朝ドラ『舞いあがれ!』『silent』絶賛の目黒蓮登場直後に「#反省会」勃発!識者に聞く「批判の理由」
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目黒蓮

11月21日放送の第36回で、第8週「いざ、航空学校へ!」に突入したNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』。福原遥(24)演じるヒロイン・岩倉舞が旅客機のパイロットになることを目指して「航空学校」(航空大学校がモデル)を受験。めでたく合格し、Snow Manの目黒蓮(25)演じる柏木弘明や山崎紘菜(28)が演じる矢野倫子など、新たな仲間と共に航空学校の厳しい訓練に挑みはじめた。
ヒロインは夢への大きな第一歩を踏み出したわけだが、視聴者からの反応は芳しくない。黒島結菜(25)が主演した2022年度前期の朝ドラ『ちむどんどん』では、放送直後から視聴者の間で「#ちむどんどん反省会」とのハッシュタグがつけられた猛列な批判ツイートが飛びかっていたのだが、その炎上朝ドラと同様に、「#舞いあがれ反省会」というハッシュタグが作られしまったのだ。
視聴者からは「舞ちゃんのキャラ変で舞いあがれの公式フォロー外した」「違和感しか感じなかった。あれ?舞ちゃんこんなにドジというか抜けてたかな?と」いった意見が、数多く寄せられている。
『舞いあがれ!』は、2021年6月2日、脚本の桑原亮子氏に加えて嶋田うれ葉氏、佃良太氏の2人が加わることが発表されていて、第8週でついに嶋田氏が担当する週がスタートしたのだが、桑原氏が丹念に描いてきた第7週までの『舞いあがれ!』を愛する視聴者にとっては、受け入れがたかったようだーー。
『舞いあがれ!』視聴者のナイーブな反応はいったいなぜ起きたのか――。当サイトは『みんなの朝ドラ』(講談社)、『ネットと朝ドラ』(株式会社blueprint)などの著書があり、ライター・評論家として活躍する木俣冬氏に話を聞いた。
■作風が変わったのは視聴者の気のせいではない
『舞いあがれ!』の航空学校編は、まだ始まったばかり。にもかかわらず、ネット上に批判の声が寄せられているのは、一体なぜなのか。
「先週までのトーンとがらりと空気が変わったのは、見ているほうの勘違いや思い込みということではないですね。制作統括の熊野律時チーフプロデューサーに取材した際、“航空学校編はいわゆる学園もの的な要素が濃くなり、パイロットという明確な目標があるワンチームと教官という世界で芝居が進んでいくので必然的にテンポやタッチが変わりました”とおっしゃっていました。そのため、第7週までのゆったりした空気や人の心をじっくり描くことを好ましいと思っていた方が驚いたり、戸惑ったりすることが起きたのかと思います」(木俣冬氏=以下同)
第8週の21日放送の第36回で、アルバイト先の喫茶店で福原演じるヒロイン・舞がコーヒーをこぼしそうになったり、22日放送の第37回で舞が山崎演じるルームメイト・倫子の後をつけて話を立ち聞きしたりするシーンが登場し、視聴者から「舞の性格が変わった」というダメ出しが続出している。
舞は引っ込み思案で、自分よりも相手の気持ちを優先してしまうという設定なのだが、想定から外れた描写が、視聴者からここまで批判されてしまう原因は何なのだろうか。
「いわゆる”ドジっ子”キャラが好きな人もいますよね。ただ、世の中の何割かはそういうキャラを好まない人もいて、『舞いあがれ!』の第7週までの舞はそういう人物ではない、不器用ながら思慮深い人物だったことを好ましく思って見ていたのに……と落胆した層がいると思います。
舞台や登場人物が変わったから雰囲気が変わることもあっていいとはいえ、朝ドラファンの中には、しっとりとした上質な表現を求める層がいるように思います。そういう人たちはコメディにもハイレベルを求めます。
13年度前期の朝ドラ『あまちゃん』に登場するギャグも、ストレートではなく宮藤官九郎さん(52)らしいひねりのある描写になっていますが、主人公がドジをしてもその描写をものすごくひねっている。
そうした作品を好む人の中には、ひねりのないストレートな表現に満足しない描写に一家言ある”というファンがいるのではないでしょうか」
■『ちむどんどん』の反省会文化が残した爪痕
『舞いあがれ!』のトーンの変化への抵抗感は、黒島がヒロインを務めた朝ドラ『ちむどんどん』が朝ドラファンに残した爪痕も強く関係しているようだ。
「まずはそれだけ熱心に思い入れて朝ドラを見ている人が多いということ。そういう人がSNS 上で増加したため『ちむどんどん』で反省会がブームにまでなりました。批判をすることが“ある種の遊び”になってしまったのかな、という気がしています。第7週までの『舞いあがれ!』はツッコミどころのないドラマで、それが物足りず“なんか突っ込ませて”と思っていたところ、今までとは違うノリになったのでツッコミの虫が騒いでしまったのかな、と。
ツイッターというSNSを利用するにあたって、ドラマの感想を“よかった”と褒めるより“あれがよくない”、“ここに気づいた!”というほうが参加意識を実感しやすいのかもしれないですよね。間違い探しクイズのようなある種素朴な遊び気分もあるのかな。いずれにしても、朝ドラが大好きで隅々まで見ている人たちのまなざしはとても鋭いのだと思います」
桑原氏の脚本は繊細な人物描写と、相手を思いやる登場人物の暖かいやり取りが好評を博してきたのだが、嶋田氏と佃氏の持ち味はどういったところなのだろうか。
「20年度前期の朝ドラ『エール』でも嶋田さんは一部の脚本を担当していましたが、そこで描かれたものが嶋田さんのカラーなのかと言われたら、今一つわからない。ただ、非常に現代的な会話劇が得意で、軽みとテンポがある今どきの人の会話を空気をうまく表現していると思います。ドラマにとって重要なテーマ、ノリをちゃんと理解して取り込む方。脚本を担当された映画『天間荘の三姉妹』も、非常に複雑な構成の原作とたくさんの登場人物をうまくまとめていたので、かろやかに手堅くまとめるのが得意な方だと思います。
佃さんは、NHK主催の第44回創作テレビドラマ大賞を受賞した『星とレモンの部屋』を見たことがあります。引きこもりの主人公の心をとても丁寧に書いている印象でした。その一方で、竹内涼真さん(29)主演の『君と世界が終わる日に』(日本テレビ系)など、ゾンビものの脚本にも参加されていた。しっとりした心の機微を描く作品も、エンターテインメント作品も書ける人。『星とレモンの部屋』のような作風が佃さんの本質であるのならば、桑原さんの作風に近いものが描けるのかなと感じます」
■目黒蓮ファンと朝ドラファンの間にすきま風
Snow Manの目黒が演じる柏木弘明は、航空学校の面接試験で舞と共に受験し、高飛車な態度で舞を驚かせた。入学直後も鼻持ちならない態度は変わらず、エリート意識バリバリの性格だ。目黒ファンにとっては、待望の登場となるが、どのような展開が期待できるだろうか。
「やっぱり、主人公の舞ちゃんとすごく絡んでくるでしょうね。最初の出会いの印象が悪いので、そのまま常にライバル視しつつ、お互いケンカをしながら実は仲がいいみたいな感じになるのか……。ツンデレな感じで、“実はなんかいい人”みたいに急にデレたりするようなところがあるのかなと想像します(笑)」
目黒の『舞いあがれ!』出演が始まり、朝ドラファンの間では「どなかたも仰ってたけど特定の俳優さんのファンだけが盛り上がるドラマにはなってほしくないな」「ただでさえジャニオタの呟きが多くてイライラしてる朝ドラファンの方多いのに」と、目黒ファンへのけん制とも取れる感想もSNS上に寄せられている。
「目黒さんのファンは彼の才能を愛していて、“才能をちゃんと見てほしい”ってことですよね。そういう意味では『silent』(フジテレビ系)で演じる佐倉想のような、ナイーブで柔らかい印象の役でなく、真逆でクールでかちっとした感じの柏木は、目黒さんの演技の幅の広さを感じさせます。
『silent』で目黒さんが好きになった人が、今回の朝ドラで色んな芝居ができるんだってことに気づくことができたら、以前から目黒さんのことが大好きな人も悪い気持ちはしないのではないかと思います。
好かれることが第一目的ではなく、その都度、自分の役割を的確に表現する職人として取り組まれているような印象です。それが結果的に多くの人に支持されることになっているのではないでしょうか」
航空学校編は第8週から第12週にかけて描かれる。今後、ギアチェンジをした物語はどのような景色を視聴者に見せてくれるのだろうか――。
木俣冬(きまた・ふゆ)
ライター、インタビュアー。ドラマのノベライズ作家としても活躍。著書に『みんなの朝ドラ』(講談社)、『ネットと朝ドラ』(株式会社blueprint)ほか多数。日本ペンクラブ会員。