「どうする家康」よく言った!本多正信が代弁する民の声。第9回「守るべきもの」振り返り
本多正信(演:松山ケンイチ)の裏切りに動揺する松平家康(演:松本潤)。相次ぐ家臣たちの離反に、もう誰も信用できぬと引き籠もってしまいました。一向一揆の勢いは衰えることなく、すべてを投げ出してしまいたくなりますが……。
さて、NHK大河ドラマ「どうする家康」第9回放送は「守るべきもの」。今週は家康三大危機の一つと言われる三河一向一揆(永禄6・1563年~同7・1564年)の後編になります。
理不尽な動機で一向門徒に喧嘩をふっかけ、仏敵となることを恐れた家臣たちが次々と離反。果たして家康はこの難局をどう乗り切るのか……今週も振り返っていきましょう。
家康の祖父と父の最期主君が家臣を信じねば、家臣も主君を信じず殺されるのみ。また信じても家臣に裏切られれば殺されるのみ……だから裏切られぬよう己を律した上で信じるよりない。そう家康に諫言した鳥居忠吉(演:イッセー尾形)。
家康の父・松平広忠(演:飯田基祐)も、祖父の松平清康(きよやす)も家臣の裏切りによって殺されていると言いますが、ここで江戸幕府の公式記録『徳川実紀(東照宮御実紀)』を読んでみましょう。
家康の祖父・松平清康。彼の暗殺(森山崩れ)によって、松平家は次第に傾いていく。随念寺蔵
……かの彌七は父大蔵唯今誅せらるゝ事とやおもひけん。 清康君の立給ふ御うしろにはしり寄て。御眉先より左の脇の番をかけ。たゞ一刀に切付たり。鬼神をあざむく英傑もあえなくうたれて倒れ給ふ。……
※『東照宮御実紀』巻一「阿部弥七弑清康」
【意訳】阿倍弥七(あべ やしち)は父の阿倍大蔵定吉(おおくらさだよし)が討たれたと誤解し、清康の背後に駆け寄って一刀に斬り殺してしまった。鬼神のごとき英雄のあまりにあっけない死である。
……十四年彌生のころ御家人岩松八彌何のゆへもなく。御閑居の御傍によりて御股を一刀つき奉りて門外へ迯いでたり。(隣国より頼まれて刺客となりしといふ。)……
※『東照宮御実紀』巻一 天文十三年-同十六年「天文十四年岩松八彌傷廣忠」
【意訳】天文14年(1545年)3月ごろ、家臣の岩松八彌(いわまつ はちや)が何の理由もなく広忠の御股(下肢)を一刀に突き、場外へ逃亡した。隣国≒織田家と内通して刺客を引き受けたと言われる。
ただし広忠が亡くなったのは天文18年(1549年)3月6日。死因は病死とされます。
後世の編纂物である『岡崎領主古記』と『三河東泉記全』では片目八彌(岩松八彌)によって天文18年(1549年)に殺されたと伝えられました。
暗殺未遂と病死がごっちゃになったようですが、大河ドラマではこちらの説を採ったものと考えられます。
なお清康の殺害については、阿倍弥七の父・阿倍大蔵定吉が織田と内通したとのデマが飛び交っており、いつ父が粛清されるかと弥七がナーバスになっていた故の犯行でした。
やはり家臣に対する信頼が(少なくとも、阿倍父子が不安になるほどには)薄かったことが原因と言えるでしょう。
劇中では清康と広忠の暗殺について「あれは避けようがなかった」と忠吉が言っていました。
しかし(歴史にifなどないことは承知で)もし考えられるとすれば、デマを察知した時点で本人を呼び寄せ「これは織田の罠だ。阿倍ほどの忠臣が内通などあり得ない」などとみんなの前で信じる態度を見せることで、また違った結果を迎えたかも知れません。
本證寺を去った空誓。その後、永き雌伏を経て家康と親密に一向門徒を率いて奮戦するも、傷つき倒れゆく民の姿に心を痛め、家康との和睦を決断する空誓上人(演:市川右團次)。けなげな童を抱きしめて悲しみの声を上げるその姿は、一向門徒ならずとも胸揺さぶられたことでしょう。
ただあえて野暮を言うなら「それで和睦を決断する程度の覚悟で戦さなど始めるな」に尽きます。
みんなの暮らしを守りたいなら、まずは大好き話し合いが先にあってしかるべきです。古来「戦争は外交の敗北」とはよく言ったもので、武力の行使は最終手段に他なりません。
それを8年前の私怨(少なくとも幼馴染の“お玉”を喪った原因は家康ではないはず)を晴らさんと目論む本多正信や、東海地方の制覇を目論む武田信玄(演:阿部寛)の調略に乗せられてしまったことは、悔やんでも悔やみきれなかったであろうと察します。
和睦の場で家康の目を見て「あぁ、これは軍師殿の言う通り、約束を守る気などないな」と百も承知で証文を交わした胸中はいかばかりだったでしょうか。
さて三河一向一揆の終息後、空誓上人は三河を追われ、約20年にわたる雌伏の時代を過ごしました。
本證寺が「元の野っ原」から再建を果たしたのは天正13年(1585年)。諸役免除などの権利も回復したのですが、これに先立って空誓上人は公文書を偽造。勝手に道場を建立してしまう詐欺行為に及ぶなど、一筋縄ではいかないお坊様だったようです。
ともあれ家康との関係を修復した空誓上人は晩年に徳川義直(よしなお。家康九男)の補佐を命じられ、御三家の一・尾張藩を支えたのでした。
恐らくこれで退場と思われますが、登譽上人(演:里見浩太朗)ともども再登場が期待されます。
離反した家臣たちの帰参「……長年の御恩、心より御礼申し上げまする!」
さて、三河を追放された本多正信に対して、夏目広次(演:甲本雅裕)は助命嘆願のゆえに無罪放免となりました。
この場面について、江戸幕府の公式記録『徳川実紀(東照宮御実紀)』では、このように記されています。
……夏目永禄のむかしは一向門徒に組し。御敵して生取となりしが。松平主殿助伊忠此もの終に御用に立べき者なりと申上しに。其命たすけられしのみならず。其上に常々御懇にめしつかはれしかば……
※『東照宮御実紀』巻二 元亀元年-同三年「三方原戦(大戦之二)」
【意訳】夏目広次はかつて三河一向一揆で家康に背き、松平主殿助伊忠(とのものすけこれただ)に捕らわれた。しかし伊忠は「この者はきっとお役に立ちますから」と助命を嘆願。果たして赦されたばかりか、その後も親しく召し使った。
夏目広次の助命を嘆願した松平主殿助伊忠。「長篠合戦図屏風」より
……謀反人を赦すことで家康の人徳を示した反面、みんな罰したら誰もいなくなってしまうor再び謀反を起こされたら鎮圧できるか分からない事情もあったのでしょう。
なお、本作に登場した者の内、渡辺守綱(演:木村昴)も赦されたのでご安心下さい。また名前のみ出てきた半之丞(はんのじょう)こと蜂屋貞次(はちや さだつぐ)も赦されて武功を重ね、守綱ともども後世「徳川十六神将」に名前を連ねています。
他に鳥居四郎左衛門忠広(とりい しろうざゑもんただひろ。鳥居元忠の弟)も一揆側に寝返りながら赦され、活躍して十六神将に数えられました。
次週・第10回放送は「側室をどうする!」「毎日たらふく飯を食い、妻と子を取り返すために戦をするような者に、民の苦しみが解るものか」
「……悔いなければならないのは、殿にござる。この大たわけが!」
家康を指弾する正信の声はまさに民の声、そして視聴者の声だったのではないでしょうか。「とうに悔いておる」と言い返した家康。ではその反省を活かして、次週より生まれ変わってくれるものと大いに期待します。
かくして家康の軽挙妄動に端を発した三河一向一揆は、空誓上人との和睦によって終焉を迎えました。
「寺を元に戻す……寺が建つ前の野っ原に」
正信の置き土産となった献策により寺院を破却、どうにか三河国を平らげた家康。しかし一揆の裏では甲斐の武田信玄が糸を引いており、次なる謀略を繰り出してくることでしょう。
さて、次週の第10回放送は「側室をどうする!」。合戦パートを乗り越えた家康ファミリーが、次は男児を産ませる側室探し。コメディ的な展開が予想されますが……。
また今川氏真(演:溝端淳平)との対決も再開する様子。腐っても「海道一の弓取り」今川義元(演:野村萬斎)の嫡男として、意地を見せて欲しいところです。
果たして家康は瀬名(演:有村架純。築山殿)の激励によって穢土を浄土に変えられるのか、今後の覚醒に期待しましょう。
※参考文献:
『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』NHK出版、2023年1月 『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan