カセットテープ専門店オーナー・角田太郎「テープの音の良さに、ビックリすると思いますよ」
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インタビュー
僕は、東京・中目黒で『waltz(ワルツ)』という店を経営しています。主に、カセットテープやラジカセを販売するショップで、そんな時代に逆行するような店をオープンさせたのは、今から約6年前のことでした。
今、僕は51歳ですが、お金がない若い頃は、生テープにラジオから流れる曲を録音したり、レンタルしたレコードやCDをコピーしたりして聴いていました。昔はそれが一般的でしたよね。ですが、ある程度、経済力がついてレコードやCDを自由に買えるようになると、カセットテープから卒業していきます。
そんな僕が、改めてカセットテープにひかれていったのは、2004年にサーストン・ムーアというアメリカのミュージシャンが編集した『ミックステープ』という本と出会ったことがきっかけです。それは、ムーアが周りの人たちから手描きのレタリングやイラストを施した昔のカセットテープを集めて、アートブック化したものでした。
すでに消滅しかけているカセットテープのビジュアルが、デジタルミュージックの時代にアートになっていた。そのことが、自分の中に突き刺さったんです。そこから「今、カセットテープで音楽を流したら、どんなふうに聴こえるのだろう?」という思いが湧いてきて、ミュージックテープ……市販されている音楽入りカセットテープを世界中から買い集めていくようになりました。
集めるのは楽しくて、やがてコレクションは1万本を超えました。当時は、投げ売り状態だったため、極めて安価に入手できたんです。
カセットテープの魅力は、主に2つあります。1つはレコードともCDとも違う、“モノ”としての面白さ。視覚的にも触った感覚も、独特のものがありますよね。
もう1つは音の魅力です。“音が悪い”という印象があるかもしれませんが、それはラジオを録音して、安価なラジカセで聴いていた頃の固定観念です。高級なラジカセでミュージックテープを聴くと、音の良さにビックリすると思いますよ。
■人生において音楽の優先順位が高い人こそ、アナログに回帰
会社を辞めて独立しようと考えたのは2014年頃。「世界で誰もやっていないこと、自分にしかできないことってなんだろう?」と考えた答えが、カセットテープの店でした。僕は何万本ものミュージックテープを持っていましたし、そんな店は世界のどこにもない。店の構想を練れば練るほど、早く始めたくてしかたなくなりましたね。誰かが自分よりも先に始めたら、一生後悔するだろうなと思っていました。
僕がやりたかったのは、アートギャラリーのような空間を作って、カセットテープの存在価値を上げて販売すること。みんなが想像するカセットテープとは異なるイメージを作りたかった。そうすれば、絶対に注目されるという確信がありました。そしてオープン以来、おかげさまで老若男女、たくさんの方に来ていただいています。常連のお客さんの中には著名なミュージシャンの方もいらっしゃいますし、コロナ禍以前は海外からみえる方も多かったですね。
実は今、カセットテープに魅力を感じる若い人が増えています。月1000円払えば何千万曲が聴き放題になる時代に、わざわざラジカセを買って、カセットテープで音楽を聴いている。人生において音楽の優先順位が高い人こそ、アナログに回帰していますね。海外でも、メジャーなアーティストが、新譜をカセットテープでリリースするようになっています。ウチの店は、世界で最も多く、ミュージックテープを売っています。現在のカセットテープカルチャーを育ててきたという自負もあります。だから、少しでも長く、店を維持していきたいという気持ちが強いですね。
カセットテープが、音楽を聴くための選択肢の一つとして、ずっと残っていけばいいなと思っています。
角田太郎
1969年東京都出身。大学卒業後、音楽ソフト販売店勤務の後、アマゾン・ジャパンに入社。同社のCD、DVDの通信販売事業の立ち上げに関わる。2015年、カセットテープ・ラジカセ・レコードなどを販売するショップ『waltz』を開業。また、音楽のキュレイターとしても活躍し、飲食店やイベントのBGMの選曲なども手がけている。