「漫画のことならなんでも相談してください」小川満洋さん(53)「創業20周年を迎えた“漫画屋”の巻」珍談案内人・吉村智樹のこの人、どエライことになってます!

関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■“漫画家”になる夢は破れても少し視点を変えて漫画を仕事に
「私は漫画家ではありません。漫画屋です」
創業20周年を迎えた株式会社「画屋」を営む小川満洋さん(53)は、こう語る。
「画屋」は、漫画の制作をする会社だ。企業パンフレット、商品の説明書、行政の広報物、ウェブメディアなどに掲載する漫画を受注し、社長の彼を筆頭に社員が執筆する。大企業のPRから町内会の回覧板まで発注元は多種多彩。「文章だけでは伝わりにくい事柄も、漫画だと分かりやすい」と好評だ。
「編集プロダクションやデザイン会社は全国にたくさんありますが、販促などに使う漫画に専門特化した事業法人は、おそらく関西で当社だけでしょう」
大阪で生まれ育った小川さん、漫画に関心を抱いたのは小学生の頃だ。
「『ドラえもん』が大好きで、『火の鳥』に衝撃を受けました。手塚先生や藤子先生といったレジェンド漫画家たちがご存命で、大活躍していた時代でしたね。その後、『ルパン三世』や『機動戦士ガンダム』などアニメにもハマり、次々と新しい刺激を受けました」
大学時代、漫画家になる夢を抱き、アルバイトをしながら作品の投稿や持ち込みをした。しかし、残念ながら採用には至らず断念。
卒業後は「絵を描く仕事がしたい」と、ゲーム制作会社の入社試験を受けるも不採用。失意の日々に、転機が訪れた。
「ある企業から“会社案内を漫画にしてほしい”と頼まれました。当時はお金がなかったし、時間はたっぷりあったので、お受けしたんです。そうして漫画を描いて納品すると、とても喜んでくださいましてね。“漫画は漫画雑誌以外にも需要があるんだ”と、気がついたんです」
■漫画が持っている力で世の中に貢献したい!
漫画を求めている人たちは世の中に、たくさんいる。だったら自分は、そのニーズに応えていこう――そう考えた彼は、ビジネスツールとしての漫画を受注制作する「漫画屋」になる決意をする。
「インターネットがまだ普及していない時代、とにかく人が集まっている場所を探して訪れて、名刺を配りまくりました。“漫画のご用命はございませんか”と。なんの実績もなかったですから、足で稼ぐしかなかったんです」
そうしたコツコツとした努力が実り、次第に注文が入るようになった。
「よく分からないから、全部、任せるわ」といった、ざっくりした委託から、セリフの1字1句、線1本1本まで細かいチェックが入るシビアな要求まで、オーダーは十人十色。そのすべてに対応するうちに、人間力も養われていったようだ。
「商品やサービスの価値や、必要性が伝わらず売り上げが伸び悩んでいる人たちを漫画で救いたい。漫画で世の中に貢献したいんです」
漫画家にはなれなかったが、新しい形の漫画で活躍する男が、ここにいる。
あなたも、諦めてしまった夢はないだろうか。小川さんのように視点を変えれば、達成できる道はあるかもしれない。
よしむら・ともき「関西ネタ」を取材しまくるフリーライター&放送作家。路上観察歴30年。オモロイ物、ヘンな物や話には目がない。著書に『VOW やねん』(宝島社)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)など