豊川悦司、60歳になって考えたこと「『豊川悦司』という男にほんの少しでいいから、俳優以外の人生を与えてあげたい」

日刊大衆

豊川悦司(撮影・弦巻勝)
豊川悦司(撮影・弦巻勝)

 僕が「色っぽいなぁ」と感じる女性は、“自由な人”です。性別に縛られず、やりたいことをやり、自分に正直な女性を見ると、とても魅力的に感じます。

 今回、映画『あちらにいる鬼』で共演したお二人、寺島しのぶさんと広末涼子さんも、非常にかっこよくて、色っぽい女性たちでした。

 寺島さんが演じた「長内みはる」のモデルは瀬戸内寂聴さんですが、彼女も、とてつもなく男前で、非常に色っぽい女性だったと思います。

 僕が演じた「白木篤郎」という作家は、井上光晴さんがモデルです。みはると篤郎は、いわゆる不倫の関係で、広末さん演じる白木の妻と、奇妙な三角関係となっていく。

 映画の中で描かれているこの関係は、ほぼ事実なんですね。しかも、原作小説を書いた井上荒野さんは、井上さんのご長女。生前の寂聴さんから当時の話を聞いて小説を書かれたというのですから、ここにも一人、色っぽい女性がいることになります。

 寂聴さんと井上さんが恋に落ちたのは昭和40年代で、まだスターがスターでいられた時代。二人とも間違いなく文学界のスターですから、この道ならぬ恋は、今とはまったく違った受けとめられ方をしていたのではないでしょうか。

 今回の作品もそうですが、僕は実在の人物を演じることが多いんです。資料が残っているから役のイメージにアプローチしやすい反面、どう演じてもその人物を知っている人から「ここが違う」と言われる可能性も高い。

 その点、架空のキャラクターは、脚本家やプロデューサー、ディレクターと一緒に新たな人物を、自由に作っていく楽しさがあります。自分としてはやはり、オリジナルの役のほうがワクワクしますね。

■「豊川悦司」という男にほんの少しでいいから、それ以外の人生を与えてあげたい

 1995年のドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)で、僕が演じた、聴覚障害を持つ画家「榊晃次」も、企画の段階からみんなで作った一人です。

 不安だったのは、障害を持つ主人公のドラマが受け入れてもらえるのかということ。当時はまだ、障害を持つ人に対しての理解が今ほどありませんでしたから。でも、せっかく僕をキャスティングしてくれるのだったら、それまでなかったようなラブストーリーを、皆さんに観てもらいたい。そんな思いで取り組みました。僕にしてみれば野心的な作品だったので、とても評判になってうれしかったです。

 俳優という仕事は、観てくれる人に「面白い」と感じてもらわなければいけないと思っています。僕らが好き勝手やってもいいけど、伝わらなければ、作っている側の努力はゼロになってしまう。だから、いかにお客さんに楽しんでもらえるか、ということを考えながら演じています。

 映画やドラマは、お客さんの反応を直接感じることはできません。でも僕は、映像作品における最初の観客は、カメラマンや監督、現場にいるスタッフだと思っているんです。

 カットがかかった後のスタッフの表情を見ると、うまくいったかどうか、なんとなく感じられる。監督が「オッケーッ!」とテンション高く言ってくれると、「今のは良いカットだったかな」と手応えを感じる。そんなふうに分かるんですね。

 僕も長いこと俳優をやってきて、今年60歳になりました。もういいかげん、残された時間が見えてきたので、それをどう使うかということも考えます。

 僕には、これまで俳優しかやってこなかった「豊川悦司」という男にほんの少しでいいから、それ以外の人生を与えてあげたいな、という思いがあります。

 できることなら数年間、海外で暮らして、見たことがない景色や空気を体験させてあげたいですね。

豊川悦司(とよかわ・えつし)
大阪府出身。主な出演作に、ドラマ『愛していると言ってくれ』『青い鳥』(ともにTBS系)、映画『Love Letter』『愛の流刑地』『犯人に告ぐ』『ミッドウェイ』『キングダムⅡ 遥かなる大地へ』など。来年には『そして僕は途方に暮れる』、主演作『仕掛人・藤枝梅安』の公開が控えている。

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