空前の『silent』ブームに沸いた3ヶ月。私たちをここまで夢中にさせた“その理由” (2/3ページ)
なかでも、物語が進むにつれて印象が変わったのは、紬の恋のライバルとして登場した奈々(夏帆)だ。想に恋焦がれるあまり、ぽっと現れた紬に対しても当初は攻撃的だった。奈々が紬に対して放った言葉で印象的なものがある。
「プレゼント使い回された気持ち。好きな人にあげたプレゼント、包み直して他人に渡された感じ」
ここでの“プレゼント”とは、奈々が教えた手話のこと。これだけを切り取るとなかなかキツイ言い回しだが、奈々と想の思い出を紐解いてみると、悩んでいた想に手を差し伸べた人こそが奈々であり、想は「奈々にだけ伝わればいいから」と手話を学ぶようになったのだった。
奈々の素直すぎる性格も、パソコンテイクを請け負った学生に毎回「ありがとうございました」と書いていた学生時代を知ると、むしろ彼女らしいとも思ってしまう。「ありがとうって使い回していいの?」と真正面から問いかけるピュアな奈々だからこそ、「ありがとう」を使い回さない彼女だからこそ、紬に大事なものを踏みにじられた気分になってしまったのだろう。さらには、奈々と手話教室の講師・春尾(風間俊介)の間にも、空白の八年間があった。“第二の紬と想”ともいえる彼らの人生も、再び動き出そうとしている。
■物語をスムーズに届ける演出。“ハンバーグ”に込められた思い
視聴者を置いてけぼりにしない分かりやすい演出も好印象。これはストーリーにも当てはまることだが、人の複雑な心の“揺らぎ”を描いているにも関わらず、見ているこちら側に「?」を残さない。かといって、登場人物たちに不粋な説明をさせることもなく、物語をスムーズに届けているのである。
例えば、たびたび登場する紬の好物“ハンバーグ”。ブラック企業で働いていた頃の紬(第3話)が、無理に頼まれた仕事を片づけるために駆け込んだファミレスで頼んだメニューも、ハンバーグだった。誰にも言えなかった会社への辛さを湊斗に打ち明けた紬は、蓄積していたものを吐き出し、その隙間を満たすようにハンバーグを食べる。結局食べきれないまま湊斗に預けてしまうのだが、この夜を境に、二人は距離を縮めていく。ハンバーグは湊斗との思い出の味でもあり、湊斗にとっては、紬が紬らしく生きていることの象徴でもあったのだ。