書道家・武田双雲「“楽じゃない”と感じるのは、自分を愛していないから」生きるヒントをくれる人間力 (1/2ページ)
僕の人生を文字に書くとしたら、それは『楽』です。自分自身、楽しく、楽でいたいし、できることなら、誰かを楽しませたいし、楽をさせたい。
そう思ったのは、書道家として独立した20年ほど前のことです。独立したのはいいけれど、いったい何を目指せばいいのか、分からない。
もしミュージシャンだったら、いつかは東京ドームでコンサートとか、野球選手だったらメジャーリーグとか、起業家だったら上場とか、何か目標があると思うんですが、書道家として何も見つからなかったんです。
そこで、目指すものを漢字一文字にしてみようと思いました。そして、いろいろな文字を書いてみて、“これだ!”と思ったのが『楽』でした。
考えてみたら、僕は子どもの頃から、ずっと「どうやって楽しもうか」と考えては、行動に移してきました。振り返っても、落ち着きがない子どもだったと思います。
就職してからもそれは変わりませんでした。通勤を楽しくするためにカプセルホテルに泊まり込んでみたり、グリーン車に乗ってみたり、面白い柄のネクタイをしてみたり……。だって、これから何十年も働くわけだから、一秒たりとも「つまらない」なんて、思いたくないじゃないですか。
その中の一つに“メモを毛筆で書く”というのもありました。墨をすりながら電話を取って、伝言があったら筆で書くわけです。
すると、そのうち「部署の目標を書いてほしい」と言われるようになって、あるときには他の部署の女性が「私の名前を書いてもらえませんか?」とやってきた。
喜んで書いたんですが、そうしたらその女性が泣くんです。「感動しました。これまで自分の名前が嫌いだったけど、好きになれました」って。
それまでの僕は自分が感動するばっかりで、人を感動させたのはこのときが初めて。だからビックリして、僕も一緒に泣いてしまいました。
そして、その場で辞表を書いて、上司に持っていったんです。「僕は名前を書く人になります」と。