病原体が海を浮遊するプラスチックゴミで繁殖し、世界中に広がっている可能性
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プラスチックゴミによる海洋汚染が大問題になっているが、それは同時に新しい生物の住処にもなっている。そうした新天地を得た生物の中には、人間や動物に害をもたらす有害な細菌が含まれている。
英国で海にプラスチックを浸すという風変わりな実験が行われた。
すると実験開始から1週間で、プラスチックの表面はネバッとしたものでおおわれた。その中には細菌がうじゃうじゃと繁殖していたのだ。
こうした細菌に汚染されたプラスチックごみは、海を流れながら人間に感染する病気を世界に広め、海洋生物の健康を脅かし、私たちの食生活にまで悪影響を与えている可能性があると、研究者は懸念している。
・プラスチックの上で繁殖する病原菌
エクセター大学の微生物学者マイケル・ヴォス氏らがもっとも懸念するのは、生物に害をもたらす病原菌だ。
『Science of the Total Environment』(2022年5月28日付)に掲載された研究では、海に浸したプラスチックごみに湧いた細菌のリスクを確かめるため、その表面の「バイオフィルム(菌膜)」を蛾の幼虫に注射してみた。
プラスチックを1週間海に浸してできた菌膜の場合、注入されて死んだ幼虫は4%だけだった。ところが、4週間後のものでは65%が死んだのだ。
菌膜の中に細菌が潜んでいることも確認された。人間に感染して尿路感染症・皮膚感染症・胃腸感染症・肺炎など引き起こす病原菌がいることもわかった。
しかも、そうした病原菌は、抗菌作用に強くなる遺伝子まで持っていた。抗生物質の効かない薬剤耐性菌「スーパーバグ」である。
ヴォス氏は、「海水に浸したプラスチックにはすぐに細菌が湧いて、中には病原菌もいた。どんなプラスチックだろうとお構いなしだ」と、Hakai Magaizneで語っている。
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・寄生虫・ウイルス、有毒な藻類もプラスチックで繁殖する
海のプラスチックに繁殖するのは細菌だけではない。
寄生虫・ウイルス・有毒な藻類もいる。プラスチックごみによる海洋汚染は世界中で起きており、もっとも深いマリアナ海溝で確認されているほどだ。
プラスチックごみが病原菌を地球のいたるところに運んでいる可能性は十分にある。
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・プラスチックゴミの病原菌拡散リスク
そうした病原菌は実際に病気を引き起こすほどの量なのか? 本当にプラスチックごみのせいで世界に病原菌が広まっているのか? 確かなことはわからない。
だが、プラスチックで増殖した病原菌が、世界各地に拡散されていると信じられるだけの理由はある。
例えば「プラスチック圏(plastisphere)」という言葉を考案したオランダの微生物学者リンダ・アマラル=ゼットラー氏は、プラスチックは海にある普通の物体とは別物であると指摘する。それは頑丈で、大抵は浮かぶ。だから遠くまで移動する。
実際、2011年の東日本大震災では、日本から流れ出したごみがアメリカ西海岸に大量に打ち上げられた。そのとき、ごみに付着したものが一緒に運ばれたとしてもおかしくはない。
また別の実験によって、陸上で一般的な病原性寄生虫が海中でも死なず、海洋哺乳類に感染するらしいこともわかってきたという。
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トキソプラズマ、クリプトスポリジウム、ジアルジアといった寄生性原虫は、海中のマイクロプラスチックにも付着する。
だとすれば、こうした寄生虫が海で増殖する場所・時期・方法も変化しているかもしれない。
カリフォルニア大学デービス校のカレン・シャピロ氏は、「もしたまたま下水や河川、あるいは排水溝から溢れた水にプラスチックが混ざっており、そこに寄生虫が付着することがあれば、プラスチックの行先と同じところに流れ着く」と説明する。
それは海底や海流に浮かぶヒトデかもしれない。
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・プラスチックごみが薬剤耐性菌を広めている可能性
プラスチックごみは病原菌を各地に広めるだけでなく、細菌そのものが薬剤耐性を身につける手助けをしている可能性もある。
細菌は親から子だけでなく、「遺伝子の水平伝播」により仲間同士でも遺伝子を受け渡すことがある。小さなマイクロプラスチックの表面では、細菌が密集することになるため、遺伝子の水平伝播が起こりやすい。
またプラスチックには殺虫剤などの汚染物質も付着しているため、細菌との接触機会が増える。
詳しいことはわからないと前置きしつつ、ヴォス氏は「プラスチックの上では、薬物耐性を獲得させるより強い自然選択が起きている可能性があるとともに、そうした遺伝子を交換して耐性を広めるチャンスにも恵まれているかもしれない」と、説明する。
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・海の生態系にも悪影響を与える
プラスチック上で増殖した細菌は、病気を広めるだけでなく、私たちの食を脅かし、海の生態系にも悪影響を与えるかもしれないと、アマラル=ゼットラー氏は言う。
シーフードは人々の大切なタンパク源だが、プラスチックに巣食う病原菌の中には、魚や貝に感染するものもいるのだ。
マイクロプラスチックが、養殖場から養殖場へと、漁場から漁場へと病気を伝染させる可能性もある。
本当のリスクはまだ完全には理解されていない。だが、これまで判明していることだけでも、プラスチック汚染を防止すべきもう1つの理由にはなるだろう。
「病原菌まみれで漂うプラスチックについて、前向きになれる理由などない」と、ヴォス氏は言う。
References:Human Pathogens Are Hitching a Ride on Floating Plastic / written by hiroching / edited by / parumo
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