「鎌倉殿の13人」突き進む実朝が見落としているものとは?第43回放送「資格と死角」振り返り
「北条を許してはなりません。そして、北条に祭り上げられた源実朝もまた、真の鎌倉殿にあらず!」
そう公暁(演:寛一郎)をそそのかした三浦義村(演:山本耕史)。今回は三浦が源実朝(演:柿澤勇人)暗殺の黒幕である説を採用したようです。
※ただし、公暁本人が暗殺してしまったら鎌倉殿にはなれなさそう(義村の野望を果たせなさそう)ですが……。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、第43回放送は「資格と死角」。サブタイトルにあった死角とは、実朝の直衣始(のうしはじめ)を木陰(大銀杏?)から見据える公暁の存在だったのでしょうか。
このまま頼仁親王(よりひとしんのう。後鳥羽上皇の皇子)が鎌倉殿を継いで、源仲章(演:生田斗真)がいわば関白として政治を牛耳るのか、それとも北条義時(演:小栗旬)が巻き返しを果たすのか。
今週も入り乱れる各人の思惑。それぞれピックアップして行きましょう。
大江広元の重すぎる忠義「大江殿……重すぎます」
「失礼いたしました(スン)」
だから深入りするなとあれほど……言っていませんが、見事にフラれてしまった大江広元(演:栗原英雄)。もちろん成就するとは思っていないでしょうが、おじさんの淡い夢はみごとに打ち砕かれます。
政子への想いを募らせる広元。心の眼が彼女をより美しく魅せる(イメージ)歌川国貞筆
少しでも距離を縮めたい気持ちは解るものの、ちょっとがっつき過ぎな印象を受けました(こういうのは大抵、女性側のペースに任せた方がいいようです)。
以前ちょっと手を握ってもらったくらいで、つい期待してしまうのは男性の悲しい性(筆者調べ)……まこと同情を禁じえませんね。それでも尼御台・政子(演:小池栄子)推しをやめず、的確な献策を続ける姿勢は推しの鑑(まぁ、それが仕事なんですけどね)。
ちなみに『吾妻鏡』では病気のため出家している広元ですが、見栄え?か視聴者が見分けやすい都合のためか、このままのスタイルでいくようです。
終盤に入って残り少ない癒し枠をつぶされてしまったのか、それとも最後まで思わせぶりな展開を引き延ばすのか、引き続き見守っていきましょう。
上洛した政子、藤原兼子と渡り合うさて、広元をフッた(という訳ではない)政子。実朝の養子を迎えるべく「母にお任せあれ」と一路京都へ。本件のキーパーソンである藤原兼子(演:シルビア・グラブ)に謁見します。
「お口汚しですが……」
「坂東では、口が汚れるようなものを差し出すのか」
いきなりキツめのジャブを食らった政子。以前であれば慌てて進物の干し蛸を取り下げたでしょうが、すかさず反撃を繰り出しました。
「お口に合えばよいのですが」なんて言ったら「口に合わなかったらどうしてくれる」とか言われそう。どのみちイチャモンをつけたかったのである(イメージ)
「たまには口が汚れるものも食べた方が、日ごろの食事に感謝できるようになりますよ」
この吾妻女(あづまおんな。東国女性に対する蔑称)、なかなか言いおる……「遠い所からようこそ」と繰り出せば「地の果ての鎌倉より」来たと応える政子。卑屈なようでいて、したたかな本性を兼子は気に入ったようです。
さて、鎌倉殿の候補となり得る(出家していない)皇子は現時点で雅成親王(まさなりしんのう。母は藤原重子)と頼仁親王の二人。
頼仁親王の母は実朝の正室・千世(演:加藤小夏。坊門姫)の姉妹、そして兼子が育ててきました。
当今(とうぎん。現在の天皇陛下=ここでは第84代・順徳天皇)にお子が出来て、皇位継承の望みが薄くなってしまった頼仁親王が鎌倉殿となれば、兼子の地位も固まります。
すっかり意気投合して政子を従三位(じゅさんみ)に推薦した兼子。その後も朝廷と鎌倉の架け橋として力強い味方となってくれるのでした。
大任を果たして鎌倉へ戻った政子の「従三位」ポーズは、前に頼朝と「征夷大将軍!」を喜び合った時を思い出します。ぎこちなくもポーズを真似てくれた実朝の不器用さも可愛いですね。
そして自室で寝っ転がる政子。鎌倉の命運を担う大任を果たした安堵感が伝わります。本当にお疲れ様でした。
トキューサ、後鳥羽上皇をどつく政子のお付きとして上洛につき合ったトキューサこと北条時房(演:瀬戸康史)。かつて「いつか京都で公家たちと渡り合えるように」と学んだ蹴鞠の腕を発揮する時が来ました。
後鳥羽上皇(演:尾上松也)が寄越した鞠を華麗に蹴って返し、しばし妙技の応酬を繰り広げます。
「東夷(あづまゑびす。東国人に対する蔑称)のくせにやりおるな」
「何だと、この~」
よもや相手が上皇陛下とは思わない時房は、後鳥羽上皇を軽くどつく暴挙に(仮に上皇でなくても、明らかにやんごとなき方に手を出すのはどうかと思いますが)。たちまち捕らわれたものの、上皇によって解放されました。
慈円「北条時房にございます」
後鳥羽上皇「そなたが北条トキューサか」
時房「トキューサにございます!」
蹴鞠の腕と物怖じしない時房を気に入った後鳥羽上皇、「我が子を鎌倉に与える話、進めてやれ」と指示。思いがけない大手柄です。
「また会おう」と去って行った後鳥羽上皇。果たして両者の蹴鞠対決は見られるのでしょうか。
実朝、頼朝を超えるもう子孫は残さないから、せめて高位を望もう。そんな実朝は建保6年(1218年)3月6日、左近衛大将に任じられました。
亡き父・源頼朝(演:大泉洋)の生涯最高位が右近衛大将。右よりも左の方が上位なので、官職としては父を超えたことになります。
ちなみに、左近衛大将と同時に左馬寮御監(さまのりょうごげん)を兼任。同年10月9日に内大臣、同じく12月2日には右大臣まで上り詰めました。
朝廷の後ろ盾をいかんなく発揮して強い鎌倉殿を目指す姿は、自らに足りなかった資質を補おうとしているようです。
ただしそれはあくまで朝廷の威を借ってのこと。また朝廷との橋渡しを務める源仲章の台頭と引き換えでした。
また、御家人たちの権力争いを止めることばかりに集中しているため、甥の公暁が露骨に野心を覗かせていることにさえ気づきません。
これは死角というより完全な不注意。やはりある程度の合意は形成しておいた方が良かったのではないでしょうか。
最初は反対していた義時も、朝廷から「人質をとる」という解釈で皇族を鎌倉殿に迎えることに同意します。
順調に昇進し、後継者問題も解決の方向に向かっている。いわばこの時期が、実朝にとってピークだったと言えそうです。
泰時、讃岐守を辞退順風満帆?な実朝は、側近として尽力してくれた北条泰時(演:坂口健太郎)を国司に推挙しようと言い出しました。
仲章「ならば、菅原道真(すがわらの みちざね)公と同じ讃岐守などはいかがかと……」
菅原道真と言えば学問の神様として祀られる天才。ですが、一方でその生前は左遷されて不本意な最期を遂げています。
(そんな事さえ、お前ら坂東武者は知らないだろう)
と仲章が思ったかはともかく、泰時はこれを辞退。その真意を聞いた義時は安心しました。
「お前は私を嫌っているのは分かっている。しかし私は、お前を認めている。お前は必ず私を越える執権となる。その時に必ず障害となる仲章に借りを作るな(取り込まれるな)」
初めて?気が合ったという泰時。今まで自分が手を染めてきたもろもろを少しでも理解してもらえて、義時も嬉しかったことでしょう。
義時がなろうとしてなれなかった執権とは、恐らく後世の私たちが知る「俺たちの泰時」像を指していることと思われます。
でも、口にすると下手に意識されて叶わなそうな気もする、そんな微妙な思いが義時の表情からうかがい知れたでしょうか。
ちなみに、泰時を讃岐守に推挙するエピソードは『吾妻鏡』にも記録されており、やはり泰時は辞退しています。
余談ながら、北条朝時(演:西本たける)が手を出した“ちぐさ”なる女性は、きっと彼のチャラ男っぽさを引き立てるための創作(架空の人物)でしょう。
「俺たちの泰時」を引き立てたい気持ちも解りますが、朝時のカッコいいところも魅せて欲しいですね(あと、できれば三男の重時も……)。
次週、第44回放送「審判の日」わざとらしい義村の演技にまんまと唆され、実朝討つべしの決意を固める公暁。ところで劇中「京から来た意味がない」的なことを言っていましたが、彼が修行した園城寺(おんじょうじ。三井寺)は現代の滋賀県大津市にあります。
※でもまぁ、京都の世界遺産登録に際しては比叡山延暦寺(滋賀県大津市)も含まれており、「あの辺一帯『ぜんぶ京都』でええやろ」と思われているのかも知れませんね。
次週はいよいよ実朝暗殺か?それとももう1回引っ張るでしょうか。第44回放送は「審判の日」、サブタイトルの審判は誰が誰に下すのか、いろんな含みがあって(むしろあり過ぎて)ゾクゾクしてしまいます。
果たして実朝暗殺の黒幕は義村か、いや、三谷幸喜がそんな分かりやすい筋書きで満足するはずがない……今後の展開に注目です。
※参考文献:
三谷幸喜『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』NHK出版・2022年10月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan