名優・仲代達矢インタビュー「役所広司の素晴らしさは…」「苦手だったラブシーンについて」 (2/3ページ)
「将来、映画に出演して、撮影に30分遅れたら、どうなると思う? 何百人もの共演者やスタッフを待たせ、結果的に数百万円の損害が出ることだってある。プロの役者になる気なら、絶対に遅刻はするな」
本人に聞いたところ、これ以降、遅刻は一度もないそうです。
結局、彼は無名塾には3年いたのかな。独立後、テレビ、映画と次々に出るようになり、めきめき芝居がうまくなりました。もう、私を超えていますよ。
■「私はラブシーンが苦手」
ーー黒澤明や小林正樹の映画での名演で知られる仲代達矢だが、もう一人、出演作の多かった監督がいる。五社英雄だ。
五社さんは私より3つ年上です。年齢が離れていた黒澤監督や小林監督は親父のような存在でしたが、同世代の五社さんは兄貴のような感じでした。
五社さんの映画は日常のリアルさを追求するのではなく、ケレン味たっぷりの映像で見せるエンターテインメント。アクションとエロティシズムが大きな魅力で、女優の描き方が実にうまい。撮影にも非常に神経を使っていました。ただ、私はラブシーンが苦手で。最初に五社さんが女優相手に、私の代わりにやって見せてくれるわけです。私はその通りに演じました。
酒の席で一度、聞いたことがあります。
「監督は女好きですね」
五社さんがニヤッとした顔を、今も覚えています。そんな五社映画で文句なしの傑作といえば、『鬼龍院花子の生涯』(1982年)でしょう。五社さんもフジテレビを退社して初めての映画だったから、今観ても、命を賭けて挑んだような気迫が画面から伝わってきます。私が演じた主人公の「鬼政」も実に魅力的な人物で、高知弁のセリフがまた、よかった。