ちょっと待って!江戸時代「安政の大獄」は本当に大弾圧だったのか?井伊直弼の本当の目的と後世の誤解

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ちょっと待って!江戸時代「安政の大獄」は本当に大弾圧だったのか?井伊直弼の本当の目的と後世の誤解

「安政の大獄」の真の目的

皆さんは、幕末期に行われた「安政の大獄」と言えばどのようなイメージを持っているでしょうか。多くの人は、当時の幕府の家老だった井伊直弼(いいなおすけ)が、その権限を利用して尊王攘夷派だった藩士や公家・大名までをも処罰した大弾圧事件だと考えるのではないでしょうか。

井伊直弼像

しかしこの安政の大獄も、実は実態がよく分からないところがあったり、井伊の目的が間違った形で後世に伝えられたりしたところがあり、上記のようなイメージはだいぶ誤解も混ざっているといえるでしょう。

この、井伊によって行われた安政の大獄の本当の目的は、当時の朝廷をけん制することと、将軍の後継者争いに勝利するためだったのです。

どういう意味なのか、詳しく解説します。

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二度目のペリー来航時の徳川幕府の将軍は徳川家定でしたが、彼は病弱で嫡男がいませんでした。よって家定が生きている間に次期将軍を決めておかなければなりません。

そこで候補に挙がったのが、井伊直弼が推薦する紀州徳川家の慶福島津斉彬の推薦する一橋家の慶喜でした。この時の後継争いでは、慶福派が一応の勝利を収めています。

しかし、その後も一橋派には巻き返しを狙う者が大勢おり、慶福を推薦した井伊直弼は気が気ではありませんでした。

そんな中で、孝明天皇は、幕府が天皇の勅許を得ないまま日米修好通商条約を締結したことについて、責任を追及しようとします。さらに外国人を追い払う「攘夷」を求める、いわゆる「戊午の密勅(ぼごのみっちょく)」を複数の藩に送り付け、政治的な影響力を強めていきました。

孝明天皇(Wikipediaより)

井伊直弼自身も日米修好通商条約の締結についてはかなり慎重な姿勢で臨んでいたのですが、孝明天皇の暴走によって幕府はメンツを潰された形になります。

この時、井伊は幕府内の敵対勢力と、それから朝廷と争っていたことになります。こうした状況を打破するために行われたのが、後に安政の大獄と呼ばれるようになる一斉処分だったのです。

つまり井伊の意図は「日米修好通商条約の反対派の弾圧」ではありませんでした。

「大獄」の実態は?

安政の大獄と呼ばれる一斉処分の内容を見ると、井伊は敵対していた一橋派を要職から外して、関係者を相次いで捕縛しています。さらに「戊午の密勅」に関係した公家も、自主という形で処分されました。これが主な処罰対象者です。

幕臣・朝廷・諸藩の家臣や大名まで摘発するというのは異例のやり方で、かなり容赦のないやり方だったのは間違いないようです。この中で、老中暗殺計画を企てた吉田松陰や、他にも橋本佐内などが処刑されたのは有名な話ですね。

吉田松陰の旧宅

ただ、安政の大獄が「大獄」という言葉からイメージされるほどの大弾圧だったのかは疑問です。

そもそも処罰者の人数が史料によってまちまちで、一般に100人以上と言われてはいますが、当時の公家の九条尚忠の書状では75人と記されていますし、そのうち処刑されたのは8人とそう多くありません。厳密には獄死を含めると14人ですが、それ以外は追放や謹慎処分で済んでいました。

西欧や中国で行われたような弾圧事件と比べて、安政の大獄は「大獄」と呼ぶほどのものなのかどうか、微妙なところだと言えるでしょう。

新政府による印象操作説

ではなぜ、この一斉処分事件は「大獄」という強い言葉で表現されるようになったのでしょうか。

考えられるのは、処罰対象者の人数はともかく、全国規模の摘発だったことから「大規模な弾圧」というイメージが定着したことです。また、新政府による印象操作が行われた可能性も捨て切れません。

国の統治者が入れかわった際、新しい統治者が、旧い体制について悪いイメージを植え付けて、自分たちの正当性をアピールしようとするのは世界的に見ても珍しくありません。明治政府もまた、「幕府=悪」のイメージを植え付けるために、討幕を正当化する歴史解釈や価値観を、教育などを通して人々に植え付けていった可能性があります。

安政の大獄では吉田松陰も処刑されているので、明治政府のうち長州藩出身の者は、特に井伊直弼に対して恨みを持っていたかも知れません。

参考資料
日本史の謎検証委員会『図解 幕末 通説のウソ』2022年

トップ画像:「井伊直弼像」 狩野永岳筆 彦根城博物館蔵(Wikipediaより)

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