細菌を食べるウイルスを利用して強力な食品用除菌スプレーを開発
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細菌を食べるウイルスを利用して、レタスやお肉についている大腸菌などを消毒するスプレーが開発された。
その原材料は「バクテリオファージ(ファージ)」と呼ばれるウイルスだ。ウイルスと言っても、人体には無害だが、細菌にとっては感染すれば跡形もなく破壊されてしまう恐るべきウイルスだ。
カナダ、マクマスター大学の研究チームは、このファージを連結して、小さなビーズにする方法を考案。
そうしてできた直径20ミクロンほどのビーズには、数えきれないほどのファージがてんこ盛りで、食品を強力殺菌して食中毒を防いでくれるという。
この研究は、『Nature Communications』(2022年12月5日付)に掲載された。
・有望視されていたウイルス「バクテリオファージ」
バクテリオファージというウイルスで消毒というアイデアはじつは新しいものではない。1940年代に抗生物質が登場する以前、ファージによる殺菌や治療法の研究は大いに有望視されていたのだ。
ところが抗生物質が出回るようになったことで、ファージへの関心は薄れてしまう。だが最近になって、ファージに転機が訪れた。
それは抗生物質が効かないスーパーバグ(抗生物質耐性菌)が登場して大問題となっていることだ。
抗生物質を乱用すると、それが効かない細菌が誕生してしまう。そこで細菌を”食べてしまう"ファージに再び熱い視線が注がれるようになったのだ。
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バクテリオファージイメージ図 photo by iStock
・強力なウイルスの殺菌効果
今回のファージ消毒スプレーは、マクマスター大学のゼイナブ・ホセニドゥスト准教授の研究室で以前研究されていた、ファージ同士をくっつけてゲル状にする化学的手法がベースになっている。
「ファージはまるで極小のレゴのように結合します」と、ホセニドゥスト准教授は説明する。それによる組織化された自然な構造によって、ファージの耐久性が上がり、パッキングや保管がしやすくなるのだそう。
その威力は素晴らしく、ファージは標的の細菌に接触すると連鎖反応的に増殖して、殺菌力が爆発的にアップする。
トーヒッド・ディダー教授によれば、その反応は抗生物質よりも強力で、漂白剤すら敵わないという。
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細菌を食べるウイルスから開発されたスプレー、さっと吹きかけるだけで食材に付着した大腸菌を消毒してくれる / Image credit: McMaster University
博士課程研究の一環としてこの研究を主導したティエン・レイ氏は、「数十億のミニ兵士を召集して、細菌汚染から食品を守るようなものです」と説明する。
ファージによる殺菌は、その効果のほかに、もう1つのメリットがある。
それは殺したい菌(今回は大腸菌O157の除去に成功)に特化させられるので、味・香り・食感をよくしてくれる善玉菌を殺さずにすむことだ。・市販化も目前。他の細菌向けスプレーも開発予定
米国食品医薬品局(FDA)はすでに食品へのファージの使用を承認しているので、新開発のファージ消毒スプレーが市販される見込みはかなり期待できるとのこと。
研究チームによると、今回の方法を応用すれば、サルモネラ菌やリステリア菌など、食中毒を引き起こすほかの細菌向けのスプレーも作れるのだとか。
またファージ消毒スプレーは、食品だけでなく、灌漑用水やその設備の殺菌にも有効で、細菌汚染を根本から食い止めることができるそうだ。
研究チームは今後、傷口の消毒など、医療でのファージスプレーの応用を試す予定であるそうだ。
安全性と有効性の証明に時間がかかるため、医療品としてのスプレーの登場は少し先の話になるだろうが、食品向けの製品ならずっと早く市販されるかもしれないそうだ。
References:Researchers harness bacteria-eating viruses to create powerful food decontamination spray / written by hiroching / edited by / parumo
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