「どうする家康」走れ阿月。家康は信長へ逆ギレ「あほたわけ」…第14回放送「金ヶ崎でどうする!」振り返り

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「どうする家康」走れ阿月。家康は信長へ逆ギレ「あほたわけ」…第14回放送「金ヶ崎でどうする!」振り返り

足利義昭(演:古田新太)を奉じて幕府を再興し、日の本を北から南まで一統する。そんな織田信長(演:岡田准一)の野望に恐怖した浅井長政(演:大貫勇輔)は、信長に叛旗を翻し、背後を衝くため進軍します。

兄の窮地を救うため、長政に嫁いでいたお市(演:北川景子)は密使を放つも失敗。侍女の阿月(演:伊東蒼)が命懸けの伝言に走りました。

一方、浅井の裏切りを予感した徳川家康(演:松本潤)は、信長に対して必死の諫言。信長の機嫌を損ねて訣別しかけるも、柴田勝家(演:吉原光夫)に説得され、思い留まることに。

回りがイエスマンばかりだった信長にとって、弱気ながら真っ向から反論をぶつけて来る家康の存在が新鮮だったことでしょう。

小豆⇒阿月

果たして阿月の伝言を受け取り、家康の正しさを認めざるを得ない信長は直ちに兵を退きます。

殿軍を任された木下藤吉郎(演:ムロツヨシ)と共に浅井長政・朝倉義景(あさくら よしかげ)を迎え撃つのでした……。

さて、統一地方選を挟んで2週間ぶりのNHK大河ドラマ「どうする家康」。第14回放送「金ヶ崎でどうする!」はサブタイトル通り、家康の名場面“金ヶ崎の退口(のきぐち)”が描かれています。

今回はほとんど“カニすくい踊り”とか“走れ阿月”に時間を割かれており、肝心の合戦は次回も描かれないであろうことが残念ですが、実際はどうだったのでしょうか。

江戸幕府の公式記録『徳川実紀(東照宮御実紀)』を参照するほか、それぞれ元ネタを調べて振り返りましょう。

実際はどうした金ヶ崎

金ヶ崎で殿軍を務めた秀吉勢。歌川芳富筆

……ことし弥生信長越前の朝倉左衛門督義景をうたんと軍だちせられ(※原文ママ。ださせられ、か)。又援兵を望まれしかば。君にも遠江三河の勢一万余騎にて。卯月廿五日敦賀といふ所につき給ふ。やがて織田と旗を合せ手筒山の城をせめやぶる。なをふかく攻入て金が崎の城に押よせらるゝ所に。信玄(原文ママ。信長か)のいもと聟近江の浅井備前守長政朝倉にくみし。織田勢のうしろをとりきるよし注進するものありしかば。信長大におどろき。とるものもとりあへず。当家の御陣へは告もやらず。急に朽木谷にかゝり尾州へ迯帰る。木下藤吉郎秀吉にわづか七百騎の勢をつけてのこされたり。秀吉は   君の御陣に来りしかゞゝのよしを申救をこひしかば。快よく請がひたまひ。敵所々に遮りとめんとするをうちやぶりうちやぶり通らせ給ふ。されど敵大勢にて小勢の秀吉を取かこみ秀吉既に危く見えければ。㝡前(最前)秀吉が頼むといひしを捨て行むに。我何の面目ありて再び信長に面を合すべき。進めや者どもと御下知有て。御みづから真先にすゝみ鉄砲をうたせたまへば。義を守る御家人いかで力を尽さゞらん。敵を向の山際までまくり付。風の如くに引とりたまふ。椿峠までのかせ給ひ志ばし人馬の息をやすめ給ふ御馬前へ。秀吉も馬を馳せ来り。もし今日御合力なくば甚危きところ。御影にて秀吉後殿をなしえたりとて謝しにけり。

※『東照宮御実紀』巻二 永禄十二年-元亀元年「信長討朝倉義景」

時は元亀元年(1570年)3月に朝倉義景を討つため信長が兵を発し、家康は一万余騎を率いて援軍に出ました。

4月25日に敦賀へ到着、間もなく信長と共に手筒山城(天筒山城、敦賀城)を攻め破ります。さらに深入りして金ヶ崎城を攻めていたところへ、浅井が裏切ったとの注進が入ります。

何てこった、大変だ……信長は大慌てで尾張へと逃げ出しました。

「徳川殿へ報せは?」

「そんなの要らん!勝手にさせとけ……おい猿、兵七百やるから殿軍をせぇ!」

「へぇありがとうございます……うわ~、これ死んだ!絶対死んだ!」

一方、徳川勢の陣中では、総崩れの織田勢を見ていぶかしみます。

「殿、織田殿が逃げ出して行きますぞ!」

「何かあったのじゃろうか……朝倉勢が一気に攻めかかっておる」

「殿、木下殿から援軍要請が!」

「ここで見捨てたら織田殿へ顔向けできぬ。よし者ども、助けに参るぞ!」

という訳で家康の号令一下、迫りくる朝倉勢を蹴散らして無事に生還を果たしたのでした。

「いや~助かりました。徳川殿のお力がなければ、今ごろ死んどったわ!ギャハハ!」

なんて言ったかどうだか、これが家康の義理堅さと武勇を天下に知らしめた“金ヶ崎の退口”です。

(もちろん徳川視点の文献なので、家康ageで書かれていることは差し引かねばなりませんが)

袋の小豆と阿月の元ネタなど

お市の方。しかし「お引き候へ」を伝える相手は兄・信長でよかったのではなかろうか。

お手玉に密書を詰めて、草(忍び)に持たせてみたものの、あっさり見破られてしまったお市。

「おひき候へ 市」……とりあえず、密書に名前は書かない方がいいですよ?

浅井の武将がわざわざお手玉を持ってきて、目の前で引き裂いていましたが、あれはパフォーマンスのためにわざわざ詰め直したのでしょうか。

確かに忍びが持っていたから怪しい、書状でも仕込んでいるだろうことは察しがつきます。

しかし、もしあれで中に何も入っていなかったら「あなた何してんの?」以外の何ものでもありません。

ということは、お手玉を没収した時点で中身を検閲しているはずです。その上でアレをやるためには、出した中身を全部詰め直す必要があります。

あの場面は「曲者がこんな書状を隠し持っていましてなぁ……」でよかったんじゃないでしょうか。

ともあれ紙がダメなら伝言で、と一路金ヶ崎まで走る阿月。時に追手は何で黙って追うのでしょうか。

どう見ても不審なんだから「止まれ。この先行くこと罷りならぬ」で終わりです。

後、せっかく捕まえたのに「往生せえ」と川に突き落とす場面もいただけません。殺すならちゃんとトドメを刺して下さい。

あなた(追手)の横着で、軍事機密(という程のものかはさておき)が漏れちゃったではありませんか。

水に落として確実に殺せるなら苦労はしない

……ともあれ追手を振り切った(と言うより死んだと見なされた)阿月は十里の道程をひた駆けました。

彼女の走り方は恐らくナンバ走り、手と脚を同時に出すことで疲れにくく、長く走れる古来の走法だとか。ちょっと試してみたいですね。

それでも十里と言えば一里がおよそ4キロだからざっと40キロ。現代ほど道が整備されていないアップダウンの激しい山道を駆け抜けたのであろうため、ついに息絶えてしまいました。

そもそも創作エピソードだから、細かい事は気にしない方向でいきましょう。

ちなみに、この元ネタとなったのはこちら。

……朝倉浅井両端ヨリ我軍勢ヲ一騎モ不残可討取トノ策鏡ニカケテ覚タリ是ヲタトフルニタトヘハ袋ヘ小豆ヲ入跡先ヲ結切テ一粒モヽレサル如クナルヘシ長政カ室家我ニ此㕝ヲ悟レト思フハカリコトニ此小豆ヲ送レル也妹ナカラモ此知慮ハ男子ノ及フ業ニアラスト涙クミテ申サレケレハ一族家老ノ面々モ兄弟ノナサケヲ感し鎧ノ袖ヲソヌラシケル……

※『朝倉義景記(朝倉家記)』

【意訳】朝倉と浅井が織田を挟み撃ちすれば、一人残らず討ち取れるであろう。喩えるならば袋の中へ小豆を入れて口を締めれば一粒ももらさぬようなものである……長政の妻・お市はこの企みを何とか兄の信長へ伝えようと、小豆を送った。

「妹=女ながらも優れた知恵は、男の及ぶところではない」

信長が涙ながらに言うと、陣中の家老たちも兄妹の絆を思い、感涙に鎧の袖を濡らすのであった。

なお、このエピソードは他の史料や文献に記述がないため、史実的な裏づけには欠けます。

有名なエピソードだから入れてもいいとは思うものの、ポッと出てきた完全創作キャラクターが使い捨てのように死んだからと言っても、正直あまり感情移入できません。

「時代に埋もれた女性の活躍、歴史風感動秘話」を描きたかったのかも知れませんが、ちょっと時間を取りすぎです。

それで実在人物の活躍が埋もれてしまっては、歴史を取り扱う上で本末転倒と言わざるを得ません。

今後は実在人物の描写により力を入れてくれることを期待しています。

長政は何で裏切った?そしてどうした朝倉義景?

義の男・浅井長政。落合芳幾筆

「義の男だからこそ、裏切るということもあろうかと!」

珍しく信長に反論する家康。劇中の経緯から、そう思うのも分からなくはないものの、流石に論拠があいまい過ぎやしないでしょうか。

まして「アイツが裏切るかも知れないぞ!」と他人を疑わせる剣呑な主張ですから、より慎重であるべきです。

信長が「二度と辱めるな」など諭すのは、もっともな反応と言えるでしょう。もし用心のためと言うなら、黙って備えを固めて置く程度が妥当です。

何と言うか、長政が裏切るという結果を知っている現代人が、逆算して理屈をひねった感が否めません。

そんなに疑わしければ、みんな大好きハットリ君こと服部半蔵(演:山田孝之)なり女大鼠(演:松本まりか)なり派遣して調べさせればよいではありませんか。

思いつきだけで他人を貶めるのは、信長ならずとも「愉快な戯言ではない」ですからね。

そもそも、今回のテーマである金ヶ崎の退口は、浅井長政がなぜ信長を裏切ったのかが重要ポイントのはず。

少なくとも「妻が何かやらかしたから、怒ってその実家を滅ぼす」……なんて頓珍漢なことは普通しません。お市様、そこはご安心下さいませ。

そもそも、お市が浅井家へ嫁ぐ際に、信長は「浅井と縁の深い朝倉家へは攻め込まない」旨を約束しています。

それを反故にして攻め込んだのですから、浅井家としては信長に叛旗を翻すのも無理はありません。

それでも織田家と朝倉家の板挟みになった長政が葛藤し、自分の信じる正義ゆえに信長を裏切る決断を下す名場面がアッサリ片付けられてしまったのは実に残念でした。

それと、薄々勘づいてはいましたが、朝倉義景は登場しないみたいですね。最期までナレーションや劇中の言及のみで済ませるのでしょう。これまた残念です。

あるいは死後、金粉を施されたドクロ盃として、長政の父・浅井久政(ひさまさ)ともども初登場を果たすのかも知れませんね。

第15回放送は「姉川でどうする!」

越前ガニ。その定義は福井県で水揚げされるオスのズワイガニとのこと(イメージ)

その他、越前ガニ(※)や三河武士への「臆病者」発言(※)など、色々あるけど割愛します。フィクションですし。

(※)素人調べですが、越前ガニって冬の味覚じゃないのでしょうか。いくら戦国時代が寒冷期だからと言って、初夏でも普通に獲れたのでしょうか。

(※)古来、硬骨で偏屈な三河武士が臆病をからかわれたことに憤り、身体を張って抗議した事例は多くあります。

カニすくい踊りを楽しんで笑いをとり、明智光秀(演:酒向芳)がイヤ〜なヤツ≒家康たちの引き立て役になりさえすればいいのです。細かいことを気にしてはいけません。

さて、次週の第15回放送は「姉川でどうする!」サブタイトルどおり姉川の合戦に言及するのでしょう。

しかし肝心の戦闘シーンは割愛(開戦前までモジモジしていた家康が、何かやる気になって一気に終わらせる展開)が予想されます。

歌川国芳「太平記英勇傳 井曽野丹波守貞正(磯野員昌、秀昌)」

終盤にちょっと名前だけ出てきた浅井の猛将・磯野丹波こと磯野員昌(いその かずまさ)の勇姿は、各自で脳内補完がおすすめです。

そろそろ愛妻の瀬名(演:有村架純。築山殿)とも再会したいので、サッサと片付けて三河へ帰りましょう。

果たして来週はどんな展開が待っているのか、ますます目が離せませんね!

※参考文献:

『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』NHK出版、2023年1月 『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション 『朝倉義景記』国立公文書館デジタルアーカイブ 小和田哲男『浅井長政のすべて』新人物往来社、2008年8月 小和田哲男『詳細図説家康記』新人物往来社、2010年3月 二木謙一『徳川家康』ちくま新書、1998年1月

トップ画像:NHK大河ドラマ「どうする家康」公式ページより

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