編曲家・若草恵「中島みゆきさんに叱られるのではとドキドキ」【歌詞を曲で表現する人間力】インタビュー

日刊大衆

若草恵(撮影・弦巻勝)
若草恵(撮影・弦巻勝)

 作曲家として、編曲家として、これまでたくさんの音楽を世に送り出してきました。特に編曲に携わった作品は、自分でも数えることが難しいほどの数になっています。

 編曲は「曲を編む」と書きます。メロディを核にして、さまざまな音を編み、一つの世界観を作りあげる……それが、僕の考える編曲家の役割です。

 僕は、音楽があふれる家庭で育ちました。そのせいか、小学生のときには「作曲家になりたい」と思っていました。そして、中学に上がった頃、稲妻に打たれるような出合いがあったのです。

 それはミュージカル映画でした。『サウンド・オブ・ミュージック』や『ウエスト・サイド・ストーリー』の映画音楽に魅せられたんですね。“僕がやりたいのは、これだ!”と、そこから猛然と音楽の勉強を始めました。ただ、目指した音大には入れず、それでも作曲家をあきらめきれなかった僕は上京し、CM制作会社で働くことになりました。

 そこでまた運命的な出会いが訪れます。作詞家であり作曲家でもある中山大三郎先生から「曲を書いてごらん」と詞を渡されたんです。必死で曲を書いて渡すと、先生はこれを気に入ってくださって、「僕が作詞作曲する曲の編曲をやってくれないか」と声をかけてくれました。

 しかし、僕の目標はミュージカルの映画音楽。編曲家になるという意識はありません。僕がそう言うと、先生は「1曲の詞というのは、1冊の本、1本の映画と同じ。言葉の数は少ないけれども、だからこそ行間には思いが詰まっている。それを表現するのが編曲なんだよ」とおっしゃる。“そうか、編曲とは映画音楽と共通するところがたくさんあるんだ。だとしたら、僕は映像が浮かぶような編曲をしてみよう”そう、意識が変わったんですよね。

 ですから僕の編曲は、詞の世界観を表現するという、他の方とは少し違った手法です。

■『かもめはかもめ』の詞を読んだときには、衝撃を受けた

 中島みゆきさんが書いた『かもめはかもめ』の詞を読んだときには、衝撃を受けましたね。“僕が探していたのはこの曲だ!”と。研ナオコさんが歌ったこの曲はヒットしましたが、中島みゆきさんと会うことになったときはドキドキしました。好き勝手に編曲したことを叱られるのでは、と思ったんです。

 緊張しながらスタジオを訪れると「あなたのって、後ろからバーンと叩かれるような編曲なのよね」とおっしゃる。“ああ、やっぱり叱られるんだ……”と思ったら、「だから、私の曲もやってくれない?」と。最初の言葉は、最大の賛辞だったんですね。本当にうれしかったです。

『愛燦燦』など、美空ひばりさんの曲を編曲したのも、忘れられない思い出です。ひばりさんが亡くなってからしばらくたったとき、(息子の)加藤和也さんが来られて、「これはおふくろが次に発表する予定だった曲で、ぜひ若草さんに編曲してほしいと言って亡くなったんです」と、『魂のかけら』という曲を渡してくださったんです。ひばりさんがそれほどまでに僕を思ってくださったことを知って、胸が震えましたね。

 ずっと弟子は置かなかった僕ですが、12年ほど前、なつこという歌手に出会いました。彼女の歌声を聞くと非常に魅力的な声で、これは僕がやりたい音楽を実現してくれる歌手かもしれないと、育ててみたくなったんです。

 そんな彼女に昨年、『ガラスの蝶』という曲を書きました。6年半ぶりの新曲でしたが、コロナ禍で一緒にリハーサルすることもできず、ほぼぶっつけ本番でレコーディングに臨むしかなかった。でも、彼女は第一声から素晴らしかった。この6年半の苦労と努力が声に出ていましたね。

 なつこや他の弟子たちと一緒に、日本人による日本人のための「大人の音楽」を作り出すことが、これからの私の目標です。

若草恵(わかくさ・けい)
1949年生まれ。山形県出身。作曲家の父のもとで育ち、高校を卒業後、音楽を学びながらCM音楽等の作曲活動を開始。その後、中山大三郎氏のもとで歌謡曲・ポップスの編曲を始め、映画・ドラマ・アニメ・舞台などの音楽も数多く手がける。日本レコード大賞編曲
賞を3回、作曲賞を1回受賞 。編曲の代表作として、高橋真梨子『for you…』、中森明菜『難破船』、小泉今日子『ヤマトナデシコ七変化』、坂本冬美『夜桜お七』などがある。

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