武田鉄矢「三流フォークシンガーには夢のような話でした」高倉健との不朽の名作『幸福の黄色いハンカチ』の秘話【独占インタビュー】

日刊大衆

武田鉄矢
武田鉄矢

 武田鉄矢、72歳。フォークシンガーであり、30年にわたって続いたテレビ『3年B組金八先生』(TBS系)シリーズや、映画『刑事物語』『プロゴルファー織部金次郎』シリーズなど、多数の代表作を持つ名優でもある。その役者人生の裏側にあった苦闘、そして、国民的スターたちとの出会いなどについて聞いた。

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「海援隊の『母に捧げるバラード』がヒットしたのが、24歳のときでした。それで紅白歌合戦にも出してもらって、天下を取ったような気分になっていました。ところが、その後は潮が引くように売れなくなりました。新曲を作っても当たらないし、仕事はどんどん減っていく。何をやってもダメな時期が続きました。ヒットから3年たった頃には、スナックで皿洗いのバイトをしてましたから。いよいよ、芸能界から足を洗って田舎に帰ろうかと思っていたとき、映画の話をいただいたんです」

 その映画が、第1回日本アカデミー賞作品賞にも輝いた『幸福の黄色いハンカチ』だった。監督は『男はつらいよ』シリーズの巨匠・山田洋次である。

「最初は、落ち目のタレントをからかう『どっきりカメラ』を仕掛けられたのかと思っていました。だから、山田洋次監督に会って初めて、ホントの話なんだと分かったわけです。そりゃあ、うれしかったですよ。だって、手渡された脚本の出演者の欄に、高倉健倍賞千恵子桃井かおり渥美清(特別出演)とあるんだから。三流フォークシンガーには、まさに夢のような出来事でした。

 なぜ、僕が起用されたのかは、よく分かりません。ただ、人づてに聞いたところでは、山田監督は脚本の執筆中に、たまたまパチンコ屋で僕の曲を聴き、この人なら、最近の若者の言葉遣いができるんじゃないかと思ったみたいです」

 ロケは、春の北海道で1か月にわたって行われた。そこで待っていたのは、俳優としての厳しい試練だった。

■カニに当たって、下痢をするシーンも忘れられない

「なにしろ演技経験といったら、歌番組のコントをした程度。ズブの素人ですから。最初は雑貨屋でジャンパーを買うシーンの撮影だったんですが、戸の開け方がなってない、歩き方がダメだと言われ、最後は足の位置を床に書かれました。桃井かおりと出会うシーンでは、駐車場のチェーンに足を取られて転ぶんだけど、リハーサルだけで14回。最初、少し軽めにやったら“リハーサルで手を抜くほど、うまいのか。本気で転べ”と叱られました。

 カニに当たって、下痢をするシーンも忘れられません。車から飛び降りて、片手でティッシュの箱を持ち、片手でケツの穴を押さえて野グソしに走るんだけど、何回やってもОKが出ない。

 山田監督は“これは君にとっての悲劇なんだ。それを、おかしそうに演じるな!”と、すごい剣幕で怒鳴るわけです。こっちはもう、死に物狂いで芝居してたんですが。でも、山田組で、さんざん鍛えられたから、その後の僕の役者人生があったのは間違いありません」

 初めての映画撮影で戸惑い、途方に暮れ、悪戦苦闘する武田鉄矢に、そっと救いの手を差し伸べてくれたのは、主演の高倉健だった。

「当時、健さんは40代半ばの男盛り。もう、カッコいいのなんの。初めて現場で会ったときは膝が震えました。その健さんが、僕に声をかけてくれたんです。“おまえはいいな。監督は、おまえしか見てないよ。俺なんか、ほったらかしだぜ”僕が“そんなことないですよ。監督は俺が嫌いなんです”と、そっけない返事をすると、健さんは、こう耳打ちするわけです。

 “山田監督は伸びない役者はシゴかないって話だぜ”

 うれしくて、思わず涙がこぼれそうになりました。山田組はロケ先では俳優、スタッフが全員そろって夕飯をとるんですが、撮影も1週間を過ぎた頃、食堂の椅子に座ると、健さんから小さく丸めた箸袋を渡されたんです。広げると、“腹いっぱい食べるな。3人で出かけるぞ。桃井に渡せ”と書いてある。それで食べたフリをして、急いで部屋で着替えて玄関に行くと、健さんが車のエンジンをかけて待っていました。

 連れて行ってくれたのは峠のステーキハウス。もちろん、貸し切りです。健さんに“食いたいだけ食え”と言われるまま、たらふく肉を食べ、うまいワインをガバガバ飲んだものです」

 現在発売中の『週刊大衆』3月28・4月4日号では『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』に出演した際の渥美清との心温まるエピソードも語ってくれた。

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