ギスギスした今だから際立つ人情ドラマ『小節は6月から始まる』誕生秘話(1) (1/2ページ)
人は自分に余裕がない時ほど、他人に対して寛容になれず、優しさを持てないもの。ギスギスした言葉が飛び交う今だからこそ、身の回りにいる人や、自分の想像の外にいる「誰か」に優しくありたいものだ。
『小節は6月から始まる』(幻冬舎刊)は、シングルマザーとして喫茶店を切り盛りしながら幼い子どもを育てる主人公が、彼女を私心なしで支える周囲の人々との交流を通して成長していく様子を描く。本来持っていたのに、いつのまにか忘れがちになった優しさや気づかい、思いやりについて思い出させてくれる一冊だ。
今回は著者の青山太洋氏にインタビュー。この物語に込めた思いについて語っていただいた。
■頭に浮かんだ「喫茶店」の映像から生まれた物語――『小節は6月から始まる』はドキドキハラハラするというよりは、心がゆっくりと温められていくような印象を持つ小説でした。青山さんがこの小説を書こうと思ったきっかけがありましたら教えていただきたいです。
青山:私は小説を書く時、文学の基礎知識がないために、頭に浮かんだ構想を映像化してから文字に置き換えています。小説の映画化とは逆に、映画の小説化とでもいうのでしょうか。
その構想群の中には、斜め上に手を伸ばせば届きそうなところにある非現実の世界を、オカルトやホラーでなく、今生きている日常と重ねるアイデアがありまして、この小説はそのアイデアが形になったものです。
――頭に浮かんだ構想を映像化してから小説にするというところで、最初に頭に思い浮かんだシーンはどのようなものだったのでしょうか?
青山:喫茶店のシーンですね。なんとなくですが喫茶店が頭に浮かんできて、そこでのお客さんのやりとりなどもイメージできたんです。三人くらい、この小説の主人公のお父さんである慶三の旧友たちがカウンターに座って、話しているところが浮かんできたので、喫茶店をこの小説の舞台にしようと考えました。
――小説の舞台となっている横須賀の喫茶店「マートル」ですね。