榊原康政(杉野遥亮)が講義していた言葉の意味は?『論語』が説いた臣下の心得【どうする家康】
「子路、君に事えんことを問う。子曰く『欺くことなかれ。而して、これを犯せ』と」
※NHK大河ドラマ「どうする家康」第31回放送「史上最大の決戦」より
※劇中のセリフに「と」は入っていませんでした。しかし漢文で「曰(のたまわ/いわ)く」と始めた場合、必ず「と」を対に〆るので、ここではあえて入れています。
決戦を前にして、榊原康政(演:杉野遥亮)が若い武士たちに講義していたこの言葉。子路(しろ)という名前からピンと来た方がいるかも知れません。
榊原康政。実際に彼が『論語』を愛読していたかは不明(画像:Wikipedia)
これは孔子(こうし)の教えをまとめた『論語』の一節です。子路は孔子の弟子でした。
その意味するところは、劇中で説明があった通り「臣下たるもの、時として主君の意に添わぬことを諫言せねばならぬ時がある」となります。
そこで今回はこの教えの原文と、もう少し詳しい意味を紹介。大河ドラマの復習になるかも知れません。
主君も自分も欺くなかれ
子路問事君。子曰、勿欺也。而犯之。
※『論語』憲問第十四之二十三
【読み下し】子路、君に事(つか)えんことを問う。子、曰く「欺(あざむ)く勿(なか)れや、而(しこう)して之(これ)を犯せ」と。
【意訳】子路は主君に仕える心構えを孔子に尋ねた。孔子は答えた。「主君を欺いてはならない。そして主君の面子を犯してでも道理を正す意見をせよ」と。
主君を欺くとは、主君の機嫌を損ねないよう、道理に合わぬことでも迎合する態度を言います。
「さすがはご主人様。やることなすこと、何もかも最高です」
それで主君の機嫌はよくなり、あなたは褒美に与かれるかも知れません。少なくとも怒られることはないでしょう。しかし、それが中長期的に見て国家のためになるでしょうか。
主君の回りがおべっか使いばかりになり、誤った政道を正すことがなければ、民は苦しみ遠からず国は滅んでしまいます。
真の忠義とは目先の損得や自己保身ではなく、たとえ主君の面子をつぶしてでも諫言すること。それでたとえ処刑されようと、仕方ありません。諫言が主君のためになり、天下国家のためとなるなら、喜んで命を捨てるのが臣下のあるべき姿というものです。
……しかし、そんなことをしていたら、命がいくつあっても足りなさそうですね。少なくとも立身出世はできないでしょう。それでも主君を欺かず、自分自身を欺くなかれ。どこまでも理想主義を貫いた、実に孔子らしい教えと言えます。
孔子と子路のプロフィール
激しい乱世にあってなお、理想を高く掲げ続けた孔子(画像:Wikipedia)
孔子紀元前552年生~紀元前479年没
古代中国(春秋時代)の思想家。本名は孔丘(こう きゅう)、字は仲尼(ちゅうじ)。乱世を正すべく諸国を回って政治論を説いたが、その理想主義が採用されることはなく在野のまま世を去った。
ただしその思想は広く天下に影響を与え、儒学・儒教として今日まで伝えられている。
子路紀元前543年生~紀元前481年没
孔子の弟子で本名は仲由(ちゅう ゆう)、子路は字。若いころから血の気が多く、そそっかしいところがあるが、純粋で一途な性格が孔子から愛された。
教育の甲斐あって高官に取り立てられるも、政争に巻き込まれて非業の死を遂げる。死の間際に冠が乱れたところ「君子は死に臨んでも冠を正すものだ」と孔子の教えをまっとうしたエピソードは有名。
……他にも孔子には十哲(じってつ。子路も含む)と呼ばれた高弟をはじめ三千人もの弟子がおり、それぞれに活躍しました。
孔子の思想や弟子たちの言行録をまとめた『論語』は日本でも広く愛読されており、日本人の精神性に少なからず影響を与えています。
NHK大河ドラマ「どうする家康」でも今後、折にふれて登場するかも知れませんね。
※参考文献:
金谷治『孔子』講談社学術文庫、1990年8月 金谷治 訳注『論語』岩波文庫、1999年11月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan