俳優・嶋田久作【人間力】インタビュー「芝居がうまいとかヘタとかは、作品にとってはそれほど重要なことじゃない…」導き出した役者の心得は?

日刊大衆

嶋田久作(撮影・弦巻勝)
嶋田久作(撮影・弦巻勝)

 映画『帝都物語』で、魔神・加藤保憲役でデビューするまでは……正確にいうと、翌年、同じ役で続編の『帝都大戦』の撮影に臨むまでは、役者になりたい、役者として食べていけたら……、そんなことを思ったことは、一度もありませんでした。

 大学を卒業後、コンピューター会社のプログラマー、生協のレジ打ちなどを経て、当時、僕が生業としていたのはアルバイトの庭師。生協時代はバンドを組んでミュージシャンを目指していて、佐野史郎と一緒にステージに上がったりもしていましたが、結局ものにならず諦めて庭師になったんです。

 そんな中、1984年にバンド時代の僕を知る飴屋法水に誘われて、劇団『東京グランギニョル』の旗揚げに参加しました。芝居は佐野史郎がいた状況劇場を2、3度見た程度で興味もなかったのですが、飴屋君個人に何とも言えない魅力を感じ、一度だけならと引き受けたんです。結局ギニョルは2年続けて解散しました。

 役者を職業として意識したのは、『帝都大戦』の準備に入ったときです。『帝都物語』までは庭師のアルバイトを続けていたのですが、「万が一、怪我で撮影ができなくなったら困る」という制作サイドの判断で、庭師を一旦辞めることになったんです。結局そのまま映画制作会社の預かりになって、残ったのが役者という仕事だったんです。これで食っていける自信もないままのスタートでした。

 そこからは、テレビドラマ、映画、舞台、ときにはアーティストのミュージックビデオなど、一つ一つその場その場で、気がつけば数え切れないほど多くの作品に参加させていただきました。これまでお仕事をしてきて、年齢を重ねていくごとに、演技に対して構える部分が少なくなっているような気がしています。

 昔は、役柄によって声の位置……トーンと言ってもいいんですが、その役としてセリフをしゃべるときに、ニュートラルな箇所を探り、声の位置を決める作業をしていたんです。物事に対して真正面にぶつかっていくタイプ、引いているタイプ、自分にも嘘をついているタイプ……それによっても声の位置も違いますから。

■自分で基本軸を決めるのは、面白くないなぁ

 でも、そうやって全部計算して、自分で基本軸を決めるのは、面白くないなぁと思うようになったんです。予測不能なことに対処するためにオタオタしている自分を見るのも好きだし、そういうものがスクリーンに映るほうが、観る人にとっては面白いかもしれない。そう思うようになってから、前より楽な気持ちで撮影に臨めるようになりましたね。

 これは極論かもしれませんが、芝居がうまいとかヘタとか、あまりうまくいかなかったとか、そういうのは、作品にとっては、それほど重要なことじゃないのかもしれない、とも思っています。

 大事なのは、監督がその作品で何を撮りたいのかということ。それに沿うような演技をすることのほうが大切だと思うんです。そのために、大きな無理はしないけど、ちょっとの無理はする。役者としての美学はないし、役者はこうじゃいけないというこだわりもありませんが、現場の空気感が伝わるような作品に参加できることに喜びを感じています。

 今回、子どもたちから、笑わないジジイ、略してワラジイと呼ばれる小学校の用務員役で参加させていただいた映画『凪の島』も、そんなすてきな作品の一本です。

 ちょっとだけ違ったのは、僕にしては珍しく、個人的な気持ちを表現する役だったこと。ゆったりと流れる時間の中で、何も考えず、皆さんと同じ空気の中で、感じたことをそのまま出すことができました。

 個人的なことを言えば、自分の芝居はヘタだけど、この映画は面白かったなぁとか、猫のように生きられたら幸せだろうなとか(笑)、日々の生活の中で思うことも多いんです。でも、人はいいところだけでできているわけじゃない。ダメなところも、どうしようもないところもたくさんあると思っています。なので、そのタイミングで感じた自分の思いを大切に、これからも頑張っていきたいですね。

嶋田久作(しまだ・きゅうさく)
1955年4月24日 神奈川県生まれ。29歳で劇団『東京グランギニョル』の旗揚げに参加。1988年に映画『帝都物語』でデビュー。魔人・加藤保憲役で強烈な印象を残した。以降も、冷酷無比な悪役からコミカルな役まで幅広くこなし、数多くの映画、テレビドラマ、舞台に出演。日々の出来事と仕事情報を伝えるブログ『猫可愛がり。だからダメなんだ~嶋田久作blog~』も人気を博している。

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