「どうする家康」えぇ!?まさかのいきなり桶狭間!第1回放送「どうする桶狭間」振り返り
いよいよ始まりました、令和5年(2023)NHK大河ドラマ「どうする家康」。松本潤が演じる徳川家康(とくがわ いえやす)の生涯が、どのように描かれるのか楽しみに待っていました。
今日この平和な世があるのも全ては大御所東照大権現様のおかげ。まさに天が私たちに授けてくださった神の君でございます。
我らが神の君は、いついかなる時も勇敢であらせられました。あの桶狭間合戦の折もまたしかり……
※NHK大河ドラマ「どうする家康」第1回放送「どうする桶狭間」より
物語は永禄3年(1560年)、土砂降りの大高城(愛知県名古屋市)を舞台に始まります。
「殿!殿はどこじゃ!」「殿はどこじゃ!」「殿!殿!」
家臣たちが殿を探し回る中、目深に陣笠を被る挙動不審な男。薄暗い中でも金色に輝く籠手が妙に目立ちますが……。
石川数正「逃げおったか~!」
味方からも目立つけど、敵からも狙われやすい金陀美具足(イメージ)
大高城から脱出した殿こと松平元康(後の徳川家康)。空堀のドクロ(いつから死んでいたのだろう?)に驚き「もう嫌じゃ……。もう嫌じゃあ~!」と絶叫するところでオープニング。
日輪・葵・羊歯はじめ家康要素を散りばめながら、ポップで和モダンな演出は、ちょっと面食らってしまいました。
前作と比較するのは申し訳ないのですが、チャカチャカした動きや色彩が少しうるさく感じられてしまいます。まぁ、これは好み(個人的にはシックな重厚感を重視)もありますし、じき慣れることでしょう。
徳川家康と言えば、何を措いても頑固で偏屈だけど情に熱い三河武士団との絆が魅力。人質時代をはじめ、数々の苦難を共に乗り越えていく姿を、とても楽しみにしています。
第1回放送は「どうする桶狭間」、物語は一気に桶狭間まで飛ぶのでした。えぇ……?
【予備知識】まずは元康の誕生から桶狭間までまずは予備知識として、今回放送した以前の出来事を略年表にまとめましょう。
巧みな采配で任務を成功させる元康(中央騎馬武者)。金陀美具足は身につけていない模様。月岡芳年「尾州大高兵糧入図」
天文11年(1543年)誕生、幼名は竹千代。1歳
天文13年(1545年)政治的理由で両親が離婚、母・於大の方と生き別れに。3歳
天文16年(1548年)竹千代、今川義元の人質に出されるも織田信秀に奪われる。6歳
天文18年(1550年)父・松平広忠が病死。竹千代は今川義元の元へ。8歳
弘治2年(1556年)竹千代が元服し、義元から一字もらって次郎三郎元信と改名。烏帽子親は関口親永(氏純)、その夜に親永の娘(瀬名)を正室に迎える。15歳
弘治3年(1557年)亡き祖父・松平清康から一字もらって松平蔵人元康と改名。16歳
永禄元年(1558年)元康の初陣(寺部城の鈴木重教を攻める)。17歳
永禄2年(1559年)嫡男・竹千代(後の松平信康)誕生。18歳
永禄3年(1560年)大高城へ兵粮入。桶狭間で今川義元が討死。18歳
※『東照宮御実紀』による(諸説あり)。また西暦は和暦と若干のズレがあるため参考までに。
第1回放送では弘治2年(1556年)から永禄3年(1560年)までの約4年間が描かれていましたが、実に展開が早いですね。
個人的には譜代の家臣たちと乗り越えた苦難の時代や、今川義元との間に育まれた父子同然の絆をもう少しじっくり描いて欲しく思いました。
限られた尺にそれを凝縮する工夫は感じられるものの、戦国ファンの一人としては「そこが観たかったのに」と、いささかの残念さは禁じえません。
まして従来の愚将イメージから「海道一の弓取り」に改まりつつある義元を、広く知ってもらう絶好の機会だったのに……早々の退場が惜しまれます。
個人的にはヒロイン・瀬名とのやりとりやままごと遊びに使う時間をもう少しそっちに……いえ、野暮はよしましょう。
何より物語は始まったばかり、これからじっくりと描かれる展開に期待大です。
元康と愉快な仲間たち【三河・松平家臣団】さて、前提を押さえたところで、各キャラクターについてざっくり見ていきましょう。
松平元康(松本潤)言わずと知れた主人公。冒頭のナレーションでは随分ヨイショされていたものの、実際は臆病者だったというギャップで視聴者を惹きつけます。
物語のはじめで元信と名乗っていたので15歳(翌年元康と改名)、現代なら中学校3年生から高校1年生。さすがにウサギちゃんごっこをする年齢ではないのでは?
まぁ、そんな可愛らしさが瀬名さんにとっては魅力だったのかも知れませんが……武家の嫡男としては何と申しましょうか、そりゃ石川数正も頭を抱えてしまう訳です。
駿府の都会的な暮らしに慣れているため、三河の田舎家臣団にはちょっと辟易しているものの、やがて心を開いて共に歩んでいく姿が感動もの……のはず。
大高城の兵粮入れを見事に成功させ、窮地の鵜殿長照を救った喜びも束の間。桶狭間で太守様こと今川義元が討ち取られたことで敵中で孤立してしまいました。
元康のもとへ迫りくる織田信長の軍勢。何かトラウマがあるらしく、全身ガクブル。その辺りの思い出は次回に語られることでしょう。
石川数正(松重豊)通称は助四郎。頼りない元康を叱咤激励する松平家中の頭脳役。文武に励み、外交方面で大いに活躍します。劇中では渋い顔が多い役どころながら、彼が破顔する日は来るのでしょうか。
平岩親吉(岡部大)通称は七之助。元康と同い年で信任も篤く、やがて成長した嫡男・信康の傳役を任されました。劇中ではいつも朗らかな性格で、弱気になる元康を健気に支え続けます。
鳥居元忠(音尾琢真)通称は彦右衛門。代々松平家に忠義を尽くした家柄に恥じず、生涯にわたって元康へ忠義を貫きました。劇中では父・忠吉の通訳?を務めるなど、不器用ながら気遣いの人でもありそう。
鳥居忠吉(イッセー尾形)松平家臣団の長老格。歯が抜けているため発音が不明瞭ですが、そこがまたユーモラスな風情を漂わせます。苦しい暮らしの中でも倹約に努め、元康ひいては松平家再興の軍資金を蓄えたエピソードも。
酒井忠次(大森南朋)通称は左衛門尉。元康不在の岡崎を守り、松平家臣団のまとめ役を務めます。十八番の「えびすくい」踊りは現代でも宴会芸として伝わっているとか。戦場で怖い時は「妻の柔肌」を思い浮かべることをアドバイスするなど、年長者らしい余裕が垣間見えます。
大久保忠世(小手伸也)通称は七郎右衛門、自称「三河一の色男」。身なりに人一倍気を配っているものの、近ごろ髪が薄くなっているのが悩みのタネ。三河武士らしく相当な頑固者で、後に家康から「お前ら兄弟は揃いも揃って頑固者ばかり」と評されました。
夏目広次(甲本雅裕)通称は次郎左衛門、劇中ではいかにも幸薄く、影も存在感も薄そうな彼。しかし戦場では大いに武勇を奮ったそうですから、今後の活躍に期待です。本作では事務方として元康を支える設定のようですが、どんなストーリーが用意されているのでしょうか。
本多忠真(浪岡一喜)通称は「よいどれ殿」、いつも酒をかっくらって酔っ払っている彼が、戦場では人が変わったように大暴れ……という設定はフィクションです(武勇を奮ったのは事実)。幼くして父を喪った甥の忠勝を養育し、戦国最強に鍛え上げました。
本多忠勝(山田祐貴)通称は平八郎。叔父・忠真に武芸を叩き込まれたお陰で、生涯57回の戦場に出るもかすり傷一つ負わなかったという武の化身。劇中では臆病な元康に襲いかかるも、やがて打ち解けて無二の忠臣に成長します。
登与(猫背椿)酒井忠次の妻で、元康の叔母に当たります(父方・母方とも。家系図は割愛)。文献上の名前は碓井姫・吉田殿・光樹院など。忠次とは再婚、最初の夫は桶狭間で討死……つまり、第1回時点での夫婦仲睦まじげなシーンはフィクションとなります。
王道をゆく義元と家臣たち【駿河・今川家臣団】 今川義元(野村萬斎)元康にとっては主君でありながら父とも師匠とも言える偉大な存在。「海道一の弓取り」と讃えられ、天下に王道政治をしくため上洛の兵を起こした矢先の桶狭間でした。第1回放送で退場するにはあまりに惜しい人物です。
今川氏真(溝端淳平)偉大な父に引け目を感じ、父から目をかけられている元康も気に入らない御曹司。側室に臨んだ瀬名は得られず、桶狭間で父を喪い、その運命は大きく揺らいでいきます。
関口氏純(渡部篤郎)今川一門・瀬名氏貞の子で、関口家の家督を継承。義元の気まぐれ?から、愛娘の瀬名を人質に過ぎない元康に嫁がせることに。でも、可愛い娘が喜んでいるからよしとしましょう。
瀬名(有村架純)本作ヒロイン。瀬名という名前は実家の苗字とされ、一般には築山殿・駿河御前などと呼ばれることが多いです。後に元康の運命を左右する大事件に巻き込まれ、非業の最期を遂げることに。今の幸せな暮らしが、その悲しみを引き立てます。
巴(真矢ミキ)瀬名の母。一般には関口夫人と呼ばれます(そのまんまですね)。夫・氏純とは仲がよかったのか、最期まで添い遂げるのでした。
鵜殿長照(野間口徹)対織田との最前線・大高城を死守していた武将。今川義元の甥に当たり、元康の兵粮入れ後は城主を交代します(その後、駿河へ戻ったか城に留まったかは不明)。桶狭間の敗戦後も今川家に忠義を尽くし、壮絶な最期を遂げます。
田鶴(関水渚)読みは「たづ」。本作では鵜殿長照の妹(諸説あり)、瀬名の侍女的な立場で登場します。ちょっと性格がキツそうですが、お姫様を守るためにはこのくらいがちょうどいいのでしょう。後に女城主として活躍するので、楽しみにしておきましょう。
山田新右衛門(天野ひろゆき)諱は元益、松平家の居城であった岡崎城を預かる城代。15歳の元信が本丸の新右衛門に遠慮して二の丸に入った分別ある振る舞いを賞賛するエピソードが残っています(劇中では元信が普通に入ろうとしていましたが……)。桶狭間の直後に討死しました。
終わりに桶狭間で討ち取った義元の兜首を槍に括りつけて疾駆する、魔王のような織田信長。途中でその槍を投げていましたが、せっかくなら大高城の門なり板塀に突き刺さるような演出が欲しかったところです。
迫りくる魔王?信長。次週いきなり火縄銃をぶっ放しても、もう筆者は驚かない(イメージ)
「待ってろよ……俺の白兎」
令和5年(2023年)が卯年であること、また家康が実は寅年でなく卯年生まれとされることも、キャラクターづけに影響したのでしょう。
また、甲斐国(山梨県)では武田信玄(阿部寛)が天文を占って野心の鎌首をもたげるなど、壮大な物語の始まりを予感させます。
次週第2回放送は「兎と狼」。その意味するところはまさに元康と信長。両者の再会がどのように描かれるのか、そして続々と現れる新キャラクター達も楽しみです。
いきなり桶狭間な展開に面食らった第1回ですが、これからも目が離せませんね!
※参考文献:
成島司直ら編『徳川実紀 第壱編』国立国会図書館デジタルコレクション 『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』NHK出版、2023年1月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan