渋沢栄一記念財団が、日本近代化の様子がわかる「実業史錦絵」をオンラインで多数公開中
東京・北区にある「渋沢史料館」を運営する渋沢栄一記念財団では、実業史錦絵プロジェクトとして、明治日本の近代化における実業のさまざまな場面を描いた錦絵をオンライン公開しています。
錦絵とは、多色刷りの浮世絵を指します。写真が普及していなかったころの視覚的な伝達手段、メディアとしての役割を持っていました。
東京汐留鉄道舘蒸汽車待合之図 出典:国立国会図書館デジタルコレクション社会全体に革新が起こった明治期には、その様子を伝える錦絵がいろいろな形で出版されました。
「実業史錦絵」とは、錦絵のうち、ものづくり、産物、職業など、産業シーンを描いた作品を渋沢栄一記念館がまとめたものです。
実業史錦絵には「大日本物産図会」、「諸工職業競」、「衣喰住之内家職幼絵解之図」などのシリーズを始め、鉄道や工場、博覧会など、当時の新しい産業や近代化の様子を示した作品が含まれます。
『衣喰住之内家職幼絵解之図 畳を作る』より画像引用 コレクションしたのは栄一の孫・渋沢敬三錦絵をコレクションをしたのは、渋沢栄一の孫・渋沢敬三です。栄一からの懇願により父の代わりに若くして跡を継ぎ、財界人として活躍する傍ら民俗学者としても熱心に活動していました。
渋沢敬三(Wikipediaより)たいへん学問熱心で、大学生の時に自宅の物置小屋の屋根裏に、動植物の標本、化石、郷土玩具などを収集した「アチック・ミューゼアム(屋根裏の博物館)」という私設博物館を開設します。
アチック・ミューゼアムは、博物館であると同時に若手研究者の集う場でもありました。元々は郷土玩具の研究がメインでしたが、次第に人々の暮らしを明らかにするために民具全般や漁民資料などを収集したり、地域の総合的な調査・研究を行うようになりました。
1937(昭和12)年には、新たな博物館として「日本実業史博物館」の設立を目指して構想し、実業史錦絵はその一環として集められました。実業史博物館の設立が実現することはなかったものの、このコレクションによって当時の日本の経済社会の近代化、産業化について視覚的な面からも研究できるようになりました。
「実業史錦絵絵引」の「絵引」は敬三の造語「実業史錦絵絵引」の「絵引」とは、敬三が作った言葉です。
民俗学者でもあった敬三は、「字引(=辞書、辞典)」の絵バージョン、「絵引」を作れないかと考えました。
そうして作成されたのが『絵巻物による日本常民生活絵引』です。平安・鎌倉・室町時代の主要な25の絵巻物から、庶民生活の一場面を取り出し、絵に描かれているものに番号をつけ、現代語に訳した名称をつけるとともに各絵巻物の成立、内容、詞書を詳説しました。また、使われた名称を集めて分類し、言葉から絵を引けるように索引をつけました。
こうした歴史を踏まえ、敬三の実業史錦絵のコレクションは「実業史錦絵絵引」と名付けられています。
サイト内の「絵引ギャラリー」では、実業史錦絵シリーズのうち現在「衣喰住之内家職幼絵解之図」が公開されています。
絵に登場する人物、道具全てに番号が当てられ、それぞれの解説が見られるようになっていて、敬三の著書『絵巻物による日本常民生活絵引』を彷彿させます。
なお、コレクションのうち「実業史」以外の錦絵は、人間文化研究機構国文学研究資料館に収蔵されており、「日本実業史博物館コレクションデータベース」で全シリーズを見ることができます。
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