井上尚弥vsノニト・ドネア、アントニオ猪木vsモハメド・アリ…格闘技「世紀の一戦」の舞台裏
今も格闘技ファンの間で語り継がれる、「世紀の一戦」がある。令和の世に、そんな“歴史的試合”を次々と生み出しているのが、日本人初のボクシング3団体統一王者として、その名を世界に轟かせる井上尚弥だ。
「今年6月7日、WBAスーパー&IBF世界バンダム級王者として、WBC同級王者でフィリピンの英雄、ノニト・ドネアを2回TKOで下しました。彼は2019年にもドネアを激闘の末、下しているが、今回は圧勝。ドネアは1Rのダウンで記憶をなくしたそうです。3団体統一王者の井上は今や、日本ボクシング史上最強のチャンピオンです」(専門誌記者)
その強さを証明するかのように、ボクシング界で最も権威ある米専門誌『ザ・リング』が独自に作成する最強選手ランキング『パウンド・フォー・パウンド(PFP)』で、1位に選出されている。
「『リング』のPFPで1位になるなんて、もう別世界の話ですよ。日本人がトップ10に入ることすら、僕が生きているうちにはない、と思っていましたから」
こう感嘆するのは、自身も00年に坂本博之との“史上最大の日本人対決”を繰り広げた、元WBA世界スーパーフェザー級&ライト級王者の畑山隆則だ。
「同じチャンピオンの僕から見ても、井上選手はパンチ力、テクニック、耐久力、反射神経と、どれを取っても一流です。それでいて、非常に基本に忠実なボクサーで、隙がない。階級は違いますが、分かりやすく言えば、マイク・タイソンと同じレベル。3団体統一を成し遂げ、今も進化を続けているわけですから、化け物だと思います」(前同)
元チャンピオンも脱帽する強さ。王者・井上の最強伝説はまだまだ続きそうだ。
続いては、プロレス。昭和マット史に残る世紀の一戦といえば、1976年6月26日、日本武道館で行われたアントニオ猪木vsモハメド・アリ戦だろう。
■猪木が抱えていた、とてつもないプレッシャー
この試合に際し、猪木のスパーリングパートナーを務めたのが、“組長”こと藤原喜明。70年代の付き人時代から「猪木の用心棒」と呼ばれ、異種格闘技戦や危険な海外での試合などで常に猪木に帯同。護衛した藤原は、こう言う。
「たしか、巡業を2シリーズ休んで、猪木さんにずっとついていたんだよ。猪木さんは試合に向け、コンディションを整える練習とスパーリングをずっとやっていた。アリキック(スライディングキック)の練習をしてるところなんて、見たことがなかったよ」
猪木は、大きなプレッシャーと闘っていたという。
「感情の起伏が激しいというかね。突然、“俺、勝てるよな?”って聞いてきたり、“藤原、俺を殴れ”って言ってきたり、精神的に追いつめられていたようだった。あの試合、ハッキリ言えば死ぬか生きるかだからね。よく“真剣勝負”って簡単に言うけど、猪木さんは負けたら会社も潰れるだろうし、破産だろう。アリだって、負けたらボクサー生命がおしまいでしょ。ホントの真剣勝負だよな」(前同)
試合は緊迫感漂う中、アリキックを繰り返してはあおむけの体勢を取る猪木に、アリが「立ち上がれ」と挑発する展開が延々と続く。そのまま、2人は3分15ラウンドを闘い抜いた。
「真剣勝負はああいうものなんだ。侍が真剣で斬り合う果し合いだって、向かい合って微動だにせず糞尿だって垂れ流し。何時間もその状態が続いた後、一瞬の隙を見ての一太刀で勝負が決まるのと同じだよ」(同)
この試合は、3人のジャッジの判定が割れ、ドローとなった。ジャッジの一人、日本ボクシング協会公認レフェリーの遠山甲が猪木につける一方、プロレス側の遠藤幸吉がアリにつけたため、新日本セコンド陣が遠藤に対して激怒したという。
「アリの有効打がジャブ一発だったのに対し、猪木さんのローキックはかなりのダメージを与えていたから、猪木さんの勝ちだと思った。ところがドローだったので“なんでだよ?”と思ったら、遠藤さんだけがアリにつけてたっていうんだよな。それで俺と(ドン)荒川さんで“遠藤を探せ!”って、会場中を走り回った。取っ捕まえて、ぶん殴ってやろうってね」(同)
現在発売中の『週刊大衆』8月22・29日号では畑山隆則のインタビューも掲載している。