「知的障害」でも「普通」でもない 境界知能の人々が抱える苦しみと生きにくさ (2/2ページ)

新刊JP

2021年にこの女性に対して懲役5年の実刑判決が下された際、裁判長は「就職活動への影響を避けるべく、自らの将来に障害となる女児の存在をなかったものにするため殺害した。身勝手で短絡的」と述べた。

その身勝手さの印象は当然だったのかもしれないが、一方で女性は「境界知能」に相当する人物だった。就職活動では企業に提出するエントリーシートの質問の意味がわからず空欄だらけになることもあった。裁判では「自首」や「殺める」といった言葉が理解できなかったり、自首の意思はなかったか問われて「そんな制度があるなんて知らなかった」と答える場面もあったという。

女性が犯した罪は消えることはないが、女性は明らかに周囲の支援が必要な状態だった。妊娠を相談できる相手がいれば、あるいはエントリーシートを埋めるアドバイスをするなど日常的に手を貸してくれる人が周りにいれば、起きなかった事件だとも言える。

本書によると、後先を考えて行動するのが苦手なことも、誰かに助けを求めるのが苦手なことも、知的障害の特徴の一つだと考えられるという。「境界知能」の人についてもこの傾向はあるようで、こうした人々が「普通の人」として裁かれ、判決が下されることに、本書では疑問が呈されている。

先述の通り、境界知能あるいは軽度の知的障害を持つ人は社会に一定数存在している。問題は彼ら彼女らが周りからそうと気づかれず、密かに本人だけが不自由と生きにくさを抱えて生活しているケースが多い点。本書はこれまでに注目されることのなかった社会の暗い一角に光を投げかける一冊である。

(新刊JP編集部)

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