「一滴の水の粒」を主人公とした物語『ひとしずく』はどのように生まれたのか (3/3ページ)
だから、物語をそこまで意図的に盛り上げなくてもいいと考えた部分はありましたね。
――印象的だったのが、まだ雪の結晶だった「ひとしずく」の兄弟たちが「それじゃ、サヨナラ。また今度!」と言って水滴になり、クマザサの葉から滑り落ちていくシーンです。そこで「ひとしずく」はこの言葉について考え込んでしまうわけですが、このシーンにはどのような意味を込めたのでしょうか。
今明:「ひとしずく」という唯一無二の主人公と、その他の水滴の子たちを対照的に表現するセンテンスとして利用しています。実は他の子たちは何回も雨になり、海になり、雪になりということを繰り返していて、何度も旅をしてきている。その一方で、「ひとしずく」はこれから初めて旅に出るので、「また今度」の意味が分かっていないんです。
――だから、「ひとしずく」は「また今度!」という言葉に戸惑うわけですね。
今明:そうです。「ひとしずく」の兄弟たちの言葉に明るさが帯びているのは、また今度ここに戻ってくることを楽しみに出かけていくからなんですが、「ひとしずく」だけは「また今度なんて本当にあるの?」と不安になってしまうのです。
――それは輪廻転生とも解釈できますし、生命は循環しているというニュアンスも受け取れます。ただ、「ひとしずく」はそれを知らないと。
今明:作者である私自身は循環という自然の仕組みを知っているけれど、「ひとしずく」はそれを知らないわけですから、どのように彼の気持ちを表現するかは難しかったですね。時々はっと気が付いて「そうか、この子はまだ何も知らないんだった」ということをくり返しながら書いていました。
(後編に続く)