“終活”中の中尾彬が語る「60歳くらいまでは、気に入らないこともいっぱいやったほうがいい。そうすると、だんだん不純物が沈殿して澄んでくる」人間力インタビュー

日刊大衆

中尾彬(撮影・弦巻勝)
中尾彬(撮影・弦巻勝)

 私は千葉県木更津の生まれで、絵ばっかり描いている少年だったんです。そこで、美大に入ってパリに留学したところ、「塩と砂糖を描き分けろ」って試験が出た。

 そんなの無理だよと思ったんだけど、ブラジルから来たヤツが描いたのを見ると、どっちがどっちか、ちゃんと分かるんだよね。

 ああ、こりゃ俺に絵描きは無理だと思って俳優の道に進んだわけだけど、役者になってみて分かったね。

 似せようとしたから、描けなかったんだ。「これはしょっぱい塩だ」「甘い砂糖だ」という気持ちで描けばよかったんだということが。

 絵と芝居はよく似てると思うんだ。私は芝居をやるとき「この役はどんな色だろう?」と考えるし、風景画を描いているときは、「あの窓からはニンニクを炒める匂いが漂ってきている」と想像する。そうすることで、役のたたずまいが立ちのぼってくるし、絵にはドラマ性が生まれる。

 映画もそう。いい映画っていうのは、時代の色あいや匂いが映っている映画だと思っていますね。

 私は台本をもらったら、この男は何を着て、どんな眼鏡をかけ、どんなかばんを持つだろうと細部にわたって監督と話し合います。だから、家には眼鏡やら時計やら、もちろん“ねじねじ”のストールが山のようにありました。

 そう。「ありました」と過去形。2017年に病気をしたのを一つのきっかけに、ありとあらゆるものを処分したんです。いわゆる、終活ですね。だって、私と(奥さんの池波)志乃には子どももいないし、残しておいたって邪魔なだけだからね。

■終活の基本は「もったいない」と思わないこと

 終活の基本は「もったいない」と思わないこと。どうしても迷う物があったら、1週間置いておいて夫婦で相談して「やっぱり必要」と思ったら、残す。そうすると、ほとんどの物が必要じゃないね。写真なんて、1枚もない。全部燃やしちゃったから。

 一般的には女性のほうが物への執着があるみたいだけど、うちの場合は志乃のほうが潔いね。もう、どんどん捨てちゃう(笑)。

 今は食事が楽しみだね。私は作るのも食べるのも好きだけど、いろいろ食べてきて思うのは、おいしいというのは、素材そのものの味わいだね。

 料理っていうのは、材料を理解する、って書く。それさえ分かっていれば、おいしいものはできるんだよ。

 よく「やってみたら意外とおいしかった」っていうけど、やってみないのが一番だね。「トマトに溶けるチーズをかけて焼いたら意外とおいしかった」なんて、意味が分からな
い。トマトは旬の時期にそのまま食うのが一番うまいに決まってるじゃないか!

 なんだか、世の中がどんどんおかしな方向にいっている気がするね。

 多くの若者が勉強してないように思えるんだけど、それにも驚くよ。俳優という仕事をしていながら、昭和の名作映画を観もしない人がいるというのには理解に苦しむ。何にも知らないくせに、スマートフォンとやらでチャッチャと調べて、知ったような気になってる。

 だいたい、スマートフォンなんて偉そうにいうけど、しょせん、電話なんだよ? なのに、親しい人の電話番号すら記憶していない。スマートフォンを紛失したらどうするつもりなんだろう。私はガラケーで、パソコンのインターネットもやらないけど、何の不便もない。

 今年80歳になり、世の中に気に入らないことはあれこれあるけれど、この先、好きなものを食べて、好きな仕事をしていきたいね。

 しかし、成長過程……そうだな、60歳くらいまでは、気に入らないことも、いっぱいやったほうがいい。恥をかいたり、泣き言を言ったり、たまには悪いこともしたほうがいい(笑)。そうすると、だんだん不純物が沈殿して澄んでくるから。

 私はもう上澄みの部分で、好きなことをやり、溶けるチーズなんてかけないで旬の食材を食い、うまい酒を飲んでいこうと思ってるよ

中尾彬(なかお あきら)
1942年8月11日生まれ。千葉県出身。61年に武蔵野美術大学油絵学科に入学。日活第5期ニューフェイスに合格し、64年に映画『月曜日のユカ』でデビュー。数多くの映画、テレビドラマに出演しながら、83年にフランスの絵画展「ル・サロン」でグランプリを受賞。近年はバラエティ番組にも活躍の場を広げている。

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