愛情ホルモン「オキシトシン」がなくても絆を深めることができることがマウス実験で判明
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愛情はたった1つのホルモンで語れるものではない。これはネズミの愛情ホルモンを調べた研究者がたどり着いた結論だ。
これまで大勢の研究者が、夫婦の絆や子供に対する感情は、愛情ホルモン「オキシトシン」の作用によるものと説明してきた。そのこと自体に嘘はない。
だが『Neuron』(2023年1月27日付)に掲載された研究によると、どうも愛の絆を深める効果のあるホルモンは、オキシトシンだけではないらしい。
・遺伝子操作で、オキシトシンに反応しない子ネズミを作成
北米に生息する「プレーリーハタネズミ」は一夫一妻制で、生涯同じ伴侶と添い遂げることで知られている。その習性ゆえに、人間の行動を調べるモデル動物としても利用されている。
「一番愛らしいのは、体を寄せ合う姿でしょう。毛づくろいをしたり、安心してそのまま眠ってしまうこともあります。それはつがいとなった夫婦ならではのものです」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデバナンド・マノリ博士は、その愛らしさについて説明する。
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夫婦がずっと一緒であることで知られる愛情深い「プレーリーハタネズミ」/Image:Todd H. Ahern/Emory University
マリノ博士らは、そんな愛情深いネズミの遺伝子を操作して、愛情ホルモン「オキシトシン」に反応できない子ネズミを作ってみた。
プレーリーハタネズミがオキシトシンで愛情行動を示すのは、細胞にオキシトシン受容体があるからだ。ところが、マノリ博士らが作った子ネズミは生まれつきそれがない。・オキシトシンがなくても夫婦の絆を結ぶことが判明
当然、子ネズミは大人になっても夫婦の絆など結べないだろうと思われた。
ところが彼らはきちんと配偶者を見つけ、メスなら子供にきちんと母乳(ただし量は少なかった)を与えることがわかったのだ。
オキシトシンが働いていないというのに、どうやって夫婦の絆を結んでいるのかは謎だ。
だがマノリ博士によるならば、オキシトシン以外の愛情メカニズムが働いていることは明らかだという。
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プレーリーハタネズミは愛情ホルモン「オキシトシン」がなくても夫婦の絆を結べることがわかった/image credit:Nastacia Goodwin・愛情ホルモンは1つだけではない?
そもそも夫婦の絆はプレーリーハタネズミが生存するには不可欠なものだ。そして進化は、重要なものについて冗長なシステムを好む傾向がある。
だからネズミの愛情がオキシトシンだけに依存しているとは考えにくいのだ。
そしてこのことは、自閉症の子供にオキシトシンを投与しても、必ずしも社会生活を送る力が改善するわけではない理由とも関係するかもしれない。
「経路はたった1つではありません。むしろ複雑な行動には、きわめて複雑な遺伝的メカニズムと複雑な神経メカニズムがあります」と、マノリ博士は話す。
可能性としては、それがある種の代替メカニズムだとも考えられる。
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プレーリーハタネズミは、北米原産のげっ歯類の一種で、強い社会的絆と協力的な繁殖行動で知られている / image credit:Nastacia Goodwin・人間も愛がなければ生きていけない
バージニア大学のスー・カーター教授は第三者の立場から、小ネズミに生まれつきオキシトシン受容体がないことと関係があるかもしれないと指摘する。
そのおかげで、別の分子を利用する愛情システムが発達したのかもしれない。
カーター教授によると、社会的絆の根本にある生物メカニズムをきちんと理解することは、人間の行動を理解するうえでも大切なことだという。
例えば、人間なら子供時代の良好な人間関係がその後の成長にとって重要だが、今回の発見はこうしたことと関係するかもしれない。
「私たちは高価な衣服がなくても生きていけます。肉体を守る防具だってそれほど多くは要りません。ですが愛がなければ生きていけません」とカーター教授は語る。
References:Oxytocin receptor is not required for social attachment in prairie voles: Neuron / Prairie voles don't need 'love hormone' oxytocin to bond, study finds : Shots - Health News : NPR / written by hiroching / edited by / parumo
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