人は親友の間柄と聞く。
椎名は彼女と最初に会った際、「なんて美しくてなんて悲しい形をしているんだ」と思ったという。その感覚は自分にもよくわかる。『金田一…』では主演の堂本剛のファンに嫉妬され、嫌がらせを散々されたと当時報道されており、よけい悲壮感が伝わってきた。
■上級スープの名前を店名に
フランスの女優みたいにアンビバレントな風貌から、独特のアンニュイが漂う。というのに、彼女は食事ではあまり冒険せず、定番を選びがちだとか。カップ麺などもよく食べるという。ポテトチップスは開けたら1回で食べきる主義だそう。そんな食傾向を知るにつけ、かおたんが行きつけというのも納得できる。
かおたんは渋谷のやはり行列店、「喜楽」の元店員が1983年に開業。東京メトロ千代田線赤坂駅すぐそばの、「中国料理 かおたん」は支店である。店名の「かおたん(高湯)」とは、上海や北京や台湾料理での上級スープの呼び名だ。
広東ではシャンタン(上湯)と呼ぶ。濁った白湯ではなく透き通ったチンタン(清湯)に、惜しげもなく高級素材を入れることからそう呼ばれる。だから店の看板にも、「中国福建省の高級スープ」と書いてある。
丁寧に灰汁を除いて豚ガラと鶏ガラから取った出汁に、独特の甘みがあり漢方の原料にもなるマコモを加え、刻んで香ばしく揚げた赤タマネギ、またオキアミの風味がついた香味油をたっぷりとスープに浮かべ、独特のスープを作っている。
この焦がしネギにどこかポテチ感があるのだ。台湾系ラーメンにはよく乗るが、喜楽に比べて風味が控えめで、スープとの調和がよく取れている。トッピング具材は厚手の焼豚にメンマ、茹でもやしにさやえんどう(これが彩りだけでなく、味に深みを与えている)。
麺はストレートな細麺で、そこが喜楽とはかなり異なる。つまみ類の旨いのも変わらない。散々飲んできたにも関わらず、皮のつるみと餡の肉々しい歯応えがたまらないワンタンや、ニンニクが意外と効いた焼餃子で日本酒をさらに呷っていると、「もうラーメンはいいかな」と思えてくるが、そんな客のために小鉢スープだけでも提供する。
ぼくは2年前に10数年ぶりに訪問したが、バラック風の建物も、店名の由来となった屋根から4本、にょっきり突き出る煙突も昔のままだった。たまたまある会食の席で出会った、静岡は三島の制作会社社長を同伴したが、社長は「うまいうまい」の連発で、ちょっと得意になってしまった。ラーメンだけは東京が一番だ。全国のどんなラーメンでもあるけれど、やはりこんな支那そば風のあっさりした麺が最もおいしい。
恵比寿ガーデンプレイスの近くの「香湯ラーメン ちょろり」は、喜楽とかおたん両店で修行した亭主が満を持して出した店で、そのラーメンもやや甘みを感ずるスッキリしながら深いスープ、揚げ葱の芳ばしさ、ストレート麺の喉越しをかおたん同様に堪能させてくれる。また、ふっくらと小ぶりの餃子もすこぶる旨い。焼豚の切れ端がゴロゴロ入った炒飯も絶品。やはり昼11時から早朝5時まで開けており、深夜でもひっきりなしに客が来ていたものだ。
だが、今なお緊急事態宣言の最中。かおたんもちょろりも20時には閉めている。ぼくも夜遊びすることもなく、仕事で出かけても夕食にありつけないので、まっすぐ帰宅するだけのつまらない日々だ。南青山界隈で飲む柄でもないが、いち早く深酒をし、かおたんラーメンの優しいスープで火照りを鎮める日々に舞い戻りたいものだ。
(取材・文=鈴木隆祐)