「どうする家康」名門今川家、ついに滅亡!最後に残されたのは…第12回放送「氏真」振り返り

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「どうする家康」名門今川家、ついに滅亡!最後に残されたのは…第12回放送「氏真」振り返り

武田信玄(演:阿部寛)の猛攻により、瞬く間に駿府を追われた今川氏真(演:溝端淳平)。遠江の懸川城へ追い詰められ、およそ半年にわたる抵抗で徳川家康(演:松本潤)に降伏しました。

「家康よ……余は、妻と共に北条殿に身を寄せたい。力添え願う」

かくして東海道の雄として名を馳せた戦国大名・今川家は滅亡。氏真と正室・(演:志田未来。早川殿)は流転の人生を歩むこととなります。

いまだ兄とも慕っている氏真を殺さずに済んで、ホッと一息……いえいえ、そうは信玄が卸しません。

「わしに、喧嘩を売っているらしい。信玄は大いに怒っておる!……そう、岡崎のわっぱに伝えてやれ」

氏真を助けたことで武田と戦さになるやも知れぬ……どうする家康!?ということで第12回放送は「氏真」でした。

文字通り氏真にフォーカスを当てた今回は、一体いつになったら登場するんだと今川ファンの多くがやきもきしていたであろう糸がようやく初登場。

そしてあっさりと(多分)退場……実にもったいないですが、今週も振り返りと参りましょう。

【史実篇】懸川城が陥落、家康の寛大な処置

ついに今川と立場が逆転、氏真に温情をかけてやる家康(イメージ)

今回、劇中で描かれた辺りの場面を、江戸幕府の公式記録『徳川実紀』ではこのようにつづっています。

……遠州の国士等多半御味方にまいりければ。懸川の場外に向城をとりたてゝ氏真をせめ給ふ。十二年にいたり懸川城しばゝゞせめられ力盡しかば。和睦して城をひらきさらんとするに及び。   君はかの使に対し。我幼より今川義元に後見せられし舊好いかで忘るべき。それゆへに氏真をたすけて義元の■を報ぜしめんと。意見を加ふること度々におよぶといへども。氏真佞臣の讒を信じ我詞を用ひざるのみにあらず。かへりて我をあだとし我を攻伐んとせらるゝ故。止事を得ず近年鋒盾に及ぶといへども。更に本意にあらず。すでに和睦してその城を■らるゝに於ては。幸小田原の北條は氏真淑姪のとなり。我また北條と共にはかりて氏真を駿州へ■住せしめんとて。松平紀伊守家忠をして氏真を北條が許へ送らしめられける。北條今川両家のもの共もこれを見て。げに   徳川殿は情ある大将かなと感じたり。……

※『東照宮御実紀』巻二 永禄十二年「家康與信玄約分領駿遠」

【意訳】遠江にいる今川家臣たちの大半が味方に寝返ったので、氏真の立て籠もる懸川城(掛川城)を攻め立てました。

激しい攻防戦が永禄12年(1569年)まで続き、ついに氏真は降伏します。懸川城を受け取る際、家康は氏真の使者に対して、

「わしは幼いころから義元様にご後見いただいた。その御恩を忘れるはずはない。だから恩返しとして氏真様のために度々ご意見申し上げたが、氏真様はへつらい者の言葉ばかり信じてわしを粛清せんとなさった。我が身を守るためやむなく戦ったが、本意ではない。幸い北条殿は氏真様の舅でいらっしゃるから、北条殿と力を合わせて武田に奪われた駿河を奪還いたしましょうぞ」

と伝えました。ひとまず松平家忠(まつだいら いえただ。紀伊守)を護衛につけて北条家へお送りします。人々はこの処置に対して何とお情け深い大将かと感じ入ったということです。

【史実篇】一度は駿府に返り咲いた氏真だが……

山県昌景と信玄公。不覚により一度は駿府城を奪われてしまうが、武田から見れば「徳川の裏切り」に思えただろう。歌川芳虎筆

大河ドラマだとこれで氏真退場となるのでしょうが、『徳川実紀』だともう少し続きがあります。

……君にはさすがに今川が舊好をおぼし召。氏真が愚にして国を失へるをあわれみ給ひ。山縣昌景が駿府の古城を守り居たるを追おとしたまひ。北條と牒し合わせられ氏真を駿府にかへりすましめんと。城の修理等を命ぜられたり。この経営いまだとゝのはざる間に信玄入道かくと聞て大に驚き。また駿府城にせめ来り。城番の岡部などいへる今川の士を味方に招きその城ふたゝび奪ひ取る。氏真は兎角かひゞゝしく力をあはする家人もなければ。後には小田原にて北條がはごくみをうけて年を送りしが。北條氏康卒して後氏政が時に至り。小田原をもさまよひいでゝ浜松に来り。当家の食客となりて、終りける……

※『東照宮御実紀』巻二 永禄十二年「信玄背約」

【意訳】家康は今川家の恩義を忘れず「氏真様が愚かであった自業自得とは言え、国を失ってしまったのは哀れでならない」と、山県昌景(演:橋本さとし)が占拠していた駿府城を攻め落としました。

これで氏真を再び駿府に迎えられると城を修復していたところ、信玄は再び駿府へ攻めて来ます。城を守っていた岡部元信(演:田中美央)を調略すると、氏真は守る手立てを失って再び駿府を奪われます。

そして小田原の地で北条氏康(ほうじょう うじやす)に保護されたものの、やがて氏康が亡くなると肩身が狭くなったのか、恥を忍んで家康の食客となって生涯を終えたのでした。

……劇中では信玄の影にガクブルしていたとは思えない強さで駿府城を奪い取った家康。そのまま居座るだけの余裕もなかったし、氏真の顔を立ててやろうと譲ったまではよかったのですが、大いに怒った信玄によって再び奪い返されてしまいます。

劇中では今川家中で最後に残った一人として描かれた岡部元信が、ついに愛想を尽かして武田家へ寝返ってしまったのでした。

小田原へ逃げた氏真夫妻、早川郷に住んだため糸(この名前は創作)は早川殿と呼ばれています。

やがて氏康が元亀2年(1571年)に世を去ると、家督を継いだ北条氏政(うじまさ。氏康嫡男)は武田との同盟を復活。居場所のなくなった氏真夫妻は家康の元へ身を寄せます。

その後しばらく家康の配下として対武田戦に従事し、いっとき牧野城主に任じられるなど出直しかと思いきや、やはり将としての才能はなかった模様。程なく解任されてしまいました。

晩年にはすっかり武と無縁な暮らしを送り、慶長19年(1615年)12月28日に江戸で78歳の生涯に幕を下ろしたということです。

糸(早川殿)は足が悪かった?彼女を迎えた婚礼の様子は

足手まといと貶されながらも、健気に氏真を支え続けた糸(イメージ)

「あのおみ足は幼き頃、石段から落ちられたのだとか」

「なかなか貰い手がなかったようじゃな。若君様も、お気の毒なことよ……」

足が不自由で歩行がままならず、氏真に「足手まとい」と毒づかれていた糸。この設定は大河ドラマの創作でしょう(単に筆者が物知らずで他に史料文献などございましたら、ご教示願います)。

これは以前、家康側室のお葉(演:北香那。西郡局)がレズビアンであったオリジナル設定と同様に、昨今の差別・人権問題について示唆する意図があったのでしょうか。

ストーリー上影響ないため、別に彼女の足がよかろうと悪かろうと視聴者としては構いません。何ならいっそもっと分かりやすく義足あるいは片足がない(着物に隠して杖をつかせる)描写でもよかったかも知れません。

しかしせっかくそういう設定を入れるのであれば、もう少し氏真との関係(今まで労りもしなかった氏真が反省する等)を丁寧に描いて欲しかったところです。

ちなみに『勝山記』では氏真と糸の結婚について、実に晴れがましく記録していました。

……駿河の屋形様へ相州屋形様の御息女を迎い御申し候、御供の人数の煌めき、色々の持ち道具、我々の器用ほど成され候、去るほどに見物、先代未聞に御座有る間敷く候、承け取り渡しは三島にて御座候、日の照り申し候事は言説に及ばず、余りの不思議さに書き付け申し候……

【意訳】氏真(駿河の屋形様)が北条氏康(相州屋形様)のご息女をお迎えした。その素晴らしさはお供の者たちや嫁入り道具まで煌めくようで、街道に見物客があふれ返る様子は前代未聞である。

ご息女のお引渡しは両家国境の三島で行われ、その瞬間に今まで曇っていた空が一気に晴れ渡り、太陽が照りつけたのは奇跡としか言いようがなかった。

今川家中にとって、糸の嫁入りがどれほど喜ばしいことであったか、きっと氏真だって満更じゃなかったはずです。

落ちぶれた後もずっと寄り添い続け、慶長18年(1613年)に先立つまで添い遂げた戦国きってのおしどり夫婦。そんな二人の愛情が、今回芽生えたものと信じます。

なお彼女は1女4男(吉良義定室、今川範以、品川高久、西尾安信、澄存)を生み、名門の誇りと血脈を後世へつなぐ役割を果たしたのでした。

その他、野暮なこと諸々

「余は何一つ事をなせなかったが……妻一人を幸せにしてやることなら……できるやもしれぬ」

そう言って糸と寄り添いながら退場していく氏真。それが一番難しいんじゃ解ってンのか、など既婚者として言いたいことはありますが、野暮はこの辺にしまして。

にしても回想シーンの多い脚本ですね。後付けで「実はこんな事があったのだ」と言われても、視聴者としては「それを一緒に体験していないから、いきなり言われても感動できないよ」と戸惑ってしまいます。

大河ドラマの醍醐味は「主人公たちの人生を演者と一緒に体験し、味わってこそ」だと思う視聴者としては、少し残念な気持ちです。

また、合戦の最中に「これはわしと氏真の戦いじゃ」「そうだ、邪魔するな」などと言っていましたが、モタモタしていると氏真を信玄に殺されてしまう緊急事態ではなかったのでしょうか。

妙なこだわりによって戦を長引かせれば、それだけ将兵に犠牲が出てしまう。そういうリアリティが抜けてしまうと、これまた熱が入りません。これも前回と同様「描きたい場面(今回は家康・氏真の一騎討ち)ありき」による弊害と言えそうです。

「アリー!」最初こそ面白く観たものの、それをずっと繰り返していると「大丈夫?」となってしまう。せめて二通りの戦術展開を演じることで、氏真の開花した将器が魅せられたかも(イメージ)

更にはいつも同じ場所と戦法で押したり引いたりを4ヶ月繰り返しているような戦闘描写に「ちょっとは学習しなさい」とツッコミたくなってしまいます。

本多忠勝(演:山田祐貴)が槍を投げて氏真が負傷しなかったら、まだまだ攻防戦が続いていた(そして信玄が本格介入、氏真はもちろん家康ともども討たれていた)のかも知れませんね。

また余談ながら、氏真に「信玄が来る前に、腹をお召しなされ」と義元から賜ったと言う脇差を差し出した岡部元信。氏真は受け取った脇差で腹を切るかと思いきや、首筋に当てがいました。

そのまま切らないことは分かっているのですが、頸動脈を切るならあえて介錯は不要です(介錯は苦しまぬよう助ける行為であり、腹を切る行為に比べて頸動脈の失血死は苦痛が少ないとされるため)。

武士が自害するなら、介錯すれば(傍らで刀を振り上げれば)絵になるよね、という意図が却って違和感を招いてしまうのではないでしょうか。

他にもあるけど、最後に家康の「氏真が羨ましい」発言。恐らくあれは「妻のためだけに生きられるあなたが羨ましい」という意味なのでしょう。

しかしそれは「煩わしい家臣や領民の世話を投げ出したい」と同じ意味。内心で思うならともかく、家臣のいる前では絶対口にしてはならない言葉でした。

あの場にいた鳥居元忠(演:音尾琢真)や平岩親吉(演:岡部大)がそれを聞いて、何とも感じないと思っているなら人の上に立つ資格がありません。

もちろん彼らを信頼しているから本音を言ったと解釈できなくはないものの、それでもやはり少しは家臣たちを思いやる成長ぶりを見せて欲しいところです。

……などなど、野暮なことを失礼しました。

次週・第13回放送は「家康、都へゆく」どうなる?

「上洛じゃ!」「都なんぞに行っとる場合ではなかろうが!」「茶屋四郎次郎にございます!」「お迎えに参りました」「また偉いさんに会わねばならんのか……」「違うだろ、松平!」「だから俺は都になど来たくなかったんじゃ!」「この乱れた世を、本来のありすがたに戻す。力を貸せ。家康よ」

……さて、三河・遠江の両国を平定した家康は、信長に従って上洛するようです。京都で次々に出会う新しい顔ぶれが、物語を急展開させていきます。

茶屋四郎次郎(演:中村勘九郎)、明智光秀(演:酒向芳)、浅井長政(演:大貫勇輔)、足利義昭(演:古田新太)、そして清州で会った彼女と再会。

また「大いに怒っている」信玄が気になるものの、そっちはどのように片づけるのでしょうか。次々と襲うであろうトラブルに、家康はどうするのか、次週も目が離せませんね!

※参考文献:

『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』NHK出版、2023年1月 『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション 『寛政重脩諸家譜 第一輯』国立国会図書館デジタルコレクション 黒田基樹『北条氏康の妻 瑞渓院』平凡社、2017年12月 戦国史研究会 編『論集 戦国大名今川氏』岩田書院、2020年5月 戦国人名辞典編集委員会編『戦国人名辞典』吉川弘文館、2005年12月

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