水に浮かばないし沈まない。まったく新しいタイプの氷を作成。宇宙で自然形成されている可能性も

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水に浮かばないし沈まない。まったく新しいタイプの氷を作成。宇宙で自然形成されている可能性も
水に浮かばないし沈まない。まったく新しいタイプの氷を作成。宇宙で自然形成されている可能性も

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 科学者が氷をカクテルのようにシェイクしたら、まったく新しい氷が出来上がってしまったそうだ。それは水に浮きも沈みもしない。

 『Science』(2023年2月2日付)で報告された新しいタイプの氷は、液体の水によく似た「非結晶氷」だ。

 氷でありながら密度が水とほぼ同じなので、水に入れても浮きも沈みもしない。それどころか、もはや氷ですらなく、ガラス化した水とすら言えるかもしれないという。

 この不思議な氷は、地球上ではまったくの新顔だ。だがもしかしたら、木星の氷の衛星などでは、自然に形成されている可能性もあるそうだ。

・水に浮かないし沈まない、地球上にはない不思議な氷
 この不思議な新しい氷の作り方はシンプルだ。

 容器を氷で3分の1ほど満たし、もう3分の1にステンレスの球を入れる。これを液体窒素でマイナス195度まで冷やす。そしてカクテルでも作るかのようにシャカシャカとシェイクする、それだけだ。

 通常、地球上にないタイプの氷を作るなら圧縮するのが常套手段だ。

 だが、この「ボールミル」というシェイクマシンなら、ステンレス球が氷を粉砕して、格子状に並ぶ原子をちぎってしまう。

 低温ボールミルは、ゴムやチーズのような柔らかい物質を粉末にするときに使われるが、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの化学者クリストフ・ザルツマン氏らは、それを氷で試してみたのだ。

 すると、ただの細かい氷の粉ができるだけかと思いきや、地球上にはないまったく新しい氷ができてしまった。

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不思議な氷を作るためのシェイカー「ボールミル」・固体でありながら結晶ではない氷
 物質を構成する原子には、お決まりの並び方がある。例えば、食卓のお塩はナトリウムと塩素の原子が立方体に並んでできている。

 普通の氷なら六角形で並んでいるので、雪の結晶は六角形になる。そしてほとんどの固体は、7種類の並び方のどれかでできている。

 だが例外もある。それが原子が無秩序に並んでいる「アモルファス」というものだ。

 身近なものとしては「ガラス」がよく知られている。ガラスは溶けた液体が急激に冷却されることで作られる。こうすると、原子がまとまる時間がないので、結晶でない固体(=アモルファス)になるのだ。

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液体の水に非常に近い分子構造をもつ新しい氷(左)と、通常の結晶質の氷(右)の比較

 そして今回の氷も結晶化していない氷だ。じつは非結晶氷はまったく未知のものではなく、以前から2種類ほど知られていた。

 1つは、液体の水よりも密度が低いもので、「低密度非結晶氷」という。もう1つは、水より密度が高いもので、「高密度非結晶氷」という。

 ところが新たな氷の密度は、液体の水とおおむね同じくらいだ。低密度と高密度の中間にあるので「中密度非結晶氷」と名付けられている。そして、そのおかげで水に浮きも沈みもしない。

 今のところ、中密度非結晶氷が低密度や高密度の氷とどう関係しているのかよくわかっていない。

 コンピューター解析などからは、その構造が液体の水に似ていることが明らかになっている。もしかすると、水だったのときの無秩序な原子の状態がそのまま残っている可能性もあるという。

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Medium-Density Amorphous Ice (MDA)・木星の衛星に存在する可能性
 地球では初のお目見えとなった中密度非結晶氷だが、太陽系のどこかには昔から存在していたとしてもおかしくはない。

 例えば、木星を公転している「エウロパ」「ガニメデ」「カリスト」といった氷の衛星だ。

 これらの衛星は、木星の強力な重力に引っ張られている。これがまるでボールミルのように、衛星の氷を引きちぎっているかもしれない。

 ただし今のところ、こうした衛星で中密度非結晶氷は見つかっていないので、当たり前に形成されるわけではなさそうだ。

 だが何か条件がととのって、ボールミルのようなさらなる力が加われば、この不思議な氷が作られてもおかしくはない。

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・探査機がこの不思議な氷を発見する可能性も
 研究チームは今後、電子顕微鏡や加速器のエックス線などで、中密度非結晶氷の構造を詳しく調べる予定であるという。

 また中密度非結晶氷が本当に木星の氷衛星にあるとすれば、それは鉱物などと密接に関連しているだろうと考えられる。

 そこで中密度非結晶氷を作るときに、いろいろな物質を加えてみて、その影響を確かめる実験も予定されている。

 なお今年4月にはESAが、木星の氷衛星を調査するべく探査機「JUICE」を打ち上げる。さらに来年にはNASAの「エウロパ・クリッパー」も合流するはずだ。

 それらが目的地に到着するのは2030年頃になる。はたしてこの不思議な氷は見つかるのだろうか?

References:Scientists Created A New Type of Ice — It Could Also Exist On Distant Moons / New Form of Ice Discovered – May Shake Up Our Understanding of Water / written by hiroching / edited by / parumo


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