成田凌「スタカレー」と「埼玉」を愛する一途な性格

日刊大衆

成田凌
成田凌

第97回中華「「娘々」

 アイドルだって飯を食う。前回は『日経トレンディ』(日経BP)が選ぶ2021年の「今年の顔」、俳優の山田裕貴を紹介した。しかし、映画ばかり(しかも名画座で)観て、テレビドラマはほとんど見ない筆者にとって、今年最も鮮烈だったのは俳優・成田凌の成長だった。18年・19年にも成田の映画出演数は6本に上ったが、今年は4本ながら、その演技の質はいずれも高いのに、それぞれ役柄はまったく異なる。

 『まともじゃないのは君も一緒』では恋愛経験皆無の数学オタクの予備校講師、『ホムンクルス』ではトレパネーション(穿頭術)に囚われるマッドドクター、脇に回った『街の上で』では自主映画出演を引き受けるスター俳優、『くれなずめ』では高校の同級生の結婚式に現れる役者崩れの優しき青年……。

 全作を観たが、まるでカメレオンのごとき多面性を見せる。『街の上で』でのセルフパロディのような役には意表を突かれた。来年1月スタートの新土曜ドラマ『逃亡医F』(日本テレビ系)で、プライム帯の連ドラ初主演となる成田だが、その下地を充分に積んできたといえよう。

 成田は高校までサッカーに夢中で、部活でもレギュラーを張ったが、大学には進まず、親に反対されながら美容専門学校に通った。ところが、就活中に同居する友人の志望先と自分の志望先が同じと知り、前から興味を持っていた俳優の道を志し、まずはモデルとして活躍する。技術は確かで賞も獲り、各サロンから引くて数多だったとか。当たりが柔らかく、そもそも器用なのが演技からも滲み出ている。

 そんなエモい役者、成田の故郷はさいたま市(旧与野市)。19年11月の住宅情報サイト 「SUUMOタウン」のインタビューで、故郷の魅力をこう語っている。

「ご当地感、ないですよね。日本で一番ないんじゃないですか。だからなのか、僕自身『埼玉出身です!』みたいな強い自負もありません。(略)でも、その何もなさが落ち着くんです」「ロードサイドにチェーン店や家電量販店の大型店舗、ゲーセンが並んでいるのを見ると、『帰ってきたなあ』と思います。他の人には、つまらない街並みに映るかもしれないけど、僕からすると“エモい風景”ってやつなんですよね」

 実にこだわりがないのだ。しかし、食にはいささかうるさい。先のインタビューではこんな話も披露した。

「地元に年季の入った中華料理屋があって、帰るとそこの“スタカレー”がどうしても食べたくなるんです。でも、ご高齢の店主が店をたたんでしまったらもう食べられなくなっちゃうから、そうなる前に跡取りを見つけて、お店ごと買い取りたい。それくらい大好きなんですよ」

 なにもない埼玉にも郷土料理はある。現代のそれがスタカレーなのだ。「娘々(にゃんにゃん)」という、元々「矢島商事」という会社が経営していたチェーン店が提供するオリジナル料理で、正式にはスタミナカレー。これがラーメンにかかるとスタミナラーメン、略して「スタラー」になる。現在は各店舗が独立し、合わせて10店舗ほどが残っている(他に「娘娘」「漫々亭」の商号がある)。成田が言及する「年季の入った中華」とは、与野駅前にある「娘々 与野店」のことだ。

 もっとも、娘々系は何店か訪れている筆者だが、残念ながら与野店は未訪問。名物のスタカレーやスタラー以外の、炒飯などの定番中華メニューも美味いと評判なので、ぜひ足を運んでみたいと思いながら、まだ果たせていないのだ。

 スタラーやスタカレーには、豆板醤が効いた挽肉とニラ入りのとろみ餡がかかっている。カレーと名乗ってはいるが、カレー粉は一切使っていないのだ。その誕生は今から半世紀前に遡る。

「娘々 北浦和店」の先代の店主が開発した。四川を旅行した客からお土産で、当時はそこまでメジャーではなかった豆板醤を大量にもらった店主。使い途を思案するうち、今のスタミナ餡の前身ができた。そして、常連である近所の埼玉県立浦和高校の生徒たちに試食をさせた。一発で彼らも気に入ったが、いろいろ意見も言ってきたので、それを聞き入れ、数年間改良を重ねた結果、今の味に定まったという。

 筆者は何度か同校の取材をし、著名OBたちにもインタビューしてきた。そこでは必ずと言っていいほどスタラー・スタカレーの話が出る。まさに拙著『名門高校 青春グルメ』(辰巳出版)、その鑑なのだ。どうってことないのに癖になる味。そして、いまだに双方450円という安さ! 成田もスタカレー目的で地元にもしょっちゅう帰るという。売れっ子になっても愛する「スタカレー」を目当てに通い続ける成田。もしかしたら女性に対しても、一途な性格かもしれない。

(取材・文=鈴木隆祐)

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