昔より人の道徳観や倫理観が低下しているという考えは幻想であるという研究結果
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「昔はお互いに助け合うのが当たり前だった」とか、「自分が子供の頃は家に鍵をかけなくても大丈夫だった」と年配者は話す。
インターネットの普及により、SMSが人を自己中心的にし、以前よりも意地悪で失礼になったと主張する人もいる。
右を向いても左を向いても、嫌ななニュースが絶え間なく報道され続けてており「人間の道徳観や倫理観は年々低下している」と考える人は多い。
だが本当にそうだろうか?人類はどうしようもなく堕落してしまったのか?
心理学者らの新たな研究によると、実際にそんなことはなく、道徳観は比較的安定しており、ただの幻想にすぎないという。
・人間の道徳観・倫理観は低下しているという考えは幻想
心理学者のアダム・マストロヤンニと、ダニエル・ギルバートの研究によると、「人間の道徳観・倫理観(モラル)がどんどん低下している」という考えは、根強い幻想にすぎないという。
「この数十年、世界中の人々に過去と現在のモラルを比較してみてください」と求めてみると、ほぼ全員が、現在のモラルは過去よりも圧倒的に悪くなっていると答えている。
しかし、現在のモラル性について訊ねた調査では、時代が変わっても比較的安定しているという回答だった。
つまり、昔より今のほうがモラルが低下しているという認識はただの思い込みで、誤りであることを示している。
今日、私たちが目にする不愉快な出来事はすべて、今現在始まった新たなことだという強い感覚は、幻想にすぎません『Nature』誌(2023年6月7日付)に掲載された論文の筆頭著者であるマストロヤンニは言う。
モラルが低下していることをわかっているように感じたとしても、それが事実だとわかっている確実な証拠にはならないのです
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・昔から「モラルが衰退している」と言われ続けていた
これは、社会が直面する現実の危機を弱めるという意味ではない、とマストロヤンニは言う。
状況は悪化していないといっても、だからといって、状況が良好だと言っているわけではありません。コーネル大学の哲学教授、ジョン・ドリスは、この研究結果は驚くことではなく、好意的にとらえていると言う。「かつてある詩人も言っています。"世界は常に終わりに近づいている"と」
むしろ、ある中毒が流行していると、最後の中毒の蔓延を忘れてしまっているようなものです。いつの時代も、今の問題が一番悪いと感じるものなのです
研究者が言うように、モラルの衰退という幻想は、いつの時代にもあった。
2000年前、ローマの歴史家リウィウスは、"現代の暗い夜明け"をもたらしたのは、基本的モラルの崩壊だ"と嘆いたという。
それは、過去の政治家たちが選挙活動で利用しようとしている過去へのある種の憧れ、あるいは、特定の家族が夕食のテーブルや集会で訴える世代間の不平のようなものだ。
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・人間は「過去を美化する」習性がある
過去を美化する傾向は、マストロヤンニを長いことイラつかせてきた。
これまでずっと、人々が"昔のほうがよかった"と言うのを聞いてきました。
"昔は、夜、玄関のカギをかけなくても大丈夫だった"とか、"昔の政治家は信頼することができた"とよく言われました。しかし、多くの場合、そうした主張は裏づけがありません
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・過去70年のデータで検証
この推論の仮面をはぐため、マストロヤンニは、ピュー、ギャラップ、エコノミスト、ウォールストリートジャーナルなどの出版物を含む、主要な調査機関が提供する70年分のデータを調べた。
これは、およそ22万人のアメリカ人に、「人々のモラルが時代と共に変化したと思うか」、「どう変化したと思うか」について、質問したものだ。
質問の84%について、大多数のアメリカ人はモラルが悪くなったと答えたことを示していて、ほかの59ヶ国の同じ調査回答でも、同様の結果が得られていたことがわかった。
それでも、1965年から2020年までのほかの調査質問を調べたところ、今現在のモラル状況について評価してもらった450万人の回答者は、安定しているようで、モラルが時代と共にどんどん悪くなっているという考えを裏づけるものはほとんどなかった。
マストロヤンニとギルバートは、論文の中でこう述べている。
世界中の人々は、モラルが悪くなっていると信じていて、研究者がモラルについてたずねる限り、そう思い続けてきた・昔を良いように脚色し、今をネガティブなものにするバイアス
現在と過去のモラルを比較してもらったところ、やはり同じような錯覚にとらわれていることがわかった。
その感じ方は、政治的傾向や年齢によって、わずかに影響がみられた。
保守派や高齢者は、モラルが低くなったとより強く思う傾向にあったが、リベラル派や若者は、同じような考え方の路線に陥りやすかった。
こうした幻想には、いくつかの理由が考えられるが、マストロヤンニは、根深いバイアスの結果かもしれないという。
研究によると、人はその瞬間的にネガティブな情報に対してバイアスがかかるが、ネガティブな出来事は記憶から薄れやすく、昔のほうが良かったと過去を脚色してしまうという。
その結果、バックミラーに一種の歪みが生じる。後方の道は平坦に見えるのに、これから進んでいく道は荒れているように見え、どこかで道を間違えたと決めつけることが多い。
その結果は、重大なものになる可能性がある。ボストン大学の道徳心理学者リアナ・ヤングは、他人の道徳感に影響される可能性があると指摘する。
もし、私がまわりの人たちのモラルが低下していると思ったら、悲観的になって、自身の道徳基準を下げることにつながるかもしれません・モラルが低下しているという幻想から抜け出すには?
「モラルが低下しているというバイアスが、見知らぬ人と話したり、彼らの親切に素直に頼るといった行為そのものを妨げているのかもしれない」とマストロヤンニとギルバートは書いている。
しかし、彼らは幻想を減らす可能性のある方法を見つけ出した。それは、人々に対して、自分自身の人生において、個人のモラルについて考えるよう求めることだ。
誰もが、ある島にいると、自分の島の人々は改善しているが、ほかの島の人々は皆、悪化していると言うものです。でも、ほかの島の人々も同じことを言っているのですReferences:The illusion of moral decline | Nature / Psychologists have identified a pervasive illusion that has existed for at least 70 years / The illusion of moral decline - by Adam Mastroianni / written by konohazuku / edited by / parumo
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