「どうする家康」武田勝頼、見事なり…え?第22回放送「設楽原の戦い」振り返り

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「どうする家康」武田勝頼、見事なり…え?第22回放送「設楽原の戦い」振り返り

二倍の敵を相手にして、「父を超える」という美学ゆえに多くの将兵を無駄死にへ追いやった稀代の愚将。

残念ながら、あの描写では武田勝頼(演:眞栄田郷敦)をそう断じざるを得ません。

手堅い勝利を百重ねても、一度の神業には及ばない。つまり天下は獲れないと言いますが、それ以前にあなた「織田の脅威が迫っている」のに気づきませんか?

天下を目指すのもいいですが、それ以前に自分の状況を把握しなければ始まりません。

そもそも「天下を獲る」なんて発想は後世の結果論で、亡き父・武田信玄(演:阿部寛)はじめ、ほとんどの戦国大名は自分の領国を豊かにするために戦っていました。

以前「戦いは勝ってからするものであり、勝てない戦は最初からしない」お父上にそう教わりませんでしたか?

かくして勝頼の自己満足に殉じた山県昌景(演:橋本さとし)に対し、「ダメだコイツ。ちょっと身の振り方を考えよう……」とドン引きしていた穴山梅雪(演:田辺誠一)。

これより武田の家運は次第に傾いていくのですが……今週も第22回放送「設楽原の戦い」から、気になるトピックを振り返っていきましょう。

鳶ヶ巣山砦の夜襲

「長篠合戦図屏風」より、鳶ヶ巣山を夜襲する酒井忠次。

……廿日の夜酒井忠次が手だてにより。鳶の巣山にそなへたる武田が後陣を襲はしめらる。……

……折ふし五月雨つよくふりしきりたる夜にまぎれて廣瀬川を渡り。廿一日の明仄敵寨に火をかけ焼立しに。長篠城よりも城門を押開き。九八郎城兵を具して切て出前後より捲り立れば。武田勢は散々になりて信玄が弟兵庫頭信實もうたれ。祖父山君が伏床久間山等の敵の寨ども悉く攻おとされたり。……

※『東照宮御實紀』巻二 天正三年「長篠役(大戦之三)」

勝頼の退路を断つため、鳶ヶ巣山の奇襲作戦を提案した徳川家康(演:松本潤)。

織田信長(演:岡田准一)より「じゃあお前がやれ」と言われて逆上していましたが、ここは「大手柄の好機」と喜ぶところではないのでしょうか。

基本的に他人だのみでわめき散らすばかりの「神の君」。いい加減にしっかりして欲しいところです。

ともあれ武田の背後を衝くため鳶ヶ巣山の奇襲を買って出た酒井忠次(演:大森南朋)。その武勲は『徳川実紀』などに記されています。

天正3年(1575年)5月20日夜、忠次らは鳶ヶ巣山へ奇襲を敢行しました。

強い雨が降るなか広瀬川を渡り、21日の未明に敵陣へ火を放ちます。これを合図に長篠城からも奥平信昌(演:白洲迅)らが出撃。

武田勢は総崩れとなり、川窪信実(かわくぼ のぶざね。信玄の弟)は討死。他の砦もことごとく攻略したのでした。

これによって退路を断たれた勝頼は、前面の家康・信長を攻めざるを得なくなります。

夜陰に乗じて増水した急流を突破し、決死の覚悟で奮戦した忠次の勇姿を、ぜひ拝みたかったですね。

ホントに踊った「海老すくい」

「徳川十六神将図」より、酒井左衛門尉忠次。

……長篠の前竹廣村の弾正山に御陣をすえられけるに。御家人等武田の猛勢を聞おぢして。何となく思ひくしたる様を見そなはし。酒井左衛門尉忠次をめしてゑびすくひの狂言せよと命ぜらる。忠次かしこまりつと立て舞けるが。兼ての絶技なれば一座の者みなゑつぼに入て哄と笑ひ出しにより。三軍恐怖の念いつとなく一散してけり。……

※『東照宮御実紀附録』巻三「長篠役酒井忠次舞海老すくひ」

♪え〜び〜すくい、海老すくい……♪

死を覚悟した忠次が、みんなを励まそうとにわかに踊り出した海老すくい。

井伊万千代(演:板垣李光人。井伊直政)の「何この人たち。正気なのか?」とドン引きしていた様子が印象的でしたね。

社会人経験が長くなると「あぁ、ここはそういう職場なんだな」と合わせられるものですが、いきなり踊り出すのは驚きますよね。

しかし、武田との決戦を前に忠次が海老すくいを踊ったエピソードは『徳川実紀』に記されています。

三方ヶ原合戦(元亀3・1572年12月22日)で武田の恐ろしさが骨身に沁みていた徳川勢。家臣たちの緊張をほぐそうと、家康が忠次に海老すくいを命じたのでした。

♪え〜び〜すくい、海老すくい……♪

その絶妙な狂言が笑いのツボを直撃したのか、家臣一同大爆笑。すっかり緊張が解けて勇気が湧いてきたそうです。

死の恐怖さえ忘れて笑わずにはいられないとは、よほど滑稽だったのでしょう。

残念ながら、海老すくいの歌詞や振り付けは伝わっておらず、大河ドラマはじめ各地で演じられているものは後世のオリジナルです。

強さとユーモアを兼ね備えた酒井忠次。今後もその活躍に期待しています。

三段撃ちはもう古い?劇中で描写された「先着順自由連射」

装填できた者から、次々放て!(イメージ)

長篠・設楽原の戦いといえば、武田の騎馬軍団を柵で食い止め、その向こうから火縄銃で狙い撃ちする描写が有名です。

それまで火縄銃と言えば、一発撃てば次の弾を装填するまでに30〜秒の時間がかかり、騎兵の機動力に勝てないというのが通説でした。

そこで編み出された三段撃ち。三人一組で(1)装填(2)構え(3)撃てをローテーションすることで、火縄銃の連射が可能になると言うのです。

しかし実際に検証してみたところ、装填の遅い者がいると、そこでつかえてしまいます。

これを解消するべく、近年の研究では三段撃ちに代わって先着順自由連射という戦術が考察されました。

先着順自由連射では、あらかじめ射撃列だけ決めておき、装填できた者から列に入って撃ったら後退して装填……を各自で繰り返します。

こうすると三段撃ちに比べて射撃間隔を大幅に短縮できました。

しかしこの方法では各人が不規則に動くため、ぶつかって怪我をしたり銃が暴発したり、等のリスクが考えられます。

そもそも、この戦術が実際に採用されたことを裏づける史料も確認できていないため、今後の究明がまたれます。

いずれにしても、勝利のためには平素からの演練が欠かせないことは、今も昔も(そしていかなる戦術を用いようと)変わりませんね。

織田家中の将兵らが、この日に備えて厳しい訓練を耐え抜いたことを、大いに賞賛してあげて欲しいと思います。

山県昌景の最期

山県昌景の最期、その首級を持ち帰る志村貞盈。東京国立博物館 蔵「長篠合戦図屏風」

山縣衆は味方左の方へ廻り敵の柵の木いはざる右の方へおし出し、うしろよりかゝるべきとはたらくを、家康衆みしり、大久保七郎右衛門てうのはの差物をさし、大久保二郎右衛門金のつりかゞみ(つりがね?)のさし物にて、兄弟と名乗て山縣三郎兵衛衆の、小菅五郎兵衛、廣瀬郷左衛門、三科傳右衛門此三人と詞をかわし、追入おひ出し九度のせり合あり、九度めに三科も小菅も手負引のく、其上山縣三郎兵衛くらの前輪のはずれを鉄砲にて後へ打ぬかれ則ち討死あるを山縣被官志村頸をあげて甲州へ帰る……

※『甲陽軍鑑』巻第十九 五十二品「長篠合戦事」

劇中ではどこからどこまで走っていたのか、銃撃を受けて独り倒れた山県昌景。

火縄銃の有効射程が約50〜100メートルと言いますから、馬防柵からその範囲内で討死していないと不自然ですね。

「辺り一面、死屍累々」という画面映えを優先した結果でしょうが、そういうリアリティに欠ける描写は、どうしても興が醒めてしまいます。

まぁ細かいことは脇において、山県昌景の最期について『甲陽軍鑑』では上の如く書かれていました。

厄介な馬防柵を回りこもうとした山県勢は大久保忠世(演:小手伸也)・大久保忠佐(ただすけ)兄弟と乱戦になります。

両軍譲らず押して押されて九度にもわたる激闘の末、山県昌景は銃弾に斃れてしまいました。

すると山県家臣の志村貞盈(しむら さだみつ)が、主君の首を敵に奪われまいと掻き切り、甲斐国まで持ち帰ったということです。

他にも勝頼を逃がすために殿軍を務めた内藤昌秀(ないとう まさひで)・馬場信春(ばば のぶはる)・笠井高利(かさい たかとし)ほか、名将たちの最期が割愛されたのは残念でしたね。

ともあれ何やかんやで設楽原の合戦は終結。これからの戦はゼニがモノを言うのだ、と高笑いする羽柴秀吉(演:ムロツヨシ)。現代にも通じる嫌な感じすね。

第23回放送「瀬名、覚醒」

ついに織田の軍門に屈した家康(イメージ)「あ~あ……」信康と瀬名の溜息が聞こえてきそう、

かくして信長に完全服従してしまった家康。そして織田の尖兵となって武勇を奮うも、次第に精神を病んでいく松平信康(演:細田佳央太)。

実家の仇敵に屈した情けない夫と、良心の呵責に苦しむ息子を見るに見かねて、ついに瀬名(演:有村架純。築山殿)は覚醒するようです。

「おなごが政をすれば、戦のない世が作れる」

「信長に従う限り、死ぬまで戦の無間地獄……」

これまで言われたことなどを総合すると、信長に対抗するため武田勝頼と内通する流れが見えて来ますね。

さっそく武田家に出入りしている唐人医師の減敬(げん けい)……あれ、もしかして穴山梅雪が変装している設定ですか?見間違いかも知れませんが……。

また、家康「第4の女」となる於愛の方(演:広瀬アリス)も初登場。彼女は嫡男・徳川秀忠(ひでただ)を産むので、よもや使い捨てにはされないでしょう。

聞けば次週から3回にわたり瀬名の最期特集らしいので、皆さんバスタオルをご用意下さい。これからも、目が離せませんね!

※参考文献:

『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション 『甲陽軍鑑 上』国立国会図書館デジタルコレクション

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