NHK『紅白歌合戦』は本当に「老人切り捨て」なのか?識者が選出を徹底解説!
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12月5日、『第73回NHK紅白歌合戦』(以下『紅白』)に藤井風(25)が出場することが、追加で発表された。藤井は2021年5月3日にリリースした「きらり」が同年8月末には1億回再生を達成し、『紅白』初出場。今年は2年連続での出場となった。
昨年、藤井は破竹の勢いで『紅白』初出場となったが、2022年の『紅白』初出場のアーティストはIVE、LE SSERAFIM、BE:FIRST、JO1、Aimer、緑黄色社会、Vaundy、Saucy Dog、なにわ男子、Ado(20)が歌唱を務める映画『ONE PIECE FILM RED』のキャラクター・ウタの10組だ。
K-POPグループやオーディション番組発のダンスボーカルグループ、新進気鋭のバンドやアニメのキャラクターなどバラエティに富んだ選出となっているが、「若者だけ重視しすぎ」、「老人の切り捨て」という批判もされている。
12月1日に行われたNHKの定例会見では、『紅白』への批判に対して前田晃伸会長が「年代も広い層が見ていますが、“広い世代に幅広く満足してもらえるにはどうすればいいのか”というのをお願いして、テーマにふさわしい番組になれば」と言及する場面もあった。
『紅白』が若者だけを重視し「年配の視聴者層を切り捨てている」という批判は本当なのだろうか?
そこで本サイトは、ヒットチャートを独自に分析し、音楽シーンの盛り上がりを観測する音楽チャートアナライザーのKei氏に、今年の『紅白』出場アーティストについて詳しく解説してもらった。
■配信1億回再生が選出の目安か
まず、初出場の10組について、Kei氏は「妥当な選出だと思います」と話す。『紅白』公式ホームページでは、出場するアーティストの選出基準として〈1.今年の活躍 2.世論の支持 3.番組の企画・演出〉の3点を挙げている。
「選出基準の“1.今年の活躍”に関してですが、CDの売り上げのほか“インターネットでのダウンロード・ストリーミング・ミュージックビデオ再生回数・SNS等についての調査”とあります。これはCDの売り上げだけに基づくランキングよりも、社会的ヒットの実態を反映しているビルボードジャパンのチャートを参考にしていると考えられます。
今回選ばれた10組は、なにわ男子以外の全てのアーティストがサブスクを解禁しています。近年ではサブスクや配信での大きなヒットの基準として“1億回再生”があるのですが、ほとんどの歌手が1億回再生を突破しているので、これを基準にしているのではないかと感じました」(Kei氏=以下同)
11月16日にビルボードジャパンが掲載した記事では、IVEが「ELEVEN」と「LOVE DIVE」の2曲が1億回再生されていることや、BE:FIRSTも「ByeーGoodーBye」がストリーミング累計1億回再生を突破していることなど、10組のチャートインの実績がまとめられている。〈出典:ビルボードジャパン、『第73回NHK紅白歌合戦』初出場組のチャートイン記録をおさらい〉
初出場の10組は『紅白』出場にふさわしい実績があったようだが、やや意外にも思えた工藤静香(52)や篠原涼子(49)の出場は、Kei氏の目にどう映ったのだろうか。
「NHKは“周年”や“貢献度”を重視する傾向にあるのですが、工藤さんは、今年デビュー35周年記念としてセルフカバーアルバム『感受』を出されていて、それが評価されたのだと思います。今年はNHK『SONGS』にも出演しました。
また、篠原さんは9月に『恋しさと せつなさと 心強さと 2023』を配信でリリースしています。これは憶測の域を出ませんが、この曲は2023年発売予定の『ストリートファイター6』の日本イメージソングでもあり、そのあたりも考慮されているのかもしれません」
■“演歌好きな年配の視聴者”は本当に『紅白』を見ているのか
今年『紅白』に出場する演歌歌手は、石川さゆり(64)、坂本冬美(55)、天童よしみ(68)、水森かおり(49)、三山ひろし(42)、山内惠介(39)のほか、氷川きよし(45)が特別企画として出場。「年配の視聴者層切り捨て」との批判は的を得ているのだろうか。
「今40代の視聴者が慣れ親しんできたアーティストでいうと、福山雅治さん(53)、ゆず、MISIAさん(44)などが選ばれています。さらに上の世代だと、鈴木雅之さん(66)、郷ひろみさん(67)が出場されます。
今は“年配の視聴者層”と言っても、演歌だけを聴いてきた世代ではなくなってきているのではないでしょうか。ですから、今回の『紅白』は、一概に年配層切り捨てとは言えないと思います。もしくは細川たかしさん(72)が昨年特別企画枠で登場したようなことが今年もあるかもしれません」
もはや、演歌に親しんできた年代が『紅白』のメインの視聴者層ではなくなっているのではないか――。ややショッキングな指摘にも感じられるが、2022年11月に総務省が発表した人口推計では、日本で一番多い世代は50~54歳で946万人、次点が45歳~49歳の944万人。彼らが慣れ親しんできた曲は、演歌よりも80年代~90年代のポップスである可能性は高い。
また、Kei氏は「今年の『紅白』に出るのではないか」と思ったアーティストについて語ってくれた。
「個人的には『CITRUS』が3億回再生を突破したDa-iCEや、『W/X/Y』が累計3億回以上再生されているTani Yuukiさん(24)、『ロマンスの神様』がTikTokで流行した広瀬香美さん(56)などは出場してもおかしくなかったと思います」
『紅白』は70年以上も続いている人気番組。数十年後振り返ったときに「2022年」という年を表現するにふさわしいアーティストたちが選出されているのかもしれない――。
Kei(けい)
音楽チャートアナライザー。ブログ『イマオト -今の音楽を追うブログ-』管理人。青森県津軽地方在住で、地元ラジオ局でレギュラーDJを務めた経験もある。「TOKION」「uDiscoverJP」など、音楽メディアへの寄稿も行っている。