トイレがお気に入り?戦国大名・武田信玄のトイレは理想的なワーキングスペースだった!
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「お父さん!トイレで新聞読むのやめてって、いつも言ってるでしょ!」
今日もどこかで繰り広げられていそうなこの会話。トイレの独占は非常に迷惑なので、最低限の用だけ足したらさっさと譲って欲しいところです。
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「いやぁ、用を足してる間って退屈だろ?だから新聞くらい読ませておくれよ……」
「だったらさっさと出ればいいでしょ!」
「だいたいその新聞、お母さんも読みたいんだけど……汚いから、トイレに持ち込まないでよ」
「はいはい、分かったよ……あーあ、一人でゆっくりできる書斎があればなぁ……」
とはボヤいて見るも、そんなものは夢のまた夢……いや、そもそも立派な書斎なんてなくても、このトイレの個室感が何とも落ち着くではありませんか。
「いつもは活字なんか見たくもないのに、トイレでだと無性に読みたくなるのは何でだろう」
尾籠な話で恐縮ながら、排泄時の脱力感は得も言われぬリラックス効果をもたらし、普段よりも物覚えがよくなるような気がしないこともありません(よく、トイレの壁に単語表を貼っておくと、いつの間にか覚えているとか)。
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そんなトイレの可能性?に着目したのが、かつて「甲斐の虎」と恐れられた戦国大名・武田信玄(たけだ しんげん)。
そのポテンシャルを最大限に引き出したトイレが、武田家の本拠地である躑躅ヶ崎館(つつじがさき。現:山梨県甲府市)にあったそうですが、信玄公は一体どんなトイレを使っていたのでしょうか。
セキュリティ万全!居心地も最高な信玄公の特注トイレ…信玄は御用心の御ためやらん、御閑所(ごかんじょ)を京間六帖敷(きょうまろくじょうじき)になされ、たたみを敷、御風呂屋、椽の下(縁の下)より、とひ(桶)をかけ御風呂屋(浴室)の、げすい(下水)にて、不淨をながす様にあそばし…
※高坂昌信『甲陽軍鑑(こうようぐんかん)』品第33より。
【意訳】
……信玄公は用心のためトイレを六畳の広さに造り、浴室から縁の下に樋を通し、残り湯を流して排泄物を処理するようにし……
信玄公のトイレは6畳間の広さがあったと言いますが、この「御用心の御ため」とは、不意の襲撃を受けた際に、すぐ刀を抜いて応戦できるよう、また壁から槍を突き出されてもすぐには届かない距離をとったものです。
また、これだけの広さがあれば信玄公以外にも人の出入りが可能で(入りたくありませんが)、武田家が駆使していた忍びの者からの報告を受けるのに使っていたという説もあるようです。トイレなら人目につきにくいですしね。
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「……申し上げます」トイレの個室は、密談に最適?(イメージ)
畳を敷いたのはやはり縁の下から刀など突き上げられないよう、畳の芯に何か硬いものでも入れておいたのでしょう(少なくとも、単なる板張りよりは防御効果が高まります)。
そして先進的な水洗トイレ。日本では20世紀後半まで(何なら21世紀の令和でも)汲み取り式トイレが少なからず使われている中、400年以上先取りしていたとは驚きです。
排泄後に鈴を鳴らすと、家臣が風呂の残り湯で排泄物を流す仕組みになっており、流した排泄物は敵の忍びに信玄公の体調を探られないよう、鯉に食わせて証拠を隠滅する用心ぶりでした。
他にも部屋の四隅に香炉をおいて伽羅(きゃら。お香)を焚かせ、快適な空間を維持させたと言います。信玄公はトイレを「山(甲州山)」と呼んでいたそうで、その意(こころ)は「山には草木(くさき)が絶えぬゆえ」とのこと。ダジャレですね。
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ここまで至れり尽くせりのトイレで信玄公はリラックスして政務や勉学、作戦立案に励み、数々の勝利を収めていったのですが、長い時では半日も籠っていたとも言いますから、よほど居心地がよかったのでしょう。
「お屋形様はどちらへ?」
「動かざること山の如し……もう朝からずっと、山から戻られぬ」
「すわっ、遭難?!」
事情を知らない人なら、慌てて捜索願を出してしまうかも知れません。
終わりに「女性のトイレが長いのは、男性に比べて衣服の着脱や身だしなみに時間がかかるだけではなく、個室を占領してヨガや食事(!?)、スマホいじりなどしているからだ……」
最近そんなニュースに触れましたが、公衆トイレはみんなで使うものですから、用が足りたら速やかに(切羽詰まっているであろう)次の方へ譲って欲しいものです。
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しかし何かとストレスの多い現代社会では、時には(外出中でも)ホッとできるパーソナルスペースが欲しくなる気持ちも解ります。
信玄公のような広々としたトイレをみんなが使えるようになれば、社会にゆとりが生まれ、仕事や勉強の効率も高まるかも知れませんね。
※参考文献:
磯貝正義ら校注『改訂 甲陽軍鑑 中』新人物往来社、1965年10月
キッズトリビア倶楽部『1話3分「カッコいい」を考える こども戦国武将譚』えほんの杜、2020年8月
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