目撃者が犯人を特定するが難しい理由。サングラスをしているだけで簡単に間違える

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犯罪者の特定において目撃証言は重要な役割を果たすが、不確実性が高いのも事実である。いかに目撃者が犯人を正確に特定するのが難しいかが、新たなる研究で明らかとなった。
人間の顔の識別能力は、現場の明るさや目撃した距離、とりわけサングラスやフードなど、顔を覆っているものの有無に大きく左右されるという。
『Psychology, Crime & Law』(2023年8月16日付)に掲載されたこの研究は、犯罪捜査に影響しかねない目撃情報の正確さついて貴重な洞察をもたらすものだ。
・目撃者の証言は果たして正確なのか?
人間ただの物体よりも、人の顔の方をずっと正確に見分けることができる。この力は日常生活ではもちろんのこと、事件を解決するため目撃情報に頼る警察や裁判所にとってもとても大切なものだ。
ところが、その重要性にもかかわらず、目撃者はしばしば間違えてしまうことがある。
刑事事件のような誰かの人生がかかったような場面では、ごめんなさいでは済まない結果になりかねない。
犯罪現場の状況は、1つとして同じものがない。太陽や照明などの影響で明るさが違うだろうし、目撃者から犯人までの距離も違う。犯人らしき人物は、サングラスやフードをしているかもしれない。
研究チームによると、そうした現場の環境が、目撃者の顔の識別能力に与える影響は、これまでほとんど見落とされてきたという。
上海ニューヨーク大学のトーマス・ナイマン助教らによる今回の研究は、そうした知識の空白を埋めることが目的だった。
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・顔が何かに覆われていると識別精度が大きく低下
今回の実験では、まず参加者(1425人)に”犯人役"の人を見てもらい、その後で容疑者8人の写真からその人物を特定してもらった。
この時、照明の明るさや目撃した距離など、現場の状況はさまざまで、犯人がサングラスやフードなどで顔を隠していることもあった。
その結果まずわかったのは、目撃者と犯人の距離が遠いほど、顔を正確に見分けられなくなるということだこと。
例えば、若年成人の場合、距離5メートルでは96%正解できたが、20メートルでは42%に低下した。
また照明が暗くなっても、識別精度が低下した。ただしその悪影響は、距離によるものに比べると小さかった。
人間の顔の識別能力を1番低下させたのは、顔を隠しているかどうかだ。とりわけ悪影響が見られたのはサングラスで、犯人がそれをかけていると正解率が大きく低下した。
その悪影響は、距離や明るさに比べて、現実の目撃情報を左右しかねないずっと実質的なものだったという。
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・冤罪を防ぐために目撃した時の状況を把握するべき
今回の研究で明らかになったのは、人間は目撃時の状況によって、かなり大きな誤りを犯す可能性があるということだ。
それはある意味当たり前のことだろう。
その当たり前のことをあえて実験で確かめたのは、どのような事件でも、冤罪の可能性が常に潜んでいるからだ。
ナイマン助教は「身に覚えのないことで、警察に逮捕されたと想像してみてください」と語っている。
仮に逮捕の決め手となったのが、たまたま近くを通りかかった人による目撃情報だったとしたらどうだろう。
その時、現場は薄暗く、しかもかなり距離があった。にもかかわらず、警察はその目撃情報を信じているのだ。
そんな人生の大ピンチに直面した時、今回のような研究があれば、目撃者の証言は信頼できず、証拠として不適切と法廷で主張することができる。・目撃情報の信ぴょう性については更なる研究が必要
なおこの研究は、犯罪捜査における重要な示唆に富んでいるが、いくつか考慮すべき限界もある。
1つは、今回の実験は現実の犯行状況を再現したものではないため、その結論を一般化できないことだ。
そしてもう1つは、研究の参加者はその目的を知っており、それが実験結果に影響を与えた可能性があることだ。
「全体として、さらに調査すべきことがまだまだあります」と、ナイマン助教は語っている。
References:New research sheds light on challenges eyewitnesses face in identifying criminals / written by hiroching / edited by / parumo
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