囲碁を知らない人にも読んでほしい傑作『群舞のペア碁』「ペア碁」を通じてつながる群像!
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漫画(マンガ)
知力や精神力、忍耐力などを駆使して競い合う「囲碁」。1対1の孤独な戦いというイメージが強い競技だが、実は「ペア碁」という囲碁のダブルスのような競技が実在することをご存じだろうか。
漫画:高木ユーナ氏、監修:藤沢里菜 女流本因坊による『群舞のペア碁』は、そんな知られざるペア碁の世界を描いた囲碁漫画である。「でも囲碁ってよくわからないし……」と思ったあなたも大丈夫。本作はペア碁の魅力はもちろん、この競技に魅せられた人間たちのドラマもていねいに描いているので、囲碁の知識がまったくなくてもぐいぐいと引きこまれるはずだ。今回の記事では、笑って泣けてアツくなれる、そんな『群舞のペア碁』の魅力について紹介させていただきたい。
■個性豊かすぎるキャラたちから目が離せない!
本作の主人公はプロ棋士を目指す男子高校生・群舞。彼は囲碁を愛し、すぐれた才能を持ってもいるのだが、極度のあがり症のせいでまったく成績を残せずにいた。
あるとき師匠に「このままじゃ破門」と言い渡された群舞は、最後のチャンスとしてペア碁の大会で優勝することを条件に課せられる。おまけに、とある出来事がきっかけで、なぜか幼なじみで囲碁初心者ののぞみとペアを組むことに……。
群舞は見ていて少し心配になるくらい内気でビビりなのだが、まっすぐでいつでも一生懸命で、思わず応援したくなる魅力にあふれている。一方、のぞみは天才的な頭脳を持っているものの、家族のように育った群舞のことが大好きすぎるあまり、彼へのストーキングを日課とするなど別の意味で心配になってしまう子だ。が、囲碁が大好きな群舞とそんな群舞のことが大好きなのぞみのペアは、思わぬ“化学反応”を生み出すことになる。
そんないろいろな意味で強烈な主役ペア以外にも、本作には濃いキャラが数多く登場する。クールで美しい最強棋士や、モデル兼プロ棋士のイケメン御曹司、囲碁初心者の不良など、実にさまざまなタイプが出てくるので、きっとあなたの“推しキャラ”や“推しペア”が見つかるだろう。しかも単にキャラが個性的なだけで終わるのではなく、それぞれの抱える想いがていねいに描かれていたり、キャラ同士の掛け合わせで新たなドラマが生み出されたりしていくのも見ごたえがある。
■「ペア碁」という競技そのものの魅力にも心惹かれる!
そして本作の題材となっているペア碁という競技そのものも魅力的だ。ペア碁は男女のペア同士が4人で交互に碁を打っていくのだが、対局中の相談は禁止。つまりペアは無言のうちに息を合わせ、お互いにフォローしあう必要がある。だからこそ通常の囲碁での強さがそのまま反映されるわけではなく、組んだ相手との相性によって実力が底上げされたり、逆に足を引っ張り合ってしまったりすることもあるのが面白いところだ。
強い人同士だけでなく、強い人と初心者が組んで戦えるのもペア碁だからこそ。棋士としての実力だけでいえば対等ではないふたりが、思わぬコンビネーションを発揮することもあるという。どんな実力の人でも一緒になって楽しめるペア碁は、初心者が囲碁の魅力を知るための入り口としても最高なのだ。
■登場人物それぞれの“囲碁愛”“ペア碁愛”に魅せられる!
競技である以上、ペア碁にはもちろん勝敗がある。しかし冒頭で“究極の心の対話(コミュニケーション)”と打ち出されている通り、本作においてペア碁は単なる競技として以上に、人と人がつながる手段としても描かれている。
群舞は、とある過去からコミュニケーションが苦手になってしまったのだが、囲碁を通じてはじめて人とつながれたと感じた経験を持つ。そして普通の囲碁では萎縮してしまう彼がのびのびと碁を打てるのが、ペア碁という場なのだ。
群舞は勝敗より何より、いろんな人と碁を打って相手のことを知りたいという欲求に突き動かされている。今後の棋士人生がかかったペア碁の大会にて、二回戦で強敵ペアと当たってしまった際も、勝ち負けなど忘れて“あの人の事もっと知りたい…はやく…打ちたい…”とつぶやいていたのが印象的だった。
そんな群舞のほかにも、どんな相手でも手加減なしの真剣勝負で挑む者、ペア碁を世の中に広めるために奮闘する者、囲碁をやっているときだけありのままの自分でいられると感じる者……それぞれの形で囲碁およびペア碁を愛するキャラクターが登場する。最初は群舞のために仕方なくペア碁を始めたのぞみでさえ、次第にその魅力にのめり込んでいくのだ。
またプロやプロを目指す者だけでなく、ただ囲碁を愛するアマチュアのプレイヤーが描かれているのも本作の良いところ。いろんな人たちがペア碁に夢中になっていくのを見ていると、気付いたときにはこの競技のことをもっと知りたくなっていることだろう。
■まとめ
ペア碁という新たな世界の魅力が詰まった『群舞のペア碁』は、現在第3巻まで発売中。登場人物も増えてきて、これからどんどん物語が動いていきそうな予感がする。囲碁を全然知らなくても刺さる作品なので、ぜひこの機会に本編をチェックしてみてほしい。