体に運動していると勘違いさせ減量と筋肉増強をうながす「運動模倣薬」の開発

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様々な減量治療薬が開発される中、別のアプローチから減量と筋肉増強をうながす薬が開発されようとしている。「運動模倣薬」だ。
米フロリダ大学の研究によると、この薬を接種すると運動したわけではないのに、体が運動したと勘違いし、脂肪を減らしたり、筋肉を増強させる効果があるという。
マウスによる動物実験では、この「運動模倣薬」を与えるだけで、太ったマウスが痩せたり、以前より速く、遠くまで走れるようになったりしたそうだ。
まだ開発の段階だが、ただダイエットに効くだけでなく、歳をとると衰えがちな筋肉を維持するなど、体のサポートにも役立つと考えられるそうで、運動が難しい人にとっては画期的な薬となる。
・体を運動をしていると思い込ませる運動模倣薬のしくみ
フロリダ大学をはじめとするグループが『Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics』(2023年9月22日付)で紹介する運動模倣薬「SLU-PP-332」は、体に運動していると勘違いさせる効果がある。
体は本当に運動しているかのように反応して、痩せたり筋力がアップしたりするというのだ。
なぜそんなことが可能なのか?
筋肉・心臓・脳などはとりわけたくさんのエネルギーを消費する組織だが、その代謝を活発にする「ERR」というタンパク質がある。
このERRにたくさん働いてもらおうと思うなら、普通は運動をするしかない。ところが運動模倣薬は、このERRタンパク質に作用する。
これを注射で接種すると体は事実上マラソンのトレーニングでもしているかのような状態になり、エネルギー消費や脂肪の代謝がアップするのだ。
しかも食欲が増すことはないので、ダイエット中のドカ食いのような失敗はない。ただ接種するだけで、自然に体重が減っていく。
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・マウス実験では減量効果と体力アップを確認
その効果は動物実験で確認されている。
たとえば『ACS Chemical Biology』(2023年3月29日付)に掲載された研究によれば、SLU-PP-332を投与したマウスは、そうでないマウスより70%長く、45%遠くまで走れるようになったという。
さらに最新の研究では、太らせたマウスにこの薬を1日2回、1ヵ月間投与したところ、脂肪の増加が10分の1になり、体重が12%減少することが確認された。
このマウスはそれまでと同じだけエサを食べ、特に運動をしたわけでもなかった。それでもぐんぐん体重が落ちたのだ。研究者曰く、「生きているだけでより多くのエネルギーを消費」するようになるからだ。
また、まだ未発表の研究によれば、SLU-PP-332は心臓の筋肉を鍛えてくれるので、心不全を治療してくれるだろうことも明らかになったという。
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・筋力を上げつつ、減量を目指す
今のところ、運動模倣薬「SLU-PP-332」に危険な副作用は見つかっていない。
研究チームは次のステップとして、薬の構造を変えて、注射ではなく錠剤で服用できるようにすることを目指している。
さらにその後、動物実験できちんと副作用の有無を確かめてから、問題がなければ人間での臨床試験が開始される。
なお運動模倣薬はSLU-PP-332以外にも候補が見つかっているが、今の時点で市販されているものはない。
ちなみにセクチマルド、オゼンピック、ウゴービ、マンジャロなど、痩せるための薬ならばある。だが、こちらはもともと糖尿病の薬として開発されたものだ。
だが研究チームのトーマス・バリス教授によれば、運動模倣薬の使い道として一番期待できるのは、ダイエットなどで筋肉の低下を防ぐことや、高齢者の筋肉の衰えを防ぐことだという。
この薬が完成すれば、いくつになってもたくましい体を維持できるようになるかもしれない。だが、その本当の可能性を完全に理解するには、もっと研究が必要であるとのことだ。
References:Exercise-mimicking drug sheds weight, boosts muscle activity in mice / written by hiroching / edited by / parumo
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