「鎌倉殿の13人」公式記録『吾妻鏡』から実朝暗殺と公暁の末路をたどる。第45回放送「八幡宮の石段」予習

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「鎌倉殿の13人」公式記録『吾妻鏡』から実朝暗殺と公暁の末路をたどる。第45回放送「八幡宮の石段」予習

父を殺された怨みと鎌倉殿への野心をむき出しに、源実朝(演:柿澤勇人)の暗殺を謀る公暁(演:寛一郎)。

それを知りながら、鎌倉を見捨てようとする実朝の見殺しを決め込む執権・北条義時(演:小栗旬)。こちらはこちらで源仲章(演:生田斗真)の追及を前に保身を図らねばなりません。

一方、公暁を焚きつけておきながら感づかれたことを察して、一度は手を引いた三浦義村(演:山本耕史)。暗殺の成否次第で出方を変えるようですが、果たしてどんな動きを見せるのでしょうか。

拝賀を終えて退出する実朝たち(イメージ)小国政「歌舞伎座三月狂言 鶴ヶ岡八幡宮社前の場」

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、第45回放送は「八幡宮の石段」。一週間のお預けを食らって、ようやくあの名場面(のはず)です。

今回も鎌倉幕府の公式記録『吾妻鏡』から実朝暗殺と公暁の末路をたどり、大河ドラマを予習していきましょう。

ドキュメント1219.1.27……『吾妻鏡』が伝える実朝暗殺

まずは『吾妻鏡』建保7年(1219年)1月27日条から。長いので、こまめに意訳していきます。

……令入宮寺樓門御之時。右京兆俄有心神御違例事。讓御劔於仲章朝臣。退去給。於神宮寺。御解脱之後。令歸小町御亭給……

【意訳】八幡宮寺の楼門に入ろうという時になって、義時(右京兆)がにわかに体調不良を訴えました。それで太刀持ちの役目を仲章に代わってもらい、小町の自邸まで帰ります。

……及夜陰。神拝事終。漸令退出御之處。當宮別當阿闍梨公曉窺來于石階之際。取劔奉侵丞相……

【意訳】夜になって神事が終わり、退出した実朝が石段に差しかかったところ、別当の阿闍梨公暁が抜刀して実朝(丞相≒右大臣)を斬り殺し(侵し奉り)ました。

……其後隨兵等雖馳駕于宮中〔武田五郎信光進先登〕。無所覓讎敵。或人云。於上宮之砌。別當阿闍梨公曉討父敵之由。被名謁云々……

実朝を狙った公暁。小国政「歌舞伎座三月狂言 鶴ヶ岡八幡宮社前の場」

【意訳】騒ぎを聞きつけて武田信光(たけだ のぶみつ。武田信義の子)ら御家人たちが駆けつけたものの既に賊の姿はありません。目撃者の証言によると、公暁が「父の仇討ちを果たした」と宣言していたとか。

……就之。各襲到于件雪下本坊。彼門弟悪僧等。籠于其内。相戰之處。長尾新六定景与子息太郎景茂。同次郎胤景等諍先登云々。勇士之赴戰塲之法。人以爲美談……

【意訳】そこで御家人たちは雪ノ下にある公暁の宿舎を襲撃。立て籠もっていた悪僧らと戦闘になります。この時、長尾景茂(ながお かげもち)と長尾胤景(たねかげ)兄弟が真っ先に斬り込んだとのこと。さすが名立たる勇者と人々は賞賛しました。

……遂悪僧敗北。闍梨不坐此所給。軍兵空退散。諸人惘然之外無他。爰阿闍梨持彼御首。被向于後見備中阿闍梨之雪下北谷宅。羞膳間。猶不放手於御首云々……

【意訳】悪僧らはついに敗れたが、公暁の姿はなく、ひとまず引き上げるよりありませんでした。一方、公暁は実朝の首級を持って後見人である備中阿闍梨(びっちゅうあじゃり)の元へ逃げ込みます。よほど興奮していたのか、あるいは戦果を奪われまいと思ったのか、公暁は食事の最中も実朝の首級を抱え込んでいたと言います。

……被遣使者弥源太兵衛尉〔闍梨乳母子〕於義村。今有將軍之闕。吾專當東關之長也。早可廻計議之由被示合。是義村息男駒若丸依列門弟。被恃其好之故歟……

【意訳】一息ついた公暁は乳兄弟の源太兵衛尉(げんたひょうゑのじょう)を三浦義村の元へ派遣しました。曰く「たったいま鎌倉殿に空きが出来たから、我こそが坂東武者の棟梁になろうと思う。早く段取りをつけてくれ」と。これは門弟の駒若丸(演:込江大牙。三浦光村)が義村の息子だったため、そのよしみを恃んでのことのです。

……義村聞此事。不忘先君恩化之間。落涙數行。更不及言語。少選。先可有光臨于蓬屋。且可獻御迎兵士之由申之。使者退去之後。義村發使者。件趣告於右京兆……

【意訳】公暁の連絡を受けた義村は、先君(源家三代)の恩義を思い出して涙しました。しかし使者には「かしこまりました。お迎えを出しますので、しばしお待ち下さい」と答え、一方で義時に対してこのことを伝える使者を出します。

……々々無左右。可奉誅阿闍梨之由。下知給之間。招聚一族等凝評定。阿闍梨者。太足武勇。非直也人。輙不可謀之。頗爲難儀之由。各相議之處。義村令撰勇敢之器。差長尾新六定景於討手。定景遂〔雪下合戰後。向義村宅〕不能辞退……

長尾新六定景。歌川国芳筆

【意訳】義時はただちに公暁の討伐を決定。一族を招集しました。「阿闍梨(公暁)は武勇に長けており、並大抵の者では太刀打ちできません」そこで義村は長尾定景(さだかげ。長尾兄弟の父)を討手に指名。息子たちに引けはとれないとばかり奮い立ちました。

……起座着黒皮威甲。相具雜賀次郎〔西國住人。強力者也〕以下郎從五人。赴于阿闍梨在所備中阿闍梨宅之刻。阿闍梨者。義村使遲引之間。登鶴岳後面之峯。擬至于義村宅。仍與定景相逢途中。雜賀次郎忽懷阿闍梨。互諍雌雄之處。定景取太刀。梟闍梨〔着素絹衣腹巻。年廿云々〕首……

【意訳】さっそく定景は黒革縅の鎧を身に着け、力自慢の雑賀次郎(さいが じろう)はじめ精鋭5名を引き連れて出発。備中阿闍梨の邸宅へ向かったところ、待ちきれなかった公暁たちと遭遇。雑賀次郎が公暁を取り押さえ、定景が太刀をとってその首級を上げます。

……是金吾將軍〔頼家〕御息。母賀茂六郎重長女〔爲朝孫女也〕公胤僧正入室。貞曉僧都受法弟子也。定景持彼首皈畢……

【意訳】公暁は源頼家(演:金子大地)の遺児で、母は賀茂重長(かも しげなが)の娘・つつじ(演:北香那。辻殿)。鎮西八郎の二つ名で恐れられた豪傑・源為朝(ためとも)の孫娘です。やがて公胤僧正(こういんそうじょう)・貞暁僧都(じょうぎょうそうず)に弟子入りしました。その首級を、定景が持ち帰りました。

……即義村持參京兆御亭。々主出居。被見其首。安東次郎忠家取脂燭。李部被仰云。正未奉見阿闍梨之面。猶有疑貽云々……

【意訳】公暁の首級を受け取った義村は、ただちに義時へ献上します。郎党の安藤忠家(あんどう ただいえ)が照らしてみたところ、北条泰時(演:坂口健太郎。李部)が言うには「阿闍梨殿をちゃんと見たことがないので、本物かどうか判りませんね」とのことです。

立ちまくりだった死亡フラグ

以上が『吾妻鏡』の伝える実朝暗殺と公暁の最期。さて、前回放送でもちょっと言及があった実朝の出発直前についても書いてありました。

……抑今日勝事。兼示變異事非一。所謂。及御出立之期。前大膳大夫入道參進申云。覺阿成人之後。未知涙之浮顏面。而今奉昵近之處。落涙難禁。是非直也事。定可有子細歟。東大寺供養之日。任右大將軍御出之例。御束帶之下。可令着腹巻給云々。仲章朝臣申云。昇大臣大將之人未有其式云々。仍被止之。又公氏候御鬢之處。自抜御鬢一筋。稱記念賜之。次覽庭梅。詠禁忌和歌給。
出テイナハ主ナキ宿ト成ヌトモ軒端ノ梅ヨ春ヲワスルナ
次御出南門之時。靈鳩頻鳴囀。自車下給之刻被突折雄劔云々。又今夜中可糺彈阿闍梨群黨之旨。自二位家被仰下。信濃國住人中野太郎助能生虜少輔阿闍梨勝圓。具參右京兆御亭。是爲彼受法師也云云。

※『吾妻鏡』建保7年(1219年)1月27日条

そもそも今日の勝事(しょうじ。不祥事)については、事前から数々の異変が記録されています。

「……どうした入道よ、何ゆえ泣いておる?」

せっかくのハレ舞台というのに、泣いているのは大江広元(演:栗原英雄、前大膳大夫入道)。この時は出家して覚阿(かくあ)と号していました(以後、広元で統一)。

広元の眼にも涙?(イメージ)歌川国貞筆

「拙僧は成人してより数十年、およそ泣いたことがございませぬ。しかし今、鎌倉殿のお傍に近づくと涙が止まらなくなってしまったのです」

それが感激の涙か否か、広元は実朝に進言します。

「かつて右大将家(亡き源頼朝)は東大寺供養に臨み、用心として束帯(そくたい。正装)の下に腹巻(鎧)を着こまれました。どうか此度もそのように……」

すると側にいた仲章がこれを拒否しました。「これまで大臣・大将に昇った方がそのようになされた前例がない」との事で腹巻の着用は取りやめに。

(大河ドラマでは泰時が腹巻を勧め、断ったのは実朝自身でしたね。ちなみに神社仏閣など神域に刃物を持ち込むのは禁忌ですから、もし「太郎のわがまま」を聞いてあげるなら、脇差を受け取るよりも腹巻を着けた方が良かったように思います)

これに何かを感じたのか、実朝は髪を結い直してくれた公氏(きんうじ。人名)に、自分の髪を一本抜いて「形見にせよ」と渡しました。

いや、そんなもの渡されても……公氏も反応に困ったでしょうが、仮に内心「こんなもん(髪の毛なんて)要らねぇ」と思っても、とりあえずは大事にとっておきます。

さぁ準備万端、出かけようと思った矢先。実朝は庭先に咲く梅の花を見て、実に不吉な和歌を詠みました。

出テイナハ主ナキ宿ト成ヌトモ軒端ノ梅ヨ春ヲワスルナ

【意訳】私が出て行ってしまえば、この家の主はいなくなる。それでも軒端の梅よ、春を忘れてはいけないよ(また、咲いておくれ)。

……もう殺される気満々と言わんばかりの歌に、側近たちは何も思わなかったのでしょうか。

そして御所の門を出る時には八幡大菩薩のお使いである鳩たちがしきりに啼き騒ぎ、牛車から降りる時には太刀の先をひっかけて折ってしまうなど、もう踏んだり蹴ったり。

これでもかとばかりの不吉なできごとオンパレード。何なら実朝はあえて殺されたかった(最高のハレ舞台で人生のフィナーレを飾りたかった)のではないかと勘繰ってしまいそうです。

人違いで殺された源仲章

かくして暗殺されてしまった実朝。ちなみに義時から太刀持ちの役目を交代した源仲章は、太刀持ちを義時と勘違いした公暁に斬られます。

義時と間違われて斬られた仲章(中央・仰向けに倒れている人物?)。『鎌倉星月夜』より「禅師公暁実朝公を討図」

……コノ仲章ガ前駈シテ火フリテ有ケルヲ義時ゾト思テ。ヲナジク切フセテコロシテウセヌ。義時ハ太刀ヲモチテカタハラニアリケルヲサヘ。中門ニトドマレトテトドメテケリ……

※『愚管抄』第六巻より

【意訳】公暁は、行列を先導していた仲章を義時だと勘違いし、実朝ともども斬り殺して逃亡した。義時は太刀持ちとして従っていたが、「中門に留まれ」と命じられていたので列を外れていたのであった。

『吾妻鏡』と若干の違いが見られるものの、恐らく実朝は心身の不調を訴えた義時を気遣って「中門で待っていろ」と言ったのでしょう。

ちなみに、義時が体調を崩した理由は「夢に出てきた白い犬を見た」ためと言います。

右京兆詣大倉藥師堂給。此梵宇。依靈夢之告。被草創之處。去月廿七日戌剋供奉之時。如夢兮白犬見御傍之後。御心神違亂之間。讓御劍於仲章朝臣。相具伊賀四郎許。退出畢。而右京兆者。被役御劔之由。禪師兼以存知之間。守其役人。斬仲章之首。當彼時。此堂戌神不坐于堂中給云云。

※『吾妻鏡』建保7年(1219年)2月8日条

1月27日の暗殺当日、義時が建立した大倉薬師堂(現:覚園寺)では義時の守護神である戌神(跋折羅大将)像が姿を消していたそうです。もしかして、義時を災厄から遠ざけるため白い犬に化けたのかも知れませんね。

コラそこ、「仲章ざまぁ」とか言ってはいけません。あの憎たらしい仲章は大河ドラマの創作と生田斗真の絶妙な演技の賜物であり、史実の仲章は(朝廷と通じていたとは言え)あくまで実朝の教育係。少なくとも『吾妻鏡』に義時との政争・暗闘は描かれていません。

「尼将軍」政子の誕生

命拾いした義時ですが、にわかに鎌倉殿を喪った鎌倉は大混乱。とりあえず実朝の葬儀を執り行おうとしたものの、どうしても首級が見つかりません。

仏教の思想では五体満足な状態でないと成仏できないとされるため、困ったことになりました。なのでとりあえず、公氏が授かっていた実朝の遺髪を一本、これを頭の代わりに納棺したということです。

……戌剋。將軍家奉葬于勝長壽院之傍。去夜不知御首在所。五體不具。依可有其憚。以昨日所給公氏之御鬢。用御頭。奉入棺云云。

※『吾妻鏡』建保7年(1219年)1月28日条

実朝の菩提を弔うため千世(演:加藤小夏。坊門姫)は出家。さらに大江親広(おおえ ちかひろ。広元の長男)・長井時広(ながい ときひろ。広元の次男)・中原季時(なかはら すえとき。中原親能の子)・安達景盛(演:新名基浩)・二階堂行村(にかいどう ゆきむら。行政の子)・加藤景廉(かとう かげかど)ら百余りの御家人も続いて出家しました。

尼将軍となった政子(イメージ)

この急場を何とかしのぐためには、やはり尼御台にご登場いただくよりありません。天下草創の鎌倉殿・源頼朝(演:大泉洋)に愛された尼御台・政子(演:小池栄子)に。

……サテ鎌倉ハ将軍ガアトヲバ母堂ノ二位尼惣領シテ。猶セウトノ義時右京権大夫サタシテ有ベシト議定シタルヨシ聞ヘケリ……

※『愚管抄』第六巻より

【読み下し】さて、鎌倉は将軍が跡をば母堂の二位尼(政子)惣領して。なお舅の義時(右京権大夫=右京兆)沙汰してあるべしと議定したるよし聞こえけり。

政子の権威をもって御家人たちを従え、政治の実務は(舅とは頼朝にとって小舅の意)義時が司るよう決めた、と京都には伝わったようです。

ここにいわゆる「尼将軍」政子が誕生し、激動の時代を乗り越えていくことになるのですが……次週はどこまでやるのでしょうか。
これからの展開に、来週も目が離せませんね!

※参考文献:

五味文彦ら編『現代語訳 吾妻鏡8 承久の乱』吉川弘文館、2010年4月 丸山二郎 校訂『愚管抄』岩波文庫、1949年11月 三谷幸喜『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』NHK出版・2022年10月

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